48 ククベリー
「……で、もう1つ訊きたい事があるんだけど?」
エギエディルス皇子は改めて莉奈に訊いた。
「なんでしょうかね?エメラルド皇子」
疲れた様に紅茶を飲む莉奈。
「お前、逆にすげぇな次々と……」
いつも通り適当に、名前を言う莉奈にある意味感心してみせた。
「……で、ソレなんなんだよ?」
莉奈が持ってきた、パンパンに膨れた袋をチラリと見る。どこで何をしてたのかが気になる。
「ん? あ~コレ? 外に生ってたククベリー」
テーブルに袋ごとドンと載せ開いて見せる。黒々と熟していてほのかに甘い香りがする。
「「「ククベリー!?」」」
エギエディルス皇子達は、そんな物をこんなに採ってくると思わなかったのか驚いていた。
「だって、いっぱい生ってるのにもったいないじゃない?」
そこかしこに生ってるのに、誰も見向きもしない。こんなに美味しいのに。
「もったいないって、んな酸っぱくて食えない物採ってどうすんだよ?」
「私それ、酸っぱくて嫌い」
「私もちょっと……」
エギエディルス皇子、モニカ、ラナは眉間にシワを寄せて言った。この果実の酸っぱさを知っている様だ。
「ちゃんと、熟したの食べたの?」
ちなみに赤いままだと、ものスゴく酸味が強くて身震いする。
「食べたわよ……って、リナそれ腐ってるじゃない」
袋の中身を見たモニカが、呆れた様に言った。黒々としているククベリーが腐ってる様に見えたらしい。
「え? 腐ってないよ? これ一番の食べ頃」
と、莉奈はククベリーを数個手に取り、ぽいっと口に放り込んだ。
うん。甘酸っぱくて美味しい。
「「「………………」」」
3人とも、信じられないって顔をしている。
「いいから、食べてみなって」
そんな3人に、苦笑いしつつ莉奈はククベリーを手に取り薦めた。どんだけ酸っぱいのを食べたのやら、ものスゴい顔をする。
「…………」
渋面のラナが、先に1つ手に取り口に入れた。一応皇子を先に食べさせる訳にはいかないと思った様だ。
「ん?……美味しい!!」
ラナは目を見開いた。酸っぱいのを想像していただけに余計に驚いていた。
「あっ!! 本当!! 甘い」
モニカも口にしてビックリしている。
「んん? あっまっ、全然酸っぱくない」
エギエディルス皇子も、あまりの甘さに目を丸くしていた。
「ね? 美味しいでしょ?」
と、莉奈が笑えば3人共揃って手を出して来た。
「ハイハイ。どうぞ」
袋ごと、テーブルの真ん中に差し出す。どうやらお気に召したらしい。
「黒くなったのって、腐ってたのかと思ってた」
「私も……だって赤くなったのが熟した証拠って聞いてたし」
ラナ、モニカはポイポイと口に運びつつ言う。
「まぁ、酸っぱいのが好きな人もいる訳だし、好みじゃない?」
遠慮がない3人に呆れつつ、自分も口に放り込む。
「「「絶対コッチ!!!」」」
3人は仲良くハモった。
「さいですか……」
甘い生クリームのケーキとか、アイスクリームなんかには、赤い方が合いそうではある。莉奈はそんな事を考えつつ、ククベリーを紅茶にポイと何個か入れスプーンで潰す。
「……何してんだ? お前」
エギエディルス皇子は顔をしかめた。また莉奈が変な事をしているとでも、思ったのかもしれない。
「ん~? フレーバーティーにしてるの」
本来なら、こういう作り方はしないが、面倒くさいので簡単な方法をしてみた。
「なんだよ。フレーバーティーって」
やっぱりないのかエギエディルス皇子が、不思議そうに訊いた。
「フルーツとかで香りづけ? した紅茶の事」
「…………」
エギエディルス皇子は、返答の代わりに莉奈のマネをしてククベリーを紅茶に入れてみた。
「あっ! ククベリーの香りがして旨い」
「でしょ? まっ、本当はフルーツ入れたポットに紅茶を注いで、蒸らすんだけど面倒くさいし……」
「面倒……まぁ、簡単で旨いからいいけど」
「なんだったら、ジャムとか入れたフレーバーティーの方が、甘くて美味しいけどね」
ジャムは香りは弱いけど、甘くて美味しいしなにより簡単でいい。
「「「ジャムって、何!?」」」
3人が知らない言葉に、食い付いてきた。
「………………」
うわぁ……面倒くさっ!!
「………………」
莉奈はガン無視して、紅茶を啜った。




