532 言うだけなら、誰でも出来る
「"助けてあげて"とは言わねぇの?」
フェリクス王は、莉奈とエギエディルス皇子をチラッと見て言った。
真っ先に何か言いそうな2人が、ずっとダンマリとしていたからだ。
「自分は守られているのに?」
"助けて"と言うのは簡単だけど、実際彼らを助けるのは莉奈ではなくフェリクス王である。自分の身すら守れない莉奈に、そんな事を言う権利などない。
そう言ったら、フェリクス王に頭をクシャリと撫でられた。
エギエディルス皇子も何か思うところがあるのか、フェリクス王に何か言う事もなく、ただチャーリーがいる馬車を見ていた。
しばらくするとーー
「お金になりそうな物が……見つからない。ねぇ……ココにある物、何でもあげるから助けてよ」
涙で顔を濡らし、顔をぐしゃぐしゃにしたチャーリーが、目を擦りながら馬車の荷台から出て来た。
アレコレ探したみたものの、どこに何があるか何に価値があるか、幼いチャーリーには分からない様である。
「……あ、あんた」
話し声や荷物をガサゴソする音で眼を覚ましたのか、長椅子で寝ていたダンがゆっくりと起き上がっていた。
「この指輪をやる。その代わりに、息子だけでも助けてやってくれないか?」
途中から、話を聞いていたのか、ダンは右手にしていたダイヤモンドの指輪を外すと、フェリクス王に手を伸ばした。
受け取った金の指輪には、小さなダイヤモンドが嵌っている。
純金かメッキか、ポーションと等価交換する価値があるのか、横から見ていた莉奈には分からなかった。
「リナ」
フェリクス王にそう目配せされ、莉奈は頷いた。
対価として充分なのだろう。莉奈は手にしていたポーションを、ダンの足にゆっくりと掛けた。
ゲオルグ師団長にやたらと貰うポーションだが、何気に人に掛けるのは初めてで、莉奈はちょっと緊張しつつワクワクしたのは黙っておく。
「のわぁ!」
ダンも初めてだったらしく、傷の治っていく奇妙な感覚にのけ反っていた。
莉奈自身も経験があるが、正直なところ、気持ちのイイものではない。飲んだ方がこの感覚はあまりないらしい。
掛ける前に言えば良かったなと、莉奈は思うのであった。
「どうしますか?」
ローレンはこの旅のリーダーであるフェリクス王に、お伺いを立てた。
親子の境遇を悲観し、助けようと言うのは簡単だ。だが、いざ助けるとして、単身で親子連れを護衛なんて出来る訳がない。フェリクス王の助力は必要である。
アーシェスは莉奈同様で、守られる立場なので、そう簡単に口出しは出来なかった。
「そうだな」
フェリクス王がどうするかなと、顎をひと撫でしたその時ーー
「とりあえず、お茶にしませんか?」
とあっけらかんとした莉奈の声が聞こえた。
「「「……」」」
何がとりあえずか分からない一同は、目が点である。
「疲れていては頭も働かないですし、ダンさん達もずっとここにいて疲れているでしょう? 一旦落ち着くためにも、皆さんお茶にしましょう」
そう言って莉奈は手を軽く叩くと、魔法鞄から低いテーブル1つ、長椅子をさらに3つ取り出し、サクサクとロの字に並べた。
そう、何もない道端にである。
「……お前」
莉奈の言動に一瞬呆れたものの、どういう状況下でお茶なのだと、フェリクス王はクツクツと笑っていた。
「何か食べますか?」
文句を言わずドカリと座ったフェリクス王に、温かい玄米茶を出しながら訊いた。
「何があるんだよ?」
「フライドポテト、ポテトチップス、いももち」
「全部芋じゃねぇか」
莉奈が指折り口にすれば、フェリクス王からツッコミが入った。
もちろん甘味もある。だが、甘い物が嫌いなフェリクス王に合う、オヤツはあまりない。
「からあげ、リナ、俺はからあげがイイ!!」
フェリクス王が座ったのなら、お茶の時間にするのだろう。
そう察したエギエディルス皇子は、莉奈と並んで下座を陣取ると元気良く言った。
「ハイハイ、からあげね」
本当にエギエディルス皇子は、からあげ大好きっ子である。
莉奈は皆の席の前に玄米茶を置くと、魔法鞄をあさった。
「ダンさんも、チャーリー君も、空いてる所に座って下さい」
何が何だか分からないダン親子は、茫然と突っ立っていたのだ。
「え? え?」
「は、はぁ」
困惑したまま生返事をして、空いている長椅子にチャーリーと一緒にビクビクしながら座るダン。
魔物が襲って来るかもしれない場所なのに、ピクニックをするかの様に暢気に座るフェリクス王達に、ダン親子はますます困惑するばかりだった。
「コレは何?」
こうなると乗っかるしかない。
アーシェスも休憩という事にして座ると、玄米茶の前に置いてあるポカポカのフキンを手にしていた。
「あぁ、おしぼりですよ?」
「「「おしぼり?」」」
「からあげを食べる前に、それで手を拭いて下さい」
浄化魔法もあるけれど、やっぱり魔法よりしっくりくるし、魔力は極力使わない方がいいハズ。
いざとなった時に魔力切れでは、死に直結する場所だからね。
「なんか、手がさっぱりしますね」
「それに気持ちがイイ」
並んで座ったローレンとアーシェスが、おしぼりの温かさにホッコリとしている。
フェリクス王も言われるがままに、熱めのおしぼりで手を拭いてみれば、不思議と気分が和らぐものだから、苦笑いしか出ない。
「顔を拭くとさらに気持ちがイイ」
そう言って顔を拭くエギエディルス皇子。
気持ちは分かるけど、エギエディルス皇子は皇子であってオッサンじゃないのだから、顔を拭くのだけはヤメて欲しい。そう思うのは莉奈だけだろうか?
「あ、からあげが、焼き鳥みたいになってる」
莉奈がそんな事を考えているとはつゆ知らず、テーブルに置いたからあげを見て、エギエディルス皇子は楽しそうな声を上げていた。
「なんか可愛いわね」
アーシェスは、串に刺してあるからあげ串を、面白そうに手にした。
そのからあげ串は、お皿ではなくマグカップに入っていた。それが斬新で面白かったのだ。
歩くと考えた莉奈は、食べ歩きが出来るようにと、エギエディルス皇子が大好きなからあげも、串で刺しておいたのである。
「色々と考えるな。お前は」
てっきり大皿で、ドカンと出てくるものだと想像していたフェリクス王は、マグカップに入ったからあげを見て、小さく笑っていた。
次から次へと、色々な料理や出し方を良く思い付くなと。それが、面白くて楽しい気分になるから不思議だった。




