564 弱肉強食の頂点?
「ん! ピザだ!」
食べやすい様に、半分紙に包まれているカルツォーネをパクリと食べたエギエディルス皇子は、知った味に頷いていた。
半分に折っていないピザももちろん美味しいが、この半月状のカルツォーネも美味しい。しかも、紙に包まれて手が汚れず、歩きながらでも食べられるのがイイ。
「焼くとトマトの甘みが引き立って、美味しいわよね」
「ですね。その甘さと酸味のバランスがまたイイ。平たいピザはピザで美味しいですけど、これはこれで美味しい」
小腹が減ったところで、この熱々のカルツォーネ。
心も体も温まり、歩いているけど小休憩したみたいに、ホッとする。
ガッツリ食べると動きが鈍るので、このちょっとがまたイイ。アーシェスとローレン補佐官も、お腹が満たされて満足そうだった。
「しっかし、魔物という魔物に遭遇しないわねぇ」
暢気に食べ歩き出来るほどに……。
風の噂やマヨンを見た限りでは、グルテニア王国が傾いているのは確かだ。
なら、今までより遥かに魔物と遭遇する確率が高い。ゴルゼンギルまでの道のりはともかく、ウクスナ側に入ったら魔物が出る……とアーシェスは想定していた。なのに、出遭わない。
アーシェスは思わず首を傾げる。
フェリクス王に同行するとはいえ、自分の身は自分でと、それなりの装備や準備をし、心構えもして来た……が食事や雑談が出来るくらいに魔物がいない。
決して出遭いたい訳ではないが、これ程までに何もないと逆に怖い。アーシェスはつい、ボヤかずにはいられなかった。
「この調子だと、フェリクスの言う通り、明日か明後日には着きそうだわ」
フェリクス王という地上最強の護衛がいるとはいえ、最低5日くらいは掛かると想定して来たのに、あっという間に着きそうだ。
久々の外だと気を張っていた分、妙に肩透かしを食らった感じになるから不思議である。
「何故ですかね? 気配がない訳ではないんですけど」
ローレン補佐官も思わず首を捻っていた。
警戒している限り、魔物の気配はある。しかし、何故か襲って来る魔物がいないだけ。たまたまだとしても不自然過ぎる。
ならばと、すぐに考えられるのは1つだけ。
フェリクス王の存在である。
王弟2人が言う様に、フェリクス王の存在が聖樹そのもの。あるいは、それ以上の存在だから、魔物が畏怖して近付かないのかもしれない。
だが、その隣に歩く莉奈をチラッと見て、ローレン補佐官は小さく唸る。
原因は本当にフェリクス王だけか? と。
彼女はフェリクス王みたいに強くない……ハズ。
だが、人以外の生物で頂点に立つ竜が、一目置く……いや、怯える存在だ。
魔物=食い物。その莉奈の思考が、魔物にもダダ漏れだとしたら?
もはや、彼女の存在そのものが、脅威ではなかろうか。
出逢ったが最期のフェリクス王と、自分らを喰らいに来る莉奈。魔物にとってこのコンビは、最恐最悪では?
ローレン補佐官が、前を歩く2人を複雑な心境で見ていた横で、ボソリと呟く声が1つ。
「だから、フェル兄はいつも、やたら強い魔物の群れに俺を放るのか」
ローレン補佐官はその呟きに、目を見張りブルリと震えた。
エギエディルス皇子が兄王とやる特訓は、どうやら鬼……いや悪魔の特訓の様だった。
基本的に、弱い魔物……いや、基本的に魔物はフェリクス王に近寄らない。となれば、フェリクス王と行く討伐や特訓の相手は、必然的に怖いモノ知らずの魔物か、強い魔物になる訳で……。
地上最強の護衛付きだとしても、幼いエギエディルス皇子にはエゲツない。
そんな兄王に揉まれていれば、末っ子エギエディルス皇子が、色んな意味で強くなる訳だと、ローレン補佐官は嘆息を漏らしていたのであった。
◇◇◇
各々、色々な事を考えながら歩き進んでいると、前方を歩いていたフェリクス王が足を止めた。
魔物だとしたら、エギエディルス皇子やローレン補佐官も気付くハズ。
フェリクス王はともかく、2人が装備していた武器を抜く事も、構える様子もない。となると、魔物ではないのか。
莉奈は、足を止めたフェリクス王の側に駆け寄り、視線の先を見た。
「「……」」
同じく寄って来たアーシェスと共にソレを見て、莉奈は思わず反射的に腕を摩ってしまった。




