507 ご満悦
「何それ〜っ!!」
シュゼル皇子の前にパンケーキの皿が置かれれば、それを見たエギエディルス皇子が声を上げた。
厚みがあるのにフワフワのパンケーキ。その上にかかった雪化粧のような粉糖。パンケーキにかかるキラキラ輝くブラックベリーのジャム。甘さ控えめな生クリーム。それらを引き立てるククベリーの実が、まるで宝石のように散りばめられていた。
「ん〜。ふわっふわ!」
ナイフで切り分けたパンケーキを、一口食べたシュゼル皇子は、笑顔という花を咲かせていた。
「俺には?」
「もちろんあるよ。食べ終わったら出してあげる」
あるのは分かっているが一応確認したエギエディルス皇子は、莉奈の返答に頷き食事に集中する事にした。
フェリクス王は弟達が、デザート欲しさに食事を摂る姿に呆れていた。
「あ゛?」
弟達を見ていたフェリクス王は、気配に気付き目を眇めた。
何故なら、執事長イベールに追加の酒を要求しようとしたところで、莉奈がスッと追加で何かを差し出したからだ。
「リヴァイアサンの炙りとーー」
「新作のカクテルか」
フェリクス王はフェリクス王で、莉奈が魔法鞄から取り出したカクテルに釘付けである。
こうなると、さすがのフェリクス王も、弟達の事をとやかく言う権利はなかった。
「変化球の"マティーニ"です」
「変化球」
リヴァイアサンの炙りよりお酒のフェリクス王は、莉奈の置いたマティーニを早速口にした。
そして、一口、口に含んだだけで変化球が何かすぐに分かったのか、小さく鼻で笑った。
「今さらドライ・ベルモットを白ワインに変えたところで、マティーニが安っぽくなるだけじゃねぇか。つまらーー」
「でしたら"ダーティー・マティーニ"はいかがでしょう?」
フェリクス王なら、絶対そう言うと思っていた莉奈は、つまらないなんて言葉を最後まで言わせるつもりはなかった。言わせたら負けた気がするからだ。
やっぱり、もう一つ新作を作っておいて正解だった。あやうくつまらないとガッカリさせて終わる所だった。
「……っ!」
ダーティー・マティーニが目の前に置かれた瞬間、フェリクス王の口端が上がった。
「先にこっちを出さなかったのは演出か?」
「そう言う訳ではありませんが、さてーー」
「何の酒か……だろ?」
そう言ってさらに口端を上げるフェリクス王。
魔王様。実に楽しそうですね? 莉奈はその笑みに少しドキリとした。
「何コレ。すっごいふわふわだ!!」
「この雪みたいな粉は砂糖ですか?」
フェリクス王がカクテルを堪能している横で、弟皇子達はパンケーキに夢中になっている。
王族の食卓なんて、妙な緊張感と静寂した空気が漂っているものだと思っていたけど、ここの家族は仲良さげでホッコリする。
温かい家族っていいよね。
「リナ?」
だけど、自分にはもういないんだと思っていたら、ついボンヤリしていたらしい。
「え、あぁ……白い粉は美味しいですか?」
「「……」」
白い粉は何だか分からないが、確かに甘くて美味しい……。
しかし、素直に頷けないのは莉奈の訊き方のせいだろう。
シュゼル皇子とエギエディルス皇子は、莉奈の笑顔に微妙な笑みで返しただけだった。
「砂糖をあの石臼で」
莉奈に説明を聞いたシュゼル皇子は、感心していた。
"チョコレートを作る為"のあの石臼に、そんな使い方があったとは想像もしていなかった様だ。やはり、石臼を莉奈に渡しておいて正解だったなと、満足気だった。
「……」
そんなシュゼル皇子とは対照的に、フェリクス王は眉間にシワを寄せている。
右腕をテーブルに置き、カクテルグラスを睨む様にして、人差し指をトントンと叩いていた。
ダーティー・マティーニのグラスの底に沈んでいたグリーンオリーブは、テイスティングの邪魔になると小皿に移している徹底振りだ。一口も齧っていない。
「ドライ・ジン以外の酒は感じねぇ。だが、何か入っている」
フェリクス王は少し口に含んでは唸るように、考えていた。
いつもなら飲んですぐに気付くのに、珍しく悩んでいる。ある程度予想はついている様だが、コレだという確証がないのだろう。
「シュゼル。オリーブは果実か?」
「"果実"ですね」
疑念を確証に変えたいフェリクス王は、シュゼル皇子に確かめていたがーー
「ちなみにククベリーも果実ですよ?」
とシュゼル皇子がにこやかに返せば、訊いていない事に興味はないのか、フェリクス王はガン無視していた。
自分が口にしない実が、果実だろうが野菜だろうがどうでもいいからだろう。
「オリーブが果実なら、オリーブを漬けた液もアリか」
もう一度確かめる為、フェリクス王はマティーニより濁りのあるダーティー・マティーニを口にし、確信した様子を見せた。
「ドライ・ジンにオリーブの浸漬液を混ぜたのが、この"ダーティー・マティーニ"。オリーブの実が2個も入っているのはフェイクか」
いつもなら、カクテルに1個しか入っていないオリーブの実が、2つも入っていたのは、このオリーブの浸漬液を隠すためだと考えた様だ。
「フェイクではなく、オリーブを楽しむためのカクテル? だから2個入れました」
「なるほど。確かに、オリーブの浸漬液のほのかな塩味。酒精が強いドライ・ジンをこのオリーブのオイル感が、マイルドにして飲みやすくしている。オリーブにも好き嫌いがあるから万人受けはしねぇだろうが、これはこれでいい」
普段あまり喋らないフェリクス王が、カクテルの事になると実に饒舌だ。
それだけ楽しんでもらえているのだろう。
「ただ、このリヴァイアサンの炙りには合わねぇがな」
「ではホーニン酒を」
莉奈は苦笑いしながら、ホーニン酒のロックを出した。
父が言っていたが、刺身にはやっぱり米から造った日本酒が1番合うらしい。刺身には白米的な感覚なのだろうか?
「"サムライ・ロック"だな?」
「よく覚えてますね」
「ホーニン酒にライム。考えた事もなかったからな」
莉奈が差し出したのは、ホーニン酒の入ったグラスに切ったライムを飾った"サムライ・ロック"である。
塩辛の時に一度出した覚えがあるが、よく記憶していたなと感心してしまった。
「いかがですか?」
「確かにリヴァイアサンには、さっきのよりこのカクテルの方が合うし、アリと言えばアリだが……俺にライムはいらねぇ」
フェリクス王はそう言って、早々にライムをグラスから取り出していた。
フェリクス王には余計なオプションだった様だ。
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