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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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518 甘味皇子に捧げるデザート



「それはデザートだな?」

 莉奈が再び作業を始めれば、味見をしていた料理人達がワラワラと集まって来た。

 砂糖を魔法鞄マジックバッグから取り出したので、デザートだろうと想像した様だ。

「うん。シュゼル殿下をポーション生活に戻らせない為の、後はエドの」

 多めに作って魔法鞄マジックバッグにしまっておけば、食べたい時に取り出せる。

 旅行……もとい、出張先で作れるとは到底思えないので、エギエディルス皇子の為にいくつか用意しとかなければ。後大事なのが、シュゼル殿下の分。

 戻って来た時に、追及されたら困るから執事長イベールに渡しておく予定だ。

「あぁ、なるほど……食事を摂らなくなったら、それを出すのか」

「だね。リックさんも頑張ってね?」

「頑張れる気がしない」

 リック料理長は遠い目を、マテウス副料理長は苦笑いしていた。

 先にデザートを出せとあの微笑みを浮かべられたら、自分にはノーと言える気概がない。



「手持ちの材料があまりないから、シュゼル殿下とエドのくらいしか作れないけど、作り方は難しくないから、食べたければ自分達で作ってね?」

「分かってる」

「そもそもリナ1人で皆の分は無理だしな」

「まぁでも、いつも通り試食用は作るから、分けてーー」

「「「やった、ジャンケンする!!」」」

 好奇心も相まって、彼らにはいらないという選択肢はない。

 莉奈は念の為、もう一度 魔法鞄マジックバッグを漁ってみたけど、やっぱり全員分の材料はなかった。

 だが、ここには食材も調味料も食料庫には豊富にある訳だし、食べたければ後は自分達で作るでしょう。かなり面倒くさいけど。




「あぁ、材料がないってそういう意味でか」

 莉奈が魔法鞄マジックバッグから取り出した材料を見て、料理長達が苦笑いをしていた。

 厳密に言うと"材料"はある。ただ、それを1から作る"気力"や"労力"がないのだ。さすがのリック料理長も、苦笑いが漏れていた。

「うん。言い方がアレだけど、今から作るのは、今まで作ったお菓子を合わせて豪華にするモノだからね」

 莉奈が今作ろうとしているのは、今から改めて作るデザートではない。

 今まで作った事のあるお菓子を、ちょっとアレンジして華やかにするだけの物。食べた事があるお菓子ばかりだから、味の想像は出来るだろう。




「本来の作り方とはちょっと違うんだけど……まぁ正式な作り方は作りながら説明する」

「すでに大変さが伝わってるよ」

 材料を見ただけで、手間も暇も掛かるのが分かる。

 何故なら莉奈が用意しているのは、今まで作った事のある"ラング・ド・シャ"やショートケーキの"スポンジ"だからだ。

 コレらを全部1からなんて、大変なんてものじゃない。特別な時にしか作りたくない。だから、試食品を貰えるのなら、それが食べたいなと莉奈の作業を見ていた。




 莉奈は皆が注目する中、平たいお皿を用意していた。

「まず、お皿の上にラング・ド・シャを何枚かおく。本来なら、このラング・ド・シャを熱い内に型にはめて、冷やして固めて器にするんだけどーー」

「器? そうか!! そのお菓子は熱いままではフニャリとしてたもんな」

「あ、だから、冷えるまでは形を変えられるのか!」

「そう。筒状の何かにのせて冷やせば、花びらっぽくなったりもなる」

「「「なるほど!!」」」

「でも、今からはーー」

「「まぁ、無理だな」」

 莉奈が本来の作り方を説明すれば、すぐには無理だと理解した様だった。



「で、その上に小さく切ったスポンジをのせる」

 エギエディルス皇子が、竜の番を持った時にお祝いとして作った苺のショートケーキ。その時のスポンジのあまり、切れ端だ。

 それを莉奈は、包丁でサイコロ状にカットして、並べたラング・ド・シャの上にのせた。

「ラング・ド・シャで器を作っていたら、スポンジもそのサイズに切ってあげると、見た目がスッキリして綺麗だと思う」

「そうか。なら、スポンジは小さい型で焼けば……いや、型抜を作ってーー」

「大きく作っても、縁の薄いグラスでやれば、型抜き代わりになるよ」

「なるほど、グラスか」

 固い野菜はグラスでは無理だけど、スポンジくらいなら問題ない。

 しかも、型を抜いた後に残るスポンジは、細長いグラスに生クリームや果物と交互に入れたり、トッピングにジャムやアイスクリームをのせたりすればパフェになる。

 スポンジは大きく作っても無駄にはならないと、リック料理長達に説明すれば、感心した様子で大きく頷いていた。




「スポンジの上に生クリーム、半分にカットした苺とか他の果物をのせ、さらにその上に、シュゼル殿下が大好きなアイスクリームを、気合いでトッピングする」

「「気合いか」」

「だってコレ、ラング・ド・シャが器じゃないから、安定感があまりない」

「確かに、上手くのせないと落ちそうだな」

「まぁ、諦めて添える手もある」

 そうなると、本来作ろうとしているデザートと違う気がするけど、完璧なんか無理だから仕方がない。

「スゴいな。今まで作ったお菓子の総決算? いや、結晶みたいなデザートだ」

「真価を試される……ような贅沢なデザートですね」

 莉奈の作っているデザートに、リック料理長やマテウス副料理長はほぉと感嘆を漏らしていた。

 どのお菓子も今まで作ったお菓子だ。それが一皿にのるなんて夢の様だ。

 しかし、ただでさえ1つ1つが贅沢なお菓子なのに、それを集めた華やかで豪華なデザート。

 材料費だけでなく知識や労力も合わせると、今作っているデザートは貴族でも容易に口に出来ないだろう。



「皿の空いた部分には、スプーンで雫みたいにソース状にしたジャムを延ばして置くと、ちょっとオシャレに見える」

「「ステーキの時にもやったけど、そのソースの置き方は本当に綺麗だよな」」

 莉奈の盛り付けや飾り付けは、細部まで華やかな仕上がりだと唸っていた。

 ちなみに唸っていたのは、料理の出来映えだけではなかった。莉奈は基本的に大雑把でガサツな性格だ。なのに、何故か料理の事になると、繊細かつ華やかな仕上げが出来る……謎である。

 ただ、執事長イベールがいたら、こう言いそうだなと皆はボソリと漏らす。

 「莉奈は料理に繊細さを求めている為、他が普段雑なのは反動の表れでしょう」と。イベールはここにはいないし、彼がそう言った訳でもないのに「なるほど」と勝手に思う皆なのであった。




 そんな失礼な事を、思いながら見られているとは微塵も知らない莉奈は、盛り付けや飾り付けが終わると、その皿を冷蔵庫に入れていた。




「え? それで出来上がりじゃないのか?」

 てっきりそれで完成だと思っていたマテウス副料理長は、莉奈が冷蔵庫にしまう様子を見て驚いていた。

「じゃないよ。最後にひと手間掛けて出来上がり」

 これだけだと、残り物の寄せ集めみたいだしね。

 莉奈は材料が揃ってるしどうせならと、考えているデザートがあったのだ。その最後のひと手間を作る準備をする事にした。








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