549 呪いの壺
「王宮……ロイヤルカープス……」
フェリクス王達が壺についてあぁだこうだと言っている横で、ダンが唖然としていた。
王宮御用達は別に王宮専用ではない。ないが、ロイヤルカープスラーゲンなる食器は別である。庶民はまず持っていない。
何故かと言えば、庶民向けの可愛い値段ではないからだ。
背伸びすれば買えるコーイマと違って、ひと月かふた月分の給料を注ぎ込んでやっと買える代物。それも、大抵の場合は、使用するために買う訳ではなく飾るため。
普段使いなんて、とてもじゃないが無理だ。
なのにこの子達は、普段から使っているらしい。となると考えられるのは相当な富豪か貴族。え、まさか……王族?
ダンはまさかなと、頭をブンブンと振っていた。
「本物と分かっても、結局は査定が出来なきゃ話にならないわね」
「ギルドで査定してもらうのが、一番ですかね」
アーシェスとローレン補佐官がどうしたものかと、不気味に光るオルガンの壺を見ていた。
商人ギルドにも"鑑定士"はいるから鑑定をしてもらえるし、鑑定書を発行して貰える。だが、商人ギルドでも古物商と同じで、採算の合わない物は買い取ってくれない。需要がある街の商人ギルドの方が、高額取引きされるのである。
そんな話し合いをしている横で、莉奈はまだコーイマの壺を見ていた。
「ねぇ。ひょっとしてコレ、全部目じゃないかな?」
「キモい事言うなよ」
「だって、この葉みたいなもの全部目に見えるよ?」
「……」
目と言われると、模様が全て目に見える。
小さな目や大きな目が、向きを変え形を変え、蔦に絡まる葉のようにくっついている。
莉奈もエギエディルス皇子もオルガンの壺の模様が、もはや複数の目にしか見えなくなっていた。
「部屋を真っ暗にして鑑賞するのが、このオルガンの壺なんじゃない?」
周りが明るい所より、暗闇の方が模様の陰影がハッキリしそうだ。
どの程度明るいのか不明だが、真っ暗な部屋の真ん中にコレを置けばプラネタリウムみたいに、天井や壁一面にキラキラと映るかもしれない。
ただ、星々ではなく、大小たくさんの目だが……。
「気持ち悪っ!!」
エギエディルス皇子に楽しみ方を教えてあげれば、ブルリと身体を震わせていた。
確かに天井や壁に星空が広がるから綺麗な訳で、目は論外だよね。防犯にはイイのではなかろうか。
「"呪いの壺"だ」
そう口にし、怯えまくっているのはチャーリーだった。
光る壺を綺麗と取るか、不気味と取るか、それは人それぞれである。チャーリーは不気味だと感じるらしく、光る壺から目を逸らし父のダンの腕にしがみついていた。
「置いてくれば良かった」
息子チャーリーが怯える壺など、持って来なければ良かったとダンはチャーリーの背中を撫でていた。
高かろうが安かろうが、持っているのが不運の元の様な気さえした。
「早々にギルドで売ってしまうのが、一番かもしれないわね」
気に入れば買っても良かったが、これはいらない。
アーシェスがまだ光る壺を何とも言えない表情で見ていた。
いつまで光り続けるのか。魔力の差だとしたら、いつまで光っているのか分からない。だってコレは、フェリクス王が入れた魔法水なのだから。
「よっこらしょ」
商人ギルドで査定だなと思った莉奈は、フェリクス王に言われるまでもなくオルガンの壺を、そのまま魔法鞄に入れた。
莉奈の掛け声にフェリクス王達は笑い、チャーリーは目を丸くさせるのだった。
◇◇◇
商人ギルドは街のほぼ中心部にある。
国境の街であるゴルゼンギルは大きな街のため、そこまではさすがに徒歩ではなく、移動は乗り合い馬車だった。
以前と同じく荷台には乗らず、幌馬車の縁に立ち乗りにすれば、風を切る感覚が楽しい。
時々、段差でガタンと揺れたりするが、それさえもアトラクションみたいで面白かった。
「ちゃんと手すりに掴まってろよ?」
「うん!」
「あぁ、ぁ」
エギエディルス皇子も莉奈同様に縁に立つものだから、チャーリーも真似て縁に立ち乗りする。
細い足場に手すりしかない縁。父ダンは、落ちないか心配なのか終始荷台の窓から、ハラハラとした表情で見ていた。
フェリクス王が幌馬車の屋根に、ドカリと座って見守っているのだから、落ちてケガをする事など絶対にない。しかし、ダンには心配しかないのだろう。
フェリクス王の向かいに座るローレン補佐官も、はしゃぐエギエディルス皇子達を見て、小さく笑いつつ優しく見守るのだった。
アーシェスは空いていた荷台に、自前のクッションを敷いて座っていたけど。
——馬車に揺られる事、十数分。
商人ギルドに着いた。
街の外側から見えた時計台は、この商人ギルドの物だった。
王都リヨン同様の木とレンガ造りの建物は、役所か学校の校舎並みに大きい。その建物の真ん中に、シンボルの様に背の高い時計台が聳え立つ。
遠くからでも目印としてわざと高くしているそうだが、真下にいると時計の針は見えづらい。あまりの高さに首がもげそうだ。
「お前は魚か」
餌を求める鯉の様に、口を開けて見上げていた莉奈を見て笑っていた。
空を仰ぐと、何故か口が開くのだから仕方がない。




