560 ただの通りすがりが、こんなにもありがたいなんて
「「「あ、ありがとうございました!!」」」
莉奈達がゴーレムを破壊し終えた頃、マヨン兵と思われる者達が、放心状態から復活していた。
防壁で完全に観客となっていたマヨン兵達が、慌てて降りて来ると、一斉にフェリクス王にお礼を口にしている。
「礼はいい」
興味なさそうにフェリクス王は一瞥して、来たマヨン兵の隊長らしき人に、今採取したばかりの魔石を2つ放り投げた。
半円を描くようにキラキラと舞う魔石を、隊長は慌てて受け止めていたけど、それは本来なら、討伐に一切参加していないマヨン側に、あげる必要はない素材である。
「いただけるんで?」
「過分だからな」
恐縮そうな隊長に、フェリクス王はそう口にしていたが、アーシェスは呆れていた。
何もしていない者達に過分も何もない。それに、たとえあげるにしても、2つは多いと思っていたのだ。
「亡骸も任せる」
ゴーレムであった物が、そこかしこに転がっていた。
この亡骸を粉砕し土に混ぜて使うと、強固な外壁や防壁になるみたいで、その加工技術がマヨンにあるかは分からないが、腐る訳ではないのであっても困らないだろう。
「しばらくこちらに?」
ゴーレムを一掃したフェリクス王が、しばらく滞在してくれるなら、この街は安泰だ。
隊長は別に、そういう気持ちで訊いた訳ではないが、周りは勝手にそうだったらと願っていた。しかし、フェリクス王は皆のその希望を、即座に打ち砕いた。
「いや、立ち寄っただけだ」
ガッカリしたのはマヨン兵だけではない。近くで聞いていた莉奈も肩を落としていた。
ゴーレム戦を観戦し向上した気分を、少しお茶でも挟んで落ち着かせたかったのだが、そんな時間など与えてくれそうになかった。
周りからは残念そうな声がチラホラ聞こえていたが、誰も大っぴらには言わなかった。
普通であるなら、次に襲って来る魔物に対抗するため、是非滞在をと言い出しそうなものだが、機嫌を損ねる方が怖いと皆は口を噤んでいたのだ。
フェリクス王は他の冒険者と違い、誰かの依頼を受けたりする感じが、一切しないからである。彼自身に目的があり、そこへ向かう途中にたまたま遭遇したから討伐した……そんな雰囲気しかしなかったのだ。
権力や力技で、立ち止まる様なフェリクス王ではないだろうし、要望にも揺らぎないと思われた。となれば、もはや彼を引き止める手段が、マヨン兵にはなかったのである。
フェリクス王の圧倒的な強さを見てしまったため、余計に悲壮感漂うマヨン兵達。
そんなマヨン兵達の心情を知ってかは分からないが、フェリクス王は去り際にこう残した。
「途中、魔物に遭遇したら片付けといてやる」と。
「「「ありがとうございます!!」」」
途端にマヨン兵達は顔に血色が戻り、活気が戻っていた。
フェリクス王のその言葉が、その場限りだったとしても、強い味方が付いた気分になるから不思議である。フェリクス王がこの近くにいる安心感。
それが、マヨン兵達の心に力を与えてくれたのであった。
先を行くフェリクス王の背中と、ゴーレムの残骸を交互に見ながら、莉奈は呟かずにはいられない。
「ゴーレムもフェリクス王にかかれば、肩の埃を叩くようなものだよね」
ゴーレムの変異種だろうが何だろうが、肩に見つけた埃でも叩くみたいに払い除けて終わりだ。だから、そこにいようが驚かないし、疲れたりもしない。
「どうすれば、極められるんだろうか」
「人じゃ無理よ」
フェリクス王の背を追うローレン補佐官が唸っていれば、隣を歩くアーシェスが微苦笑していた。
確かに人では無理だろう。
そんな暢気な会話をしながら、旅に出るフェリクス王パーティに、マヨン兵や冒険者達は何だか苦笑いが漏れていた。
何故なら、これから魔物が蔓延る場所に行くのに、莉奈達は緊張感の欠片も一切ないからである。
怯えるまではいかなくとも、警戒ぐらいしそうなものだ。それが、彼らには微塵も見えなかった。むしろ、ピクニックかハイキングにでも行くみたいに、楽しそうだ。
「「「ご武運を!!」」」
と一応口にしたものの、その言葉はフェリクス王パーティにかけるにはしっくりこない。
だが、フェリクス王達が去った後、そこへ残されたゴーレムの残骸を見て、しっくりこない意味を知る。"ご武運"とは自分達にかける言葉なのだと、気付いたのだ。
「気を引き締めるぞ!!」
「「「おぉーーっ!!」」」
隊長がそう奮い立たせれば、マヨン兵だけでなく、冒険者達も気合いを入れ直すため、声を上げたのであった。




