563 熱々のカルツォーネと莉奈の頬
あけましておめでとうございます!
今年も1年よろしくお願いします。(๑╹ω╹๑ )
「興味があるなら、連れて行ってやろうか?」
「いやいやいや」
フェリクス王がそう言って、悪そうに口端を上げれば、ローレン補佐官は首も手も高速で横に振っていた。
行った事があると言うから、興味本位で訊いただけで、決して行きたい訳ではないのだ。そんな凶暴な魔物がいる場所に、進んで行く気分にはなれなかった。
そんなローレン補佐官とは別に、違った意味で興味を示す声がした。
「倒した魔物はどうしたんですか?」
「素材は……」
武具にと言いかけ、その質問の主が莉奈だと気付いたフェリクス王。
莉奈の問う"どうした"とは何に対してなのか、思わず押し黙っていればーー
ーーきゅるる。
と莉奈の腹が小さく鳴いた。
「……くっ」
皮や骨などの素材や魔物自体に興味がある訳ではなく、やっぱり中身"肉"かとフェリクス王は肩を震わせていた。
「お前はなんで魔物の話で腹を鳴かすかな」
莉奈の腹がどこにいても通常な様に、エギエディルス皇子が呆れていた。
「お昼食べてないから?」
我ながら、いつもどういうタイミングで鳴るのか……。
別にフェリクス王の倒した魔物を想像して、腹が鳴った訳ではない。莉奈は少し恥ずかしいなと思いつつ、お腹を摩っていた。
「リナといると、ここが街の外だって事を忘れそうだわ」
「警戒していた分、気が抜けるんだけど」
アーシェスとローレン補佐官が、気を引き締めていた肩をガックリと落としていた。
変異種イブガシアンと対峙した後という事もあり、いつも以上に警戒していたのに、莉奈はいつでもどこでも通常営業だった。
警戒していた自分達が、バカみたいである。
「お前さ」
「ん?」
「どうでもいいけど、怖くないのかよ?」
竜とやり合う莉奈とはいえ、魔物のいない世界にいたと聞いた。
魔物の数だけなら、普通の人より多く見ているが、生きた魔物はスライム以外は今日が初めてなハズ。さすがの莉奈も、生きた魔物がウヨウヨいる場所は怖いのでは? とエギエディルス皇子は考えていたのだ。
しかし、莉奈からの返答はいつも斜め上である。
「陛下が?」
「違う!!」
確かに、兄王は怖いだろうが、そんなのは今更だ。
エギエディルス皇子が訊きたかったのはそうではない。本音はいつも隠す莉奈の事だから、ひょっとしたら我慢しているのかと考えたのだが……そんな事をチラッとでも感じた自分がバカだった。
「そうか。お前の精神の強靭さは、時と場所を選ばないんだな」
「腹の虫同様にな」
エギエディルス皇子の呆れた様な、感服した様な呟きに、フェリクス王が再び肩を震わせていた。
「……」
王兄弟にディスられた莉奈は、ムスリとしていた。
……が、アーシェスとローレン補佐官はツボったのか、莉奈の背後で笑いを堪えている。
どいつもこいつも失礼過ぎる。
莉奈はさらにむくれるのであった。
◇◇◇
———ゴソゴソ。
小腹が減った莉奈は、魔法鞄から食べ物を探す。
からあげを食べて以降、お茶か水くらいしか口にしていない。てっきりゴルゼンギルかマヨンで、食事休憩があるかと期待していれば、まさかのノンストップ。
変に休憩を挟むと、余計に疲れるからだろうとは想像するが、からあげだけじゃ腹の足しにはならなかった。
「何だ、それ?」
莉奈同様に、ちょっと小腹が減っているのか、エギエディルス皇子がジッと見ていた。
「カルツォーネ」
「「「カルツォーネ」」」
莉奈が料理名を答えれば、皆カルツォーネに釘付けである。
このカルツォーネは、以前、ピザを作った時に作ろうとしていた物。
ザックリ言うと、ピザを半分に折って食べやすくした料理。それが"カルツォーネ"だ。それを紙で包むと、少し厚めのクレープみたいで、食べ歩きにはちょっとイイ。
「ん〜、チーズが伸びる」
それを莉奈は一人で食べ始めていた。
香ばしいピザ生地に、熱々のチーズ。燻製したベーコンの鼻を擽ぐる香りと、ジューシーなトマト。時々、タマネギがシャキシャキするのが堪らなく美味しい。
サラミやウインナーがあったら、もっとイイが……作り方は知っているが、腸詰する工程までが面倒くさい。
「何一人で食ってんだよ」
お腹が空いている時に目の前で食べられると、飢えがより一層増す。
皆の心を代弁するかの様に、エギエディルス皇子が言った。
「だって、人の腹の虫をバカにするんだもん」
あのタイミングで腹が鳴いた自分も何だけど、それを皆で笑ったのだから、食べる権利はないと思う。
莉奈はシレッと返してモグモグしていた。
「「「……」」」
確かにちょっと、いや少しバカにした感はあったかもしれない。
そう思った皆は、何となく罪悪感もあって黙るしかなかった。
———パクッ。
「な、な、な!?」
そんな莉奈の心情や態度なんてお構いなしのフェリクス王。
莉奈の右腕を掴み、自分に引き寄せると、カルツォーネにパクリと一口食らいついていた。
「ピザか」
カリッとした香ばしい生地に、トマトソースとチーズの味。
それが何だか分かったフェリクス王は、納得した様子で、口端に付いたトマトソースを指で掬い舐めていた。
それが妙に色気を感じるのは、フェリクス王の人外過ぎる美貌のせいだろう。
莉奈は食べられたカルツォーネと、フェリクス王を交互に見て、顔が徐々に熱っていた。
「勝手に食べるなーーっ!!」
それを隠すかの様に、莉奈は食べられたカルツォーネをフェリクス王に突き返せば、さらにパクリと食われた。
「何だ。食って欲しいなら、素直に言えよ」
「なっ!?」
食べて欲しくて突き返した訳ではない。
だが、上手のフェリクス王には、何を言っても揶揄われるだけであった。
自分のカルツォーネが減った焦燥感よりも、この残りを口にしたら、間接キスな様な気がして、莉奈の頬はさらに熱くなってしまった。
1つのモノを2人で食べ合う。これではまるで、彼カノのやり取りではないか。
誰もそんな事は意識していないだろうが、何だかこの残りを食べるのが無性に恥ずかしい。
莉奈は恥ずかしさを誤魔化すために、フェリクス王達にカルツォーネを渡す事にした。フェリクス王にはもちろん、食べかけのカルツォーネも押し付けたけど。




