55 あれれ……?
莉奈は、もう……色々と諦めた。
「フェリクス陛下……まずは、朝早くからこの様な所に御呼びだてした事を、心より深く謝罪致します」
莉奈は仕方なく、頭を下げた。そう仕方なくだ。
「御託はいい」
さっさと本題にしろ……と、脅迫めいた視線が頭に突き刺さる。
莉奈は、覚悟を決めてすべてをぶちまける事にした。
「アイスクリームなる "氷菓子" を作るべく、冷凍庫を作って頂きましたが……それは早急に出来る物ではございません。しかし……"氷の魔法" が使える人と "豪腕な人" がいれば、短時間で作れるかも……と云う私めの、小さな小さな呟きを耳にした、どこぞの宰相様が、早急に口にしたいと……私的な私的な欲求のために、この国随一の豪腕の持ち主で在らせられる、フェリクス陛下をお連れした次第であります」
…………あ~スッキリした。
言ってやったぞー!!
厨房にいた人達は、莉奈が臆せずフェリクス王に言いたい事を、言い切った事に唖然とした。だが、それと同時に感嘆してもいた。自分だったら、絶対無理だと断言出来る。
「…………シュゼル……」
フェリクス王の冷ややかな視線が、弟に突き刺さる。莉奈が呼んでるみたいな言い草だったが、私的な話だとわかり声のトーンが下がった。
「え~と。善は急げと云うではないですか?」
この状況の中、何事もないようにしれっと言うシュゼル皇子。
ーーーパシン。
軽い平手がシュゼル皇子の頭上に落ちた。
「急ぐ必要がどこにある?」
「…………ここにある?」
と、首を傾げてみれば
ーーーパシン。
と、さらに一つシュゼル皇子の頭に落ちた。
何してるのかな? コントですか?
王族漫才始めました?
「……リナ……それで、私達は何をすれば……?」
フェリクス王の言い分を、華麗にスルーしたシュゼル皇子が莉奈に微笑んで言う。あくまでも作る気らしい。
「…………はぇ?」
この状況の中、急に話を振ってきたシュゼル皇子にビックリして、またもや思わず変な声が出た。
……ぷっ。
どこからともなく、吹き出す声がした。
「リナ……お前、なんつー声出してんだよ」
気が抜けた様な返事を返した莉奈に、エギエディルス皇子が吹き出していた。
「いや……だって、あんな華麗にスルーする? 陛下も皆も忙しいんだから、とっとと帰れっ……」
「リ~ナ~?」
シュゼル皇子は、莉奈の言葉を遮る様に微笑んだ。莉奈はエギエディルス皇子にだけに、言ったつもりだったのだが、駄々漏れだったらしい。
「…………」
今さらだが、漏れた口を手で押さえた。
……あれれ? なんで口から出ちゃったのかな?
莉奈のその言動に、リック料理長達だけでなく、執事長、魔法省長官までが、青ざめていた。
……あれ~?
私、大丈夫かな……?




