513 命名、◯◯ソース
「わぁ! パンを切ったら、花が咲いた」
「まさか、苺やマスカットが花になるとはな」
「そっか、この茎はキウイだ」
莉奈が、冷凍庫で10分ほど冷やしたフルーツサンドを、包んだ紙のまま包丁で真ん中から切れば、果物の花が咲いていたのだ。
莉奈が果物を入れていた時は、大雑把な莉奈だから丸ごとだと思っていた。
だが、それすら計算だったのだろう。包丁で真ん中を切れば、キレイに配置された苺やマスカットが花に見え、キウイが茎や葉になっている。果物で、見事な花が咲いていたではないか。
茶色のパンに白い生クリーム、苺やマスカットやオレンジなど、色とりどりでカラフルなサンドウィッチは、見た目が華やかなだけでなく美味しそうだ。
「パンが丸いから安定感はないけどね」
四角い食パンではないから、半分に切っても三角にはならないため立たない。
お皿にのせるなら半分を横にして、その上にもう半分を立てかければ見栄えはいいだろう。
「安定。そうか、三角……いや、四角いパンか」
「金物屋に型を作ってもらって、四角い型で焼けば出来そうですね」
皆が華やかなフルーツサンドに目が離せない中、リック料理長とマテウス副料理長は莉奈の呟きから、パンの形を考えていた様だった。
丸いか長細いパンが主流ではあるが、四角や三角がダメなんて制限などないのだ。なら、莉奈が言うように四角いパンもありだ。
パン生地をそのまま置いて焼けば丸くなってしまうが、型を使ったらどうなるのだと、リック料理長とマテウス副料理長は話に花を咲かせていた。
「まぁ、こういうインパクト重視な料理って、もれなく食べづらさが付いてくるけど」
初めて食べた時、どう食べるのが正解なのか分からなかった。
とにかく、果物が丸ごとなので食べづらい上に、噛んだ瞬間グチャッと生クリームが横から出たり果物が落ちたりで、すぐ崩壊するよね。
「「「確かに」」」
思う所があるのか、料理人達は大きく頷いていた。
見た目もほどほどにしないと、食べづらさが勝つ。
「あ、もうすぐ朝食の時間だ」
莉奈が何となくお腹の感じから、食堂の壁に設置してある機械式時計を見たら、もうすぐ7時を指す所だった。
ちなみに値段は可愛くないし、メンテナンスにもお金が掛かるので、一般庶民にはまったく手が出ない。
以前、王都リヨンに出た時に見かけたけど、街のほぼ中央にはこれより遥かに大きい機械式時計が設置された立派な建物がある。
何階建てか忘れたあの建物は、ただ時計を見るだけの時計台だけでなく、市庁舎や冒険者、商人ギルドとして使われているのだとかで、とにかく大きくて目立つ建物だったのを何となく覚えている。
他には市場や公共広場にも、公共用時計として様々な時計台があるらしい。
貴族や商人など、一部のお金持ちは除くとして、各家庭には時計などないので、この時計台の時計の鳴る鐘を目安に行動するとか。
王宮は数時間毎で夜中は鳴らないが、街は朝6時から夜6時まで1時間毎に鐘が鳴るみたいだった。
「んじゃ、イベールさんが来る前に、朝食を届けに行って来るね」
無言の圧力に晒される前に、ササっと先に行ってしまおうと莉奈は思ったのである。
◇◇◇
「夕食はカツだよな?」
執事長イベールが紅茶を淹れ、莉奈が朝食を用意しようとしていたら、エギエディルス皇子がキラキラした瞳でそう訊いてきた。
まだ朝食の段階なのに、既に夕食に出るカツを待ち侘びているらしい。そんな末弟皇子が可愛いのか、フェリクス王が小さく笑っていた。
「エビフライは?」
「いる!!」
なら、夕食に用意しておくと伝えれば、エギエディルス皇子は嬉しそうにしていた。
本当にエギエディルス皇子は可愛い。
莉奈は朝からホッコリするのだった。
「ベーコンエッグ?」
先程作ったばかりのエッグベネディクトがテーブルに並べば、エギエディルス皇子が興味津々そうな表情をしていた。
玉子にベーコン、確かにベーコンエッグである。
「"エッグベネディクト"。まぁ、豪華版のベーコンエッグみたいな物」
なんか違う気もするけど、ザックリならそうだろう。
「コレはマヨネーズか?」
「違うよ。えっと、オラン……ウータンソース?」
考えるのをヤメた莉奈に、もうオランデーズソースの名は思い出せなかった。
「「オランウータンソース?」」
「適当にも程がある」
莉奈がそう言った途端、エギエディルス皇子とシュゼル皇子は眉根を寄せ、フェリクス王は呆れていた。
どう考えても莉奈の嘘だと分かったらしい。
「いくら考えても、名前を思い出せないんですよね〜」
ヒントでもあれば思い出すのかもだけど、ヒントも何も誰も知らないのだから、ヒントすらないのだ。
この世界にない以上、莉奈しか答えは知らなかった。
「にしても、どういうネーミングセンスをしてやがる」
「ネーミングはともかく、バターの香りとコクのある美味しいソースですよ?」
「アスパラガスがウマイ!!」
わざわざ奇妙な名前にしなくとも、他にも色々といいようがあるだろうと、苦笑いが漏れるフェリクス王。
莉奈が適当なのは、今に始まった事ではないのでどうでもいいシュゼル皇子と、美味しければ何でもいいエギエディルス皇子は、すでに口にしていた。
「あぁ、バターソースか。この"ケイドリルソース"」
「そうですね。マヨネーズも美味しいですが、パンにはこの"ブラッザグエノンソース"が美味しいと思います」
「俺はじゃがいもにはマヨネーズだけど、アスパラガスはこの"ゴリラソース"が合うと思うな!」
莉奈が適当なソース名にしたせいで、フェリクス王達までもが揶揄して言っていた。
聞いた事がない名前だけど、エギエディルス皇子がゴリラと言っているのだから、フェリクス王が言うケイドリルも、シュゼル皇子が言ったブラッザグエノンも、猿系の動物か魔物なのだろう。
莉奈は苦笑いしていたけど、控えていた侍女達が何とも言えない表情をしていた。
「ん、半熟卵を割ると、また味が変わりますね」
シュゼル皇子の口に合ったのか、ゆっくり堪能している様だった。
「ベーコンの端がウマイ」
エギエディルス皇子は、カリカリに焼いてあるベーコンが香ばしくて好きみたいだ。
「お上品過ぎて、俺には似合わねぇ料理だな」
この料理は味はともかく、自分には合わないとフェリクス王がボヤいていたけど、そのボヤきと食べ方が合わなくて、莉奈の頬が自然と緩む。
だって、お上品だなんだとボヤいている割りに、食べ方はもの凄く上品で綺麗なのだ。それが莉奈的には妙にツボってしまった。
外見と言動がここまで伴わないなんて、なんかギャップ萌えだ。
綺麗な人が、クチャクチャ物を食べる姿は幻滅だけど、逆って何故か萌えるよね。
まぁ、フェリクス王は怖いだけで、ものスゴーーく美形だけど。眼福って言葉は、この王族達の為にある言葉だなと、莉奈はニヨッとしていた。
そんな邪な莉奈が見ている中、フェリクス王達は、半熟卵を絡めたり添えてあるアボカドと一緒に食べてみたり、色々と楽しんでいる様だった。
この新しいソースはマヨネーズとは違って、バターの良い香りが鼻に抜け、濃厚な口当たりが野菜やパンとマッチする。
半熟卵をナイフで割り、オランデーズソースと絡めてみれば、さらに濃厚さが増した。だが、バターの主張は柔らかくなり、ベーコンと一緒に口にすると香ばしさも加わるのだ。
ただのバターより、複雑で濃厚な味。しかし、クドくなく食が進む。
少し残ったオランデーズソースも、最後に残して置いたパンで、拭うように皿を滑らせば、お皿も満足気に輝いていたのであった。
「はぁ、ごちそうさまでした」
他に出ていたスープなどの料理も食べ終えたシュゼル皇子は、深い深いため息を一つ吐いていた。
莉奈にはよく分からないけど、彼にとって食事とは面倒な仕事の1つだもんね。
「え?」
食事を終えたシュゼル皇子が、チラッと莉奈を見るものだから、思わずビクリとしてしまった。
もはや、反射だよね。
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作品のタイトル同様、現在更新がのんびりとなっておりますが、よろしくお願いします。( ´ ▽ ` )




