503 庶民の休日?
「じゃあ、この白ワインを使いますか」
大量にあるなら使用しない手はない。
作れる量が少ないと、争奪戦になって怖いからね。
「後は?」
お酒と何かを割るのがカクテルなのだから、白ワインだけのハズがない。ダニーは興味津々で莉奈の後を付いて回っていた。
「ん〜、ドライ・ジンがあったらソレを持って来て」
「了解」
ダニーにお願いすると、莉奈は白ワインを持って厨房に戻る事にした。
「「リナ」」
厨房に戻ると、期待に期待している皆が待っていた。
その中にはリック料理長やマテウス副料理長まで混じっている。莉奈がお酒を選んでいる間に戻っていたらしい。
だが、ここの厨房が変に騒いでいないところを見ると、パンケーキを食べた事は黙っているのだと思った。
ズルいズルい攻撃は破壊力があるし、リック料理長も対応が大変だと感じているのだろう。ただ、妙に勘が鋭いリリアンが、鼻をスンスンさせてリック料理長の周りをウロウロしている。
彼女には何か、特殊な技能があるんじゃなかろうか? でなきゃ、リリアンの前世は犬だ。莉奈にはそう思わずにはいられなかった。
「カクテルを作るって聞いたけど?」
リリアンをやっと追っ払ったリック料理長が、寸胴鍋を持って来た。
うん。大量に作る気ですな。
「陛下のためにね?」
パンケーキの事を隠すなら、パンケーキの代わりとは言えない。
その内にバレるだろうが、バレるまでは黙っておこうと莉奈は思ったのだった。
寸胴鍋を置いて仔犬の様に待つ、リック料理長にホッコリしながら、莉奈はカクテル作りに集中する事にする。
「以前作った"マティーニ"のアレンジバージョンを作りたいと思います」
莉奈がそう口にすれば、カウンター越しに見ていた警備兵からも拍手が起きていた。
どうやら、夕食の時間が近いらしい。続々と集まって来ている。
「これはドライ・ジン6に、白ワイン1で作る"オリジナル"マティーニ」
「「オリジナル?」」
「だって、今考えたんだもん。マティーニは本来ドライ・ジンとドライ・ベルモットで作るでしょ? でもこれはドライ・ベルモットを白ワインに変え、フェリクス王好みの割合にしたカクテル。だから、しいて付けるなら……"王の休日"?」
カッコ付けて命名してみたが、何か違う気がする。
「いや、そのまんま白ワイン・マティーニでいいかな?」
と違う言い方に変えたものの、なら、ドライ・ベルモットは白ワインではないのか問題が出てきそうだ。
莉奈が何と呼んだものかと悩んでいたら、皆も同じように考えていた。
「"王の休日"でもいいよな」
「いや、ドライ・ベルモットより白ワインの方が安いんだから"庶民の休日"の方が」
白ワインにハーブや香辛料を加えたのが、ベルモットだ。
加えて作った分、白ワインより高価である。なら、王より庶民向き。なので、庶民のと名を変えたみたいだが、カクテルの名前としてなんかしっくりこなかった。
「「白ワイン・マティーニでいいや」」
考えれば考える程、ダサいネーミングとなり苦笑いが漏れていた。
結果、簡単で分かりやすい"白ワイン・マティーニ"となったのであった。
「赤ワインはどうなんだろう?」
白ワインで作るとなると、赤ワインはとなるのがここでは普通の事だ。
赤ワインバージョンも作ってみようと、ザワついていた。
「あぁ、赤ワインなら、その赤ワインバージョンにリンゴの煮汁とレモン汁を加えると、美味しいらしいよ? 甘味が欲しいならそこに砂糖かな。まぁ、面倒なら赤ワインバージョンのマティーニにリンゴジャムを入れちゃうのがーー」
手っ取り早いけど……と言おうと思ったのだが、女性陣の熱視線に時が止まった。
女性はやはり、甘いカクテルが好きらしい。
基本、フェリクス王中心でカクテルを作るから、辛口が多いからだ。莉奈が甘いカクテルレシピを教えてくれたので、嬉しそうだった。
なら、リンゴジャムでなく、香り豊かな生リンゴの煮汁で作るカクテルを作ってあげるかなと、莉奈は思う。
「なら……そっちは私が作るよ。白ワインバージョンのマティーニはリックさんにお願いする」
「6・1だったな」
「うん。フェリクス王好みは確かそう」
ドライ・ジンが引き立つ割合が、フェリクス王好みだったハズ。
難しい事はないので、そっちはリック料理長に任せる事にした。
「赤ワインの方は、普通の赤ワインバージョンと、甘めのバージョンにしよう」
「「やったぁ〜っ!!」」
甘めが好きな皆から、歓声が上がった。
「赤ワインバージョンは、白ワインを赤に変えただけだから分量は同じ。甘めの方はーー」
「リンゴだよね?」
女性陣がリンゴを持って来てくれた。しかも、ゴッソリと。
加減ってものを知らないかな? この人達。




