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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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546 花より団子ならぬ、酒より団子



 そんな莉奈の頭を、フェリクス王が何故かグリグリとしていた。

「お前が作るカクテルも、甘口と辛口とあるだろ?」

「ですね?」

「お前はいつも適当に言っているみたいだが、"甘口"と一言で言っても色々ある。本当に甘い"味"がする甘口と、甘い香りが鼻に抜けるだけの"風味"のみの甘口」

「なるほど?」

「酒は概ね"醸造酒"、"蒸留酒"、"混成酒"に分類される訳だが、甘口と言われる酒は、風味だけの事がままある。ただ"混成酒"、いわゆる"リキュール"と言われているヤツだけは、香りだけでなく実際に口当たりも甘い。で、この芋焼酎は鑑定通りの蒸留酒になるなら、おそらくは香りが甘いだけの酒で、味は甘くないと想像する。ちなみにリキュールは何故——」

 普段、余計な話なんて絶対にしないフェリクス王が、ものスゴく饒舌だ。

 聞いてもいない事まで、色々と説明してくれている。

 要は、お酒の甘口には、あくまで"風味"として鼻に感じる間接的な甘さと、"味"として直接舌に感じる甘さの2種類ある……という事らしい。

 莉奈はいつも適当で、そこまでの知識はなかったから、フェリクス王の話は勉強になる。





 ——なるが。





 莉奈の興味は自分が飲めない酒より、身近な芋だ。

 酒が甘かろうが辛かろうが、正直言ってどうでもいい。今、気になるのは、この畑の芋の色や形がどうなのか、そして美味しいのかである。

「興味ねぇからって、俺を無視して土なんか弄り始めるんじゃねぇよ」

 心が態度に出てしまった。

 フェリクス王が説明をしているのに、すぐに飽きてしまった莉奈は、落ちていた小枝で畑の土を穿ほじっていたのである。

 フェリクス王は笑っているが、国王の話を遮るのもあり得ないし、無視なんてもっとあり得ない。

 フェリクス王が寛大でなければ、莉奈の命なんていくつあっても足りない。

「だって、話が高尚過ぎて、ついていけないんですよ」

「あ゛ぁ? 何が高尚だ。俺よりお前の方が詳しいだろうが」

 所詮は素人だから偏ったり間違いもままあるが、飲食に関しての莉奈の知識は、自分より遥かに豊富だ。それを高尚と言うのだから、返す言葉もない。

 フェリクス王は適当な言い訳に呆れつつ、しゃがんでいた莉奈の襟首をグイッと掴んで立ち上がらせた。

「ぐえっ」

 首が締まって変な声が出た。

「猫が潰れた様な声を出してるんじゃねぇ」

「えぇっ!? 猫、潰した事があるんですか!?」





 ——ドス!!





「いったぁぁい!」

 莉奈が驚愕し怯えた声を出せば、フェリクス王の容赦ない手刀が、莉奈の頭に落ちてきた。

 例えだと分かっていても、知った様な言い草だったから、つい口から出たのは仕方がない。だって、魔王だもの。

「見てて飽きないわよねぇ、リナって」

 そのやり取りを見ていたアーシェスが、しみじみと言っていた。

 莉奈の斜め上の発想が、一周回って面白い。フェリクス王も同様なのか、会話を楽しんでいるのがよく分かる。

「ヒヤヒヤしますけどね?」

 肝が据わりきった莉奈はともかく、マトモな感覚のローレン補佐官は、毎度のやり取りに背筋がヒヤリとする。

 いつ何時、何があってもおかしくない。

「まぁ、フェル兄に斬られたところで、"んぎゃ"で終わるんじゃね?」

 泣き叫ぶ暇もないだろうが、あっても助けてと願う莉奈じゃない。

 むしろ、フェリクス王に斬られるのは本望な様な気がする。

 


「「確かに」」

 アーシェスとローレンが顔を見合わせて、エギエディルス皇子の言い草に笑っていた。

 そんな最期も莉奈らしいなと、思う今日この頃だった。





 ◇◇◇

 




 【コーイマの壺】

 オルガンによって作られた陶磁器。

 白い磁肌にコバルト色の顔料で染付され、特殊な釉薬を使用しているのが特徴的な壺である。


 〈用途〉

 サウエル山脈の一部にある陶石を粉砕した粘土を使用し、コバルトの鉱石を含んだ顔料で染付けされ、仕上げに魔法水とサズの木の皮の灰を、特別な配合で混ぜた釉薬を塗って作られている。

 コーイマの代名詞であるコバルト色の顔料で手作業で絵付されてあり、枯淡の味わいがある。白地にコバルト色の顔料が少し滲んで、儚げにボヤけているのが、特徴的。



 〈その他〉

 食用ではない。

 魔法の水を入れるとコバルト色の顔料と釉薬が反応し、青から虹色に変化する。

 



「オルガン? 虹色?」

 莉奈はその"コーイマの壺"を、言われた通りに【鑑定】したが、表示に唸っていた。

 ダンが探し出した木箱は、かなりの大きさだった。

 その木箱の中で、木屑に埋もれていた壺を取り出せば、莉奈の膝より少し高いくらいの背丈があった。

 ザッと見た感じでは、キズ1つなさそうである。

 壺の外側は白い地肌に、独特な模様が染付されてあるが、独特過ぎて莉奈には良さが分からなかった。

 コレがコーイマ定番の模様なのだろうか?

 とりあえず、コーイマの壺と表示されているのだから、本物だと推測するが、ならば偽物は偽物と表示されるのか、それすら分からない。

 分からないといえば、この"食用ではない"って表示。

 誰が壺を食べると思うかな?

 莉奈は自分の鑑定に文句を言いながらも、もう少し【検索】をかけて視る事にした。




 【オルガン】

 サン=コーイマの子孫。

 コーイマの伝統的な技法を使って製作された陶磁器。

 その技法に独創性を足したのが、オルガンオリジナル。そのオルガン最大の特徴は、特殊配合された釉薬である。

 陶磁器を魔法水に浸したり入れたりする事により、釉薬が魔法水に反応し、青から虹色になる不思議な陶磁器。



 なるほど……?

 オルガンの陶磁器は、魔法水に反応するのが特徴。そして、この陶磁器は青の模様が虹色に色が変わると表示されているのだから、コレはオルガン製作の物で間違いない。

 ただ、サン=コーイマの子孫、オルガン製の壺に価値があるのか、莉奈にはまったく分からなかった。



「本物なのか?」

 ブツクサと文句を言っている莉奈に、エギエディルス皇子が問う。

 莉奈の鑑定は、莉奈にしか表示が視えないのだ。気になってしょうがない。

「えっと、よく分からないけど……コレはコーイマの壺? で間違いなさそうだけど、サン=コーイマの作品じゃなくてサン=コーイマの子孫オルガンの作品」

「オルガン?」

「そう。で、この壺に魔法の水を入れると、青い模様が虹色になるらしいよ?」

「はぁ? 虹色に??」

 サン=コーイマの子孫と言うのも驚きだが、壺に魔法の水を入れると変化するなんて聞いた事がない。

 莉奈の鑑定に、エギエディルス皇子は眉根を寄せるのであった。








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