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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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529 リナ、冒険者になる?



 ーーそんなのんびりとした時間が、二時間ほど過ぎた頃。




 薄っすらと土が見える場所が見えて来た。

 この辺りは人や馬車が多く通る道なのか、日陰で成長しにくいのか、所々草がハゲている。となると、国境の街も近いのかなと、莉奈は考えた。

「そうだ。リナ」

「はい?」

「コレを渡しておく」

 莉奈が街はそろそろかなと思っていると、フェリクス王から何かカードを手渡された。

 パッと見た感じ、保険証みたいなカードで、プラスチック製ではなく鉄製の様に見える。

 そこには、出身地と名前、身分等が彫ってあるのだから、身分証明書なのだろう。

 莉奈の出身地は本来なら日本だが、そこはさすがにヴァルタール皇国の王都リヨンと明記されてある。名前はフルネームではなくリナとだけ。






 〈職業〉冒険者





「何故」

 莉奈は思わず呟いた。

 自分の職業が、何故か冒険者になっていたからだ。

「あら"商人ギルド"のカードじゃなくて、"冒険者ギルド"なのね」

「「"冒険者"」」

 それを横からヒョイと見たアーシェスが気付き口に出せば、エギエディルス皇子とローレンが吹き出していた。

 職業欄を見るか、ギルドカードの右上にある小さな刻印で、冒険者ギルドか商人ギルド発行かが分かる様である。



 冒険者ギルドカードの刻印は"剣と盾"。

 冒険者や警備隊など、主に武器を常備する職業の人が持つ身分証明書。


 商人ギルドカードの刻印は"木箱と麻袋"。

 店舗を持つ者やバイヤーなど、主に売買に関わる人が持つ身分証明書。


 ただの身分証明書カードなら、右上は発行元の国の紋章だけが刻印されているらしい。

 なら、その身分証明書だけの普通のカードでイイではないか、と莉奈は説明を聞いて思った。



アイアンだから、ランクはEね」

「竜を喰らっていようが、冒険者としてはひよっこだからな」

「竜は喰ってないし、私は冒険者じゃない!!」

 アーシェスとフェリクス王の会話に、莉奈は堪らずツッコんでしまった。



「普通の身分証にーー」

「あぁ、そうだ。コレもやる」

 文句を言おうとした莉奈の右手に、ポンと追加で何かを渡された。

「……」

 莉奈は渡された物を見て、さらにムスリとする。

 フェリクス王から渡されたのは、どこか見覚えのある物だった。

 それを見たアーシェスは堪らず、吹き出していた。

「「"ナックルダスター"」」

 エギエディルス皇子とローレンは一瞬唖然となっていたが、それが何か分かるとアーシェス同様にお腹を抱えて笑っていた。




「ナックルダスター?」

 莉奈は聞き慣れない名称に、少しだけ怒りが吹き飛んでいた。

 莉奈の知っている名称でなかったので、つい気になったのだ。

「"メリケンサック"の別名」

「いらん!!」

 やっぱり"メリケンサック"だった。

 以前、フェリクス王と王都に行った時、アーシェスがいる武器屋で見た武器である。

 指輪が横に四つくっ付いて並んだ様な形状で、指輪の先に小さな棘が付いている。

 ちなみに使い方は簡単で、四つ並んだ穴に親指以外の指を嵌め、対象のモノをただ殴るだけ。素手だと自分の拳にダメージがあるが、コレを着けておくと軽減するのである。

 己の拳を保護すると共に、パンチの破壊力を上げる武器、それがナックルダスターこと"メリケンサック"だ。



 それをジッと睨みながら、莉奈は思う。

 職業といい武器といい、私を何だと思っているのか。莉奈は不満しかなかった。

「なんだ。指輪の方が良かったか?」

「ゆ、どっちもいらん!!」

 指輪なんて言ってる時点で、揶揄われているのだ。

 メリケンサックをいらぬと突き返したところで、フェリクス王はニヨつくだけで受け取りもしない。

 腹は立つがどうも出来ず諦めた莉奈は、笑うフェリクス王を無視し、スタスタと足を早めるのであった。




 ちなみに、冒険者や商人カードは世界共通で、6段階のランクがある。




 Sランク ブラック

 Aランク 白金プラチナ

 Bランク ゴールド

 Cランク シルバー

 Dランク コッパー

 Eランク アイアン



 Sランクは別名"神ランク"と言われ、会えるだけで奇跡と言われているらしい。





 フェリクス王は絶対Sランクだろう。

 そんな事を考えながら莉奈がズンズン歩いていると、フェリクス王に襟首を掴まれた。

「そっちじゃねぇ」

「え、だって」

 先に進んでいるとYの字に道が分かれていたのだが、右の道には大木が道を大きく塞ぐように倒れていたのだ。ただ、倒れていただけなら、フェリクス王にお伺いを立てたかもしれない。

 だが、倒れていた大木にはナイフか何かで意図的に付けたような、大きなX印が。

 莉奈にはそれが、こちらには危険があると、親切な誰かが教えてくれているのだと感じたのだ。




「兄上?」

 エギエディルス皇子もそう思ったのか、兄王の言動に首を傾げていた。

「コレは屑の悪戯だ」

 そう言うとフェリクス王は、そこに倒れている大木を軽く蹴り、数十メートル先に飛ばしたのだった。

「「……」」

 莉奈とアーシェスは目を見張って固まっていた。

 5人いたところで、動かせるか分からないあの大木が、あんな簡単に蹴り飛ばされて消えたのだ。フェリクス王の脚力がスゴ過ぎて、何も言えなかった。常人にそんな事は無理である。





「やはり、魔王」




 ーードス。




 そう呟いた莉奈の頭に手刀が落ちて来たのは、言うまでもなかった。








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