50 魔法の鞄の中の魔法の鞄
「モニカ達にあげるかはともかく、作ってみるかな簡単だし」
そのうちの一瓶は勿論貰いますけどね。
「え~~~~~?」
自分にあげるかは……と云う言葉に遠慮なくブーイングのモニカ。
「お前も、遠慮がなくなったよな」
最近のモニカを見て、エギエディルス皇子は思うところがある様だ。莉奈が来る以前は、こんな姿のモニカは見た事がない。
そつなく仕事をこなし笑顔というより、愛想笑いしかしない侍女の一人と云う印象しかなかった。なのに今はどうだ、愛想笑いどころか良くも悪くも本性が出ている。人間味があって面白いぐらいだ。
「た、大変申し訳ありません」
エギエディルス皇子の言葉にハッとし、モニカは慌てて謝った。皇子の御前でこの様な姿は不敬にあたると気付いたのだ。
「今更だし、別にリナといる時は構わない」
エギエディルス皇子は笑った。むしろ素の侍女達に驚きつつ楽しいぐらいだ。
「そ、そう仰っていただき、ありがとうございます」
モニカは恐縮した。莉奈がエギエディルス皇子に、あまりにも友達感覚で接していたから、どこか勘違いを起こしてしまっていた事に今頃気付いた。そして寛大な配慮に恐縮したのだ。
「あぁ、そうそう忘れる前に渡しとく」
と、エギエディルス皇子は魔法鞄から、麻布で出来た水色の小さな可愛い肩掛けバックを取り出した。
「ん?ナニかな?」
「お前が欲しがってた魔法鞄」
「え?くれるの!?」
欲しいとねだった事すら忘れていた。どうせ無理だろうと思っていたし余計だ。
「まぁ、悪用しないだろう……て事で許可が下りた」
「やったね!!エドありがとう!!」
「お……おぅ」
莉奈が余りにも素直に喜ぶものだから、妙にこそばゆくなったエギエディルス皇子。照れ隠しなのか頬を掻く。
「すぐ使えるの?」
「あぁ、シュゼ兄が登録してくれてる」
なんて、仕事の早い。シュゼル皇子達にも御礼を言わなくてはダメかな……。
……フェリクス王に会うの怖いんですけど……。
「ちなみにコレ、どうやって登録するの?」
魔法鞄を覗いたり、表や裏を見てみたが普通の鞄にしか見えないし、変わった所はない。
「それは、教えられない」
「さよか」
まっ、知れたら誰でも登録出来るしね。
「お前……そういう所、物分かりいいよな」
追及せず、すんなり引き下がった莉奈に感心した。普通、気になって色々訊きたがるものだ。
「だって、世の中知らない方がいい事もあるし、分からなきゃ分からないで別に支障はないから」
興味本位で訊いてみただけだし。貰えるんだからどうでもいい。
「……本当、面白いなお前」
エギエディルス皇子は、さらに感心していた。こういうレアな物はどうなってるのか、大抵は訊いてくるし引き下がった様に見えて、実は興味津々だったりする。
なのに本当に興味がないのか、莉奈は魔法鞄を肩から提げて、紅茶を飲み始めた。
そんな莉奈がエギエディルス皇子には、新鮮で面白くて仕方がない。
「あっ」
「なんだよ?」
やっぱり気になるのか?とエギエディルス皇子は思う。
「コレ、どのくらい物入るの?」
「あ~、6畳くらい?」
「ふ~ん」
……あっちの私の部屋と同じ大きさか……。
そう思うと、複雑でしかない。
「そうそう、エド、さっき魔法鞄からコレ出したじゃない?」
「ん?あぁ」
「魔法鞄に物入れて、その魔法鞄の中に魔法鞄を入れて、さらにその魔法鞄の中に魔法鞄入れて~みたいな事、永遠に出来るの?」
マトリョーシカみたいな?
「…………お前……そういう、ややこしい事言うなよ……」
エギエディルス皇子は、想像してみたのか眉間にシワを寄せた。
「だって、出来るのかな~って」
まぁ、入れた所でどうするんだって話なのだが。
「やった事ないけど、出来るんじゃねぇの?……って、んな複雑な使い方してどうするんだよ」
最初に入れた魔法鞄の中の物を、取り出すのに物凄い労力がいる。そこまでする意味があるのか、と。
「どうもしない」
だって、訊いてみただけだし。やる気もない。
「…………お前なぁ~」
訳の分からない質問をした莉奈に、どっと疲れたエギエディルス皇子。どうこうするつもりがないなら、訊くなよ……と。




