56 ネコは被りきれない
……くくっ。
この凍える様な空気に、一つの漏れた笑いが。
「……お前……本性はそういうヤツか……」
実に愉快そうに、口端を歪めるフェリクス王。うわべだけの莉奈しか見たことがなかったフェリクス王は、どこか面白そうに言った。
「国王陛下の御前で、大変失礼致しました」
今さら感たっぷりだが、深々と頭を下げ謝罪してみる。
面白そうにしているのだから、怒っている訳ではなさそうだ。
「今さら、イイ子ぶるなよ……リナ?」
「ぶってるのではなく "イイ子" なのですよ。国王陛下?」
莉奈はにっこり微笑み、どうにでもなれ……と、少しだけ"素"をだしてみた。"気に入らん"と斬られたら斬られただし、本当に今さらだ。不敬なら、もうすでにエギエディルス皇子に、たっぷりしている。
リナ!? リナーーー!!
そんな返しをした莉奈に、ラナ、モニカは声にならない声を、心の中で叫んでいた。そんな軽口、不敬もいい処である。
何かが起きる……そう思った面々は目を瞑った。その瞬間……。
「ぷっ……あはははっ!!」
フェリクス王が声を出して笑った。どうやらその返答は、お気に召したらしい。
「「「「「………………っ!?」」」」」
王弟以外、全員驚愕したまま、固まった。
何かが起きる、と思っていただけに余計に驚愕していた。
そしておそらく、フェリクス王の初めての笑い声を聞いたのであった。
「…………はぁぁ」
その姿に何を思ったのか、シュゼル皇子はこめかみを押さえ、深い深いため息を一つ吐いた。不敬を働いた莉奈に対してなのか、声を上げて笑うフェリクス王に対してなのか、それは当人にしかわからない。
「……お前……面白いな」
フェリクス王はニヤリと笑った。当然なのだが、自分の周りでこんな事を言える者は、身内を除けばほぼいない。
それが、女となれば莉奈が初めてだと…いってもいい。
「さようでございますか……」
こういう所は、弟のエギエディルス皇子に似ているな……と思う。
「随分と分厚いネコを被っていたとはな……」
「 "分厚い" は、余計にございます」
特に太った私には……という言葉はグッと飲み込む。
「…………ふっ」
フェリクス王はこういうやり取りを、普段出来ない分楽しんでいる様だった。
「なっ? コイツ面白いだろ?」
エギエディルス皇子は、実に誇らしげに言った。
エドくん?
何が "なっ?" なのかな?
普段、この人達に私の事をどういう人だと話しているのかね。
事と次第によっては、教育的指導をさせて頂きますけど!?




