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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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547 チョロチョロと



「"オルガン"って確か……新進気鋭とか言われている陶芸家じゃなかったかしら?」

 アーシェスが耳にした事があるのか、顎に手をおき考えながら口にした。

 最近、噂になり始めたくらいの、まだまだ若い陶芸家がこのオルガンらしい。コーイマを継承しているものの、模様も造形も独創的過ぎて本家に比べてまだ知名度は低い。

 ただ、この壺。コーイマの代名詞である白い磁肌、その上をコバルト色の顔料で染付されているから、コーイマである事は間違いない。

 ポピュラーなコーイマと違い模様こそ独特だが、それが一部の富裕層にウケがいいとか。しかも、魔法の水に反応して色が変化するのは面白いと、徐々に人気が出始めているとか。



 だが、庶民ウケはしない。

 なにせ、コーイマ自体が高いのに、変化を楽しむなら"魔法の水"が必要なわけで、魔石か魔法を使える人がいなければ、せっかくのオルガンが楽しめないからだ。

 コーイマの陶磁器は元より高い。魔石も貴重で高い。オマケに魔法を使える人はさらに稀少。どこの世界も名高い陶磁器は、庶民には縁のない物なのである。



「じゃあ、本物なら高く売れるの?」

 薄っすら事情を理解しているチャーリーが、希望の眼差しでアーシェスを見上げていた。

 それにはアーシェスも苦笑いである。

「そうねぇ。高く売るには、しっかりした"鑑定書"が必要ね」

 莉奈みたいな素人が、ただ魔法の技能スキルで視ただけでなく、しっかりした骨董品"鑑定士"による査定と【鑑定】によって作成される【鑑定書】である。

 高く売りたいなら、最低でも名のある鑑定士による鑑定書は必要だ。

 そして、売る店や人も考えないといけない。

 正規の古物商や骨董品屋、または陶磁器店などで取り引きしないと、贋作だ鑑定書が偽物だと難クセ付けられ、安値で叩かれる恐れもある。

 こちらが本物だと言ったところで、結局は買う側がどう判断するかだ。ノウハウを知らない素人が、プロにやり込められる未来しか視えない。



「ダンさん。"鑑定士"の資格とかは持っていないんですか?」

 古物や空石を取り扱っているのだから、鑑定士の資格があるのかなと、莉奈は単純にそう思った。

 だが、話を聞くと古物を取り扱うのに必要なのは"古物商許可証"で、鑑定士の免許は特に必要ないらしい。

「残念ながら、古物商の許可しか持ってないんですよ。ずっと取ろう取ろうと考えてはいたんですが、なにぶん義父母に店番を頼むと、レジのお金まで使われてしまうので……」

 苦々しく笑いながら、ダンは頬を掻いていた。

 散財する事しか頭にない義父母に、宝石が大好きな嫁。必要経費にまで手を付けるらしく、おちおち店を任せられなかったとの話だった。

 チャーリーが店番出来る年齢になったら、任せて資格を取りに行こうと考えていた様だ。



「え? 店、潰れるんじゃね?」

「店だけで済めばイイがな」

 誰もが思っている事を、エギエディルス皇子が溜め息と一緒に漏らせば、フェリクス王が苦笑いしていた。

 ダンがいなければ空石を仕入れられない上に、金銭面をしっかり管理する者が誰もいない。支えていた者を追い出せば、後は当然、坂道を転がるだけである。

 店と家が別なら、店を売却すれば家は残る可能性はあるが、家族経営の小さな店の場合、店舗兼家である事が多い。借金が残らなければ御の字だろう。

「ねぇ。そういうのって、"因果応報""自業自得"って言うんだよね?」

 学校で学んだよ?

 と屈託のない笑顔でサラッと言ったチャーリー。

 母や祖父母が苦境に立たされるし、生家が潰れる訳だが、彼には双方に大した思い入れはないらしい。

 それはそれで、ダンは色々と複雑だ。何とも言えない表情になってしまった。

「人生って、日々学びの場なんだな」

 エギエディルス皇子も何か思うところがあるのか、どこか遠くを見ていた。

 幼い頃から過酷な環境で育ったエギエディルス皇子。複雑な環境で育ったチャーリー。どちらもグレてもおかしくない環境だが、この2人はグレるより、達観した子になりそうだと、莉奈は思う。

 そんな2人の小さな頭を、フェリクス王はわしゃわしゃと撫で回すのであった。




 ◇◇◇





「とりあえず、リナ。コレに水を入れてみろ」

「え?」

「色が変わるんだろ?」

「まぁ、はい。そうみたいですけど?」

 フェリクス王の無茶振りに、莉奈は目を丸くさせていた。

 このオルガン製の壺に水を入れろと言われたが、話の流れからして水とは、魔法の水でただの水ではないだろう。

 だが、せっかく4属性もの魔法が使える莉奈であるが、得意ではない。

「いいからやれ」

 ここには自分以外にも魔法を使える人がいるのに、何故莉奈を選んだ。

 なんなら、フェリクス王がやればイイではないか。莉奈が壺を見て唸っていると、フェリクス王に早くやれと頭を叩かれた。理不尽である。



「お姉ちゃん、魔法使えるの!?」

 莉奈が魔法を使うと知り、チャーリーが羨望の眼差しで見つめていた。

 だが、何度でも言う。使えるからといって得意な訳ではない。

 だから、そんなキラキラした瞳で見ないで欲しい。





 ——チョロチョロチョロ。





 気合いを入れて魔法を繰り出せば、莉奈の翳した手の平から、大量……いや少量の水がチョロチョロと。

 莉奈の想像の中では、パッと翳してパッと壺に溢れんばかりの魔法水が入る予定だった。

 しかし、予定はあくまでも予定。現実はいつも世知辛いものだ。

 莉奈の手の平からは、締まりのない蛇口から出る水みたいに、元気のない水が出るだけだった。

「え? ぇ?」

 お姉ちゃん本気? という表情で、チャーリーは莉奈と手の平を交互に見ていた。

 だが、莉奈がふざけている訳ではない。本気と書いてマジだ。

 魔法=かっこイイ。

 チャーリーの中でずっとそう信じていた幻想が今、ガラガラと音を立てて崩れていった。

 魔法がダサいと思う日が来るだなんて、想像もしなかった。

 チャーリーは莉奈の魔法を見ながら愕然とし、石の様に固まっていた。

「「「ぷっ!」」」

 その魔法を見たエギエディルス皇子達は、吹き出していたけど。

 莉奈の魔法は、いつも想定外だ。一体どうすれば、そんな魔法を使えるのか逆に訊きたいと、お腹を抱えている。




「やる気のねぇ魔法だな。おい」

「やる気のある魔法って何ですか!?」

 皆に笑われるだけでなく、フェリクス王にも失笑され、莉奈は頬を膨らませるばかりである。

 だから、やりたくなかったのに、これではまるで晒し者ではないか。

 時間が掛かるだけで、この間がツライ。





 ——パチン。





 見かねたフェリクス王が指を鳴らせば、壺の中には水が一瞬でなみなみと入っていた。莉奈の魔法とは大違いである。

「カッコイイ〜ッ!!」

 フェリクス王の魔法を見たチャーリーが、莉奈が使った魔法の存在を光の速さで上書きし、キラッキラに瞳を輝かせて見惚れていた。

 魔法はやっぱり、こうでなければ。

 カッコイイのが"魔法"だ。

 チャーリーの中で莉奈が使った魔法など、すぐになかった事にされているのだった。

「げせぬ」

 始めからそうすれば、いらぬ恥を掻かなかったのに!

 莉奈がブツブツ言えばーー





 ———グリグリグリ。





 フェリクス王に、頭を撫でくり回された。













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