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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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496 ゲオルグ師団長のからあげ


「……ひっ!」




 アンナのおかげで、莉奈は晴れやかな気分になっていたのだがーー

 そんな気分は再び、一気に沈んでしまった。

 莉奈が食べるかどうかはさておき、大好物のミルクワームをくれた碧空の君。その彼女に気持ち悪いと拒否して申し訳なかったなと、白竜宮の竜の宿舎に来て見ればーー

 そのミルクワームが、今まさに碧空の君の口先でグネグネと動いていた。

 ゲオルグ師団長は、早速片付けてくれたあのミルクワームを碧空の君に返してくれたのだろう。ありがたい大変ありがたい……が、碧空の君も貰ってすぐに食べなくても……。しかも、まさかの踊り食い。

 竜が調理する訳がないのだから当たり前だけど、初めて見た莉奈の気分は急降下である。

「ん?」

 人の気配に気付いた碧空の君が振り返ったが、すでにそこには誰もいなかった。

 莉奈は謝りに来たものの、ミルクワームを口にしていた碧空の君を見て、反射的に猛ダッシュで逃げたのだった。

 これが、肉を喰らっていたのならまだ気にしない。だが、あのミミズみたいな虫だけはイヤだった。あんな物を食べている碧空の君を見たくなかったのだ。

 魔物まで喰らう自分が、竜の事を言える立場かと言われたら否だ。でも、イヤなモノはイヤなのだから仕方がない。



「……??」

 莉奈が食べる姿をチラリと見て、爆走して去った事など知る由もなかった碧空の君は、一瞬キョトンとしたものの、まぁいいかとムシャムシャとミルクワームを食べるのであった。




「マジで食べてたよ」

 ゲオルグ師団長があぁ言ってはいたが、どこか信じきれずにいた莉奈だったが、目の前で目撃してしまえば、信じない訳にはいかない。

 最近やっと莉奈の中で、果物を食べたりする碧空の君が、可愛いかもと思い始めていただけに、あの姿は衝撃的だった。

 やっぱり可愛くない。




「あれ? リナ?」

 白竜宮まで爆走して来たら、外廊下で近衛騎士団所属のアメリアとバッタリと会った。

 ぜぇぜぇと肩で息をする莉奈を見て、何事かと驚いている。

 事情を説明すれば、アメリアも最近見た事があったみたいだった。

「私も初めて見た時には、なんとも言えない感じだったよ」

 なんかエグいよねと、アメリアが空笑いしていた。

 咀嚼音がさらにエグいんだよと、いらない情報までくれるから、莉奈の気分はさらにドンヨリである。



「アンナは逆に、あの姿が可愛いって言うんだよ」

「……あ、そう」

 あのアンナの凄い所はそういう所だと、莉奈は思う。

 口の端から、ムニムニと動くあの姿。アレを見ても可愛いなんて良く言えるよ。

「竜は可愛いけど、何をしててもと……までにはならないんだよね」

「……」

 さすがのアメリアでも、あの姿はちょっと引くらしい。

「それ、何持ってるの?」

 そんな事を話しながらチラッと目線を下げて見れば、アメリアが木箱を抱えている事に、莉奈は気付いた。

 蓋がないので覗けば、割れた瓶やグラスだったのだが、何に使うのだろうと疑問に思った。

「各宮の厨房とか、ゴミ捨て場を見に行ってガラスとかを貰って来たんだよ」

「割れた瓶? 何かに使うの?」

「何って琥珀の爪に」

「……」

 琥珀とは、アメリアの番の琥珀の月の事だ。

 莉奈がやり始めたからやるんだけど? という目でアメリアが見るものだから、莉奈は思わず視線を逸らした。

 莉奈が自分の竜にやるのは構わないが、竜騎士団はもれなく巻き込まれるのだ。アメリアは竜が可愛いから、さほど苦にはならないが……竜を飾る事に興味のない者達からは、ため息が漏れているらしい。




「仕事が終わったら爪を綺麗にしてあげようと思って、師団長に許可を得て集めて来たんだよ」

 ゲオルグ師団長や他の竜の為の材料も、ついでに集めて来たとか。

 ゲオルグ師団長が"からあげ"と呼ぶ竜も、そういえば女の子だった。からあげなんて呼ぶから、その名にインパクトが強過ぎて雄か雌かも忘れてしまう。

「ゲオルグさん、からあげなんて呼んで噛まれないのかな?」

「そこはさすがに、本人には言わないんじゃない?」

「……だよね?」

 からあげなんて名前を付けられて、喜ぶ人も竜もいないよね。

 アメリアもそう思ったのか、莉奈と顔を見合わせると苦笑いしていた。

「ゲオルグさんの竜って紫色でスゴく綺麗だし、竜騎士団長の竜って事で"紫雲の盾"とかって付けたらーー」





 ーードスーーン!





 莉奈が言い終わるまでもなく、盛大な音と振動を起こしながら"ナニ"かが降りて来たのだ。

「……っ!?」

 急に現れたナニかに、莉奈は唖然としていたが、アメリアは抱えていた木箱を落とす所だった。

 2人が話をしていたのは、竜の広場に面した外廊下付近である。

 そのすぐ隣の広場に、前触れもなく竜が降りて来たのだから、ビックリでしかない。




「さすがは竜喰らい。良き名を考えてくれました」

 そう言ってピュルル〜と歓喜の声を上げ、ウットリとしているのが噂の紫の竜。ゲオルグ師団長の竜であったから、さらに驚きだ。

 真上から降りて来た気がしたから、白竜宮の屋上で寛いでいたのだろう。

「竜喰らい」

 莉奈は突然の竜の襲来より、竜喰らいと呼ばれた事に思わず半目になってしまった。

 自分はからあげと呼ばれると怒るクセに、人を竜喰らいと呼ぶゲオルグ師団長の竜に、莉奈は憤りを感じずにはいられない。

「あの単細胞にこれからは"紫雲の盾"と呼ぶようにと伝えましょう」

「「単細胞」」

 仮にも自分の番に、毒舌過ぎやしませんかねこの竜は。

 莉奈とアメリアが唖然としている間に、紫雲の盾となった竜はもう用はないとばかりに、トンと地を蹴った。

 そして、去り際にチラリとアメリアの持つ木箱を見てこう一言。

「タンポポの爪には青や紫より、赤系の色の方が似合うと思いますよ? 芋娘」

「「芋娘」」

 莉奈が"竜喰らい"なのだから、"芋娘"とはアメリアの事だろう。そしてタンポポとは、アメリアの竜である琥珀の月の事だ。

 あの竜は誰にでも毒舌だった。

 しかも、アメリアの竜の爪に飾る色の提案だけでなく、タンポポと付けたアメリアのネーミングセンスにまで、揶揄して行くのだから驚きだ。

 莉奈はもはや苦笑いすら出なかったが、アメリアは色んな意味で固まっていたのであった。







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