504 カクテル作り
リンゴの数は見なかった事にして、莉奈は持って来てもらったリンゴを、水で良く洗って切り始めた。
「ずいぶん、皮を厚めに剥くのね?」
手伝おうとしていた料理人が、莉奈のリンゴの切り方に驚いていた。
皮を剥くのではなく、莉奈の切り方は、皮に実がかなり付いた状態であった。
「だね。リンゴの風味も付けたいから、皮を剥くというより削ぎ取る感じ? とにかく、皮を厚めに剥いて水から煮る。色が出るまで煮詰めたら、火を止めて冷やす」
「氷よ、氷!!」
冷やすと言った途端に、すぐ氷で冷そうとしていた。
そこまで急ぐ必要なんかない気もするが、莉奈は黙っていた。
夕食の時間が近いから、シュゼル皇子の分は必要だしね。
氷魔法が得意となった料理人のトーマスは、氷を欲しがる女性陣に囲まれてデレッとしていた。
頼りにされるのは嬉しいらしい。
莉奈からしたら、それはただの恐喝だしタカリに見えるけど。ものは考えようだ。
「リンゴの煮汁が冷えたら、後は赤ワインバージョンのマティーニにレモン汁とコレを好みで入れれば出来上がり。甘さは好みがあるだろうから、砂糖を水に溶かしたシロップを用意して、後入れにすればイイと思うよ?」
「「「分かったわ!!」」」
ちなみに煮出した後のリンゴは、ジャムとかコンソメスープを作る時の臭み消しに入れちゃえば無駄がない。
だから、皮を剥いたリンゴと一緒に、捨てないで使い切るように伝えておいた。まぁ、伝えなくてもしっかりと取って置くだろうけど。
「他にも作るのか?」
リック料理長が他の料理人に任せ、莉奈の所に戻って来た。
作り終わったハズの莉奈が、まだガサガサと何か弄り始めたからだ。
「マティーニを白ワインにしたところで、フェリクス王が喜びそうにないかなぁと」
お酒が飲めない莉奈の勝手な想像だが、白ワインにハーブとか入れたドライ・ベルモットほど、このマティーニに複雑な味わいはない気がする。
なので、それを赤ワインにしたところで、フェリクス王には響かないと思ったのだ。ふぅんで終わらせるなんて莉奈が満足しない。何か驚かせなければ、負けた様な気分だ。
莉奈は何かないかなと、棚を漁りに漁りまくってとある瓶を見つけた。
「オリーブの塩酢漬け発見」
良くあるオリーブの塩漬けやオイル漬けではなく、塩酢漬けだ。たまにサラダにスライスしたコレがのっていたので、どこかにあるだろうと思ったのだ。
今日は、これを使おうと莉奈は瓶の蓋を開けた。
「飾るのか?」
リック料理長が、横から中を覗いていた。
マティーニにはオリーブの実を飾るから、これもそうだと思ったようだ。
「違うよ」
「ん? なら、おつまみか?」
「違うよ?」
そうなのだ。今日は違う使い方をする。
とりあえず、莉奈は逆三角形のカクテルグラスに、そのオリーブの実を小さなフォークを挿して先に入れた。
次にカクテル作りに使うミキシング・グラスに氷をザクザク入れ、そこにマティーニのベースのドライ・ジン。で、このオリーブの浸かっていた液体も少し入れる。
「え!? オリーブの浸漬液も入れるのか!?」
「そう。それも使っちゃうのがこのカクテルなんだよ」
好みもあるから、塩漬けでもオイル漬けの浸漬液でもイイ。
果汁を入れるカクテルがあるから、たぶん同じ様な感覚で誰かが始めたのだろうと思う。
あるいは、マティーニにこのオリーブを入れた時に、アレ? 汁も入れたら美味しいんじゃないかと考えたのかもしれない。
「軽く混ぜてグラスに注いだら"ダーティー・マティーニ"の完成」
「「「ダーティー・マティーニ」」」
オリーブの浸漬液を混ぜているから、少し白く濁っているのが特徴である。
お酒とお酒、あるいは果汁を混ぜるのがカクテルの定義。だが、オリーブを果実と考えるか否か。
フェリクス王は気付くだろうか?
絶対に気付きそうだなと、莉奈は作りながら思ったのだった。
「コレもマティーニか」
「本当にマティーニは種類が豊富ですよね」
リック料理長とマテウス副料理長が感嘆していた。
マティーニは種類が豊富だと聞いていた。だが、しかしである。聞くのと見るのとではまったく違う。莉奈が嘘を吐いていたとは思わない。だが、実際に目の前で作って見せてくれると、本当に知っているのは一部なんだなと感嘆する。
「んじゃ、勢いそのままで簡単なおつまみも作っちゃいますか」
もうこうなったら、おつまみも作っちゃえである。
面倒なのは面倒だが、弟皇子2人にパンケーキを作っておいて、フェリクス王に何もありませんじゃあ、ガッカリされそうだ。
一度ヤル気の火ならぬ炎が付いた莉奈は、鎮火するまで作り続けるのであった。




