539 Eランク冒険者、爆誕
ダン親子と共に、ゴルゼンギルに向かって歩き始めたが、やっぱり魔物の姿が全然ない。
それが平穏で良い事だと分かっていても、莉奈はついキョロキョロと魔物を探してしまう。動物園に行って動物を見ないのと、似たような感覚になっていた。
時折、何かの鳴き声は聞こえるが、それが何か分からない。初めこそ、葉がギザギザだったり、花が異様に大きかったり、花屋でも見た事のない草花も見かけ楽しんでいたが、さすがに何時間もは飽きてくる。
魔物のいる森ではなく、もはや植物園を歩いている状態だった。
莉奈は魔物が見たい。
あんな植物か魔物かよく分からない魔物ではなく、ハッキリと魔物だと分かるモノ。フェリクス王がいるおかげか、恐怖より好奇心の方がドンドン増していた。
そんな莉奈が見上げたり、草むらを見たりしていると、草陰にチラッと何かが動いているのが見えた。
プヨプヨしているあの姿は、スライムである。しかも黒。
「黒糖」
「あ゛?」
思わず呟いた莉奈の声を聞き、エギエディルス皇子は莉奈の視線の先を追った。
魔物でもいたのかと一瞬、警戒して見れば、草陰で黒スライムがぴょんぴょん跳ねていた。
「……」
そのスライムを見て瞳をキラキラさせている莉奈に、エギエディルス皇子はドン引きである。
コイツ、絶対に倒して食う気でいると。
「お姉ちゃん、何見てるの?」
フェリクス王と先頭を歩いていたチャーリーが、立ち止まっている莉奈に気付き小走りに寄って来た。
「あ、スライムだ」
幼い子供なら弱小魔物であるスライムでも脅威だが、フェリクス王が側にいれば莉奈と同じく怖くないのか、チャーリーも楽しそうだ。
「行って来い」
倒して来てイイですか? とお伺いを立てる様な莉奈の表情に、フェリクス王は苦笑いし許可を出していた。
ではと言うが早いか、莉奈は黒スライムに突進して行ったのである。
「え、リナ?」
スライム事情をまったく知らないアーシェスは、莉奈が何故スライムに突撃して行ったのか分からない。
「突然、スライムなんか追っ掛けてどうしたの?」
「食うんだよ」
「え?」
「食うんだよ」
エギエディルス皇子がザックリと説明すれば、アーシェスは耳がおかしくなったのかと何度も確認していた。
「食べ……え?」
「食うんだよ。アイツ」
「「えぇェェーーッ!?」」
エギエディルス皇子の何度目かの返答に、やっと理解したアーシェスと、隣で聞いていたチャーリーが驚愕の表情で叫びを上げた。
静かな森には、その声に驚いた鳥達の羽音がバサバサと聞こえていた。
鳥もビックリである。
「あのお姉ちゃん、アレ食べるのーーっ!?」
だってスライムだよと、チャーリーは莉奈の消えた草むらを目を丸くさせて見ていた。
「ちょ、スライムって食べられるの!?」
フェリクス王に訊いたアーシェスだったが、フェリクス王は微苦笑するだけだった。
俺に訊くなという事だろう。
「「「……」」」
アーシェスやダン親子が唖然としていれば、そんな遠くない場所で、ボカスカと何か鈍い音がしていた。
時々、激しく打ちつけられる様な音もあるが、誰一人として動かなかった。何故なら、莉奈に何かあったと思う者はココにはいないからである。
「あれで"冒険者"じゃねぇっていうなら、何が冒険者なんだよ」
エギエディルス皇子はもう、苦笑いすら出なかった。
冒険者ではないと莉奈は言うが……では、魔物に戦いを挑むお前は何なのか?
——皆が耳を澄ませて待つ事、数十分。
「お待たせしました〜」
皆が待ちくたびれ始めた頃、暢気な声を出した莉奈が戻って来た。
魔法鞄を持っているので手ぶらであるが、その様子から狩り獲って来たのだろうと予想出来た。
「何匹倒したんだよ」
「お姉ちゃん、本当にスライム食べるの??」
「スライム食べるって聞いたけど!?」
「リナ、スゴい音がしてたけど、スライムと戦ってただけか?」
無事だと分かれば、今度はエギエディルス皇子を筆頭に質問攻めなのであった。
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