471 我が同志
昼食が終わり、莉奈は片付けを手伝うと厨房を後にした。
皆が大きく変化を遂げた聖木こと聖樹を気にしている中、莉奈はスライムがどのくらい乾燥したか気になり、銀海宮の中庭に来ていたのだ。
あのイベールが掃いただけの事もあり、人集りはなかったが人影が一つ。
「タールさん」
そう、魔法省長官のタールの姿があったのだ。
今朝がた聖樹を見たものの、様子が気になり再び見に来たのだが、ガゼボの前にバットが置いてあったので、何だろうと覗いていたらしい。
「"スライム"ですか?」
魔力消費を抑えるため、普段あまり【鑑定】を使わないタール長官も、余程気になったのか使用したみたいだった。
「あ、はい」
「乾燥させてどうするのでしょうか?」
「えっと。乾燥させて砂糖水に漬けると、黒糖タピオカみたいで美味しいらしいので」
「えぇ!? コレ、食べられるのですか!?」
「え、まぁ一応?」
エギエディルス皇子達みたいに、拒絶反応をするかなと構えていれば、タール長官は瞳をキラキラとさせていた。
そうだ。忘れていたが、彼は珍味好きだった。
黒糖タピオカが何か分からないみたいだが、美味しいと言う言葉に反応した様である。
「ミルクティーに入れると、美味しいみたいなので出来たらーー」
「お待ちしていますね!」
「はい!!」
皆が皆、イヤそうな表情しかしてくれなかったので、莉奈は感激していた。
やっと理解してくれる人がいたと、思わずタール長官の手を握り、ブンブンと振ってしまった。
「白いのは"ゼラチン"にもなるので、ゼリーやババロアとか作ったら持って行きますね?」
「そんなに活用出来るのですか!! それは楽しみですね」
「はい!!」
何この感動。
分かち合える同志がいたというだけで、なんだか不思議と嬉しい。
それからしばらく、タール長官とスライムの話で花が咲いていた。色ナシはどう使えるのか、黒は黒糖タピオカみたいになるとか、他の人が聞いていたら絶対にドン引きする事、間違いなしの異様な会話である。
ーーそして。
このスライムを魔法ですぐに乾燥させる事も出来るが、初めは天日干しで作った方が良いだろうと、このまま天日干しにする事にしたのだった。
◇◇◇
ルンルン気分で自室に戻って来たら、ラナ女官長と侍女モニカが掃除をしてくれていた。
珍しく厨房出禁のサリーもいる。
「ねぇサリー、服は洗うようになったみたいだけど、お風呂には入ってるの?」
面倒くさいと服を洗わない、私服にも着替えない人だ。
服は洗うようになったとラナ女官長に聞いたけど、なんかどうも気になる。臭ったりはしないけど、1度そういう目で見てしまうとついね?
「失礼な。3日に1度くらいはしっかり入ってるよ」
「「なっ!?」」
「……」
3日に1度は"しっかり"とは言わないと思う。
しかも、"くらい"と言うのだから、頻度はもっと少ない可能性がある。
ラナ女官長とモニカが弾けるようにサリーから離れ、ものスゴい形相でサリーを見ていた。
服を洗わない以前の問題だったなと、莉奈は笑いも出なかった。
「【浄化】魔法があるのに、毎日入る意味が分からない」
「「そういう問題じゃないのよ!!」」
サリーがあっけらかんと言えば、ラナ女官長とモニカが速攻で反論していた。
確かに浄化魔法は色々便利だけど、掛ければ万事解決って訳ではない。服はしっかりと洗うべきだし、身体もそうである。
臭わないからイイとか言う問題ではないのだ。
「ラナ、モニカ」
「「サリーは出禁にするわね」」
莉奈の心情を察した2人は、サリーを部屋から追い出したのであった。
莉奈も面倒くさがりだが、どんなに疲れていても、毎日着替えるしお風呂もちゃんと入る。サリーは徹底し過ぎである。
彼女の部屋はどうなっているのだろうと、少しだけ興味があった莉奈だった。
「お風呂まで入っていなかったとは」
「お風呂ちゃんと入ってる? なんて普通は訊かないし、仕方がないんじゃないですか?」
「そうよね。普通は入ってると思うものね」
「2人はちゃんと入ってるの?」
「「当たり前でしょう!?」」
莉奈が一応確認すれば、即座に返事が返ってきた。
むしろ、サリーなんかと一緒にしないで欲しいと、怒られてしまった。
「碧ちゃん達の方が綺麗なのかも」
莉奈は呟かずにはいられなかった。
莉奈の番である碧空の君は、毎日のように温泉に浸かっている。3日に1度のサリーより、断然清潔である。
竜より汚い人間って、どうなんだろう。
ーードスーーン!!
莉奈が深いため息を吐いていると、激しい音と振動が……。
碧月宮の近くに、何か落ちて来たらしい。
まぁ、隕石な訳がないから、竜だろう。
「リーーナーー!!」
その声に碧月宮だけでなく、ラナ女官長とモニカが震えた。
さっきまでご機嫌だった莉奈も、一気にどんよりである。
竜って、本当に騒がしい子だよ。
碧月宮が破壊される前にと、莉奈はため息を吐きながら外に出るのであった。




