468 リリアンのポテンシャルとは
「話している間にプックリ膨らんだので、出来上がり」
この方法なら、厚さを均等にしたり油を揺らしたりしなくていい。
工程は面倒だけど、その分揚げる時間は短くなる上に、失敗しにくいのである。
「これを平皿に置いて、適当な大きさに切った生ハムをその上にのせる。横にサワークリームを添えて、エドとシュゼル殿下にはハチミツ、フェリクス王には黒胡椒を振りかけ、最後にバジルの葉を飾れば、豪華版のポム・スフレの完成!!」
そのままならお菓子だけど、生ハムやサワークリームを添えると、オシャレなレストランで出てきそうなくらいに豪華になる。
キャビアがあったら、もっと高級感は出たかも。
ポテトチップス単品は賓客に出せないけど、一手間掛けたコレならいけるハズ。
「お菓子が料理になったな」
「しかも、なんかすげぇオシャレじゃないか?」
「ジャガイモって……実はスゴいポテンシャル持ってたんだな」
皆は莉奈の作った豪華なポム・スフレに釘付けである。
大した手間もなく、こんなオシャレな料理になると思わなかったのだ。莉奈の手に掛れば、どんな食材も魔法に掛けたように、美味しい料理に変化する。
「まぁ、こっちの2枚重ねたポム・スフレなら、失敗しにくいけど……」
「けど?」
「キミ達は、このヴァルタール皇国を担う王宮料理人である。重ねない方で頑張りたまえ」
「「「えぇぇーーーーっ!?」」」
均等に切るのも膨らませるのも、スゴい難しいんだよね。
でも、王宮料理人なのだから、難しいのをこなしてこそである。莉奈はわざとらしく高笑いしながら、次のジャガイモ料理に取り掛かる。
◇◇◇
「膨らまない!!」
「何で!?」
「私は膨らんだけど、なんか形が変だし」
「リナと同じやり方のハズなのに、なんでよ!?」
「「「何故だ!!」」」
重ねないポム・スフレを作る料理人達が、悪戦苦闘していた。
工程としてはただ揚げるだけなのにスゴい難しくて、初めてだと大抵失敗する。労力の割に食べづらいから、家でもあまり作らなかった料理だ。
フランス料理だと付け合わせの定番らしいが、難しいからかあまりお店で見かけない。
莉奈は悪い笑みを浮かべながら、茹で上がったジャガイモの皮を剥いていた。
「「……」」
莉奈の手伝いをしていたリック料理長とマテウス副料理長は、そんな莉奈を見た後、顔を見合わせて苦笑いするのだった。
「皮を剥いたジャガイモは潰せばいいのか?」
「うん、全部潰して」
「了解」
そんな顔をしている莉奈はともかくとして、リック料理長は既に次に何をするのか考えていた。
潰すのを任せた莉奈は、他に必要な材料を用意する。
片栗粉と牛乳、チーズ、それと醤油とバターである。材料はこれだけだ。
「潰したけど、どうするんだ?」
「そこに牛乳と片栗粉を入れて、捏ねる」
「ジャガイモにジャガイモのデンプンを混ぜるのか」
「そうだね〜。なんか面白いよね?」
言われてみれば、確かにジャガイモにジャガイモを入れている様なモノだ。違和感なく作っていたけど、料理って不思議だらけである。
「牛乳と片栗粉はドバドバ入れなければ、適当で大丈夫。固さはパン生地くらい? とにかく綺麗に纏まるまで捏ねて、後は食べ易い大きさに丸めて平たくして、フライパンで焼く」
「焼くのか。油か?」
「バター」
「了解」
莉奈が料理長達とほんわかと作る一方で、一向にポム・スフレが成功しない料理人達の嘆きが聞こえていた。
失敗作の厚切りポテトチップスが山積みになっている。
「コレはコレで美味しいけどな」
「でも、どちらかと言えばやっぱり、ポテトは薄切りのパリッが俺は好きだし」
「なんで膨らまないんだ??」
「そしてーー」
「「「なんで、リリアンはそんなに上手いんだ??」」」
皆が失敗を繰り返している中でただ1人、何故かあのやらかしの料理人リリアンだけが、ケラケラ笑いながら楽勝で作っている。
ジャガイモの発注は間違えるし、パンを焼いているオーブンは開けるしで、いつも皆をお騒がせしている彼女が……である。
「皆、超下手だねぇ〜」
「「なんだとぉ!?」」
そう言われ青筋を立てる皆をよそに、パシャパシャ、グルグルと油を掻き回しながら、リリアンは次々とポム・スフレを作っていたのであった。
「リナ、そろそろイイんじゃないか?」
「あ、そうだった」
「忘れるなよ」
なんとも言えない顔をしてリリアンを見ていた莉奈に、マテウス副料理長が笑っていた。
莉奈の言いたい事も、気持ちも分かるからだ。
リック料理長もマテウス副料理長も、リリアンはよく分からないと苦笑していた。
「両面に焼き目が付いたら、ここでユショウ・ソイこと醤油と追いバターで一気に仕上げる」
気にしても仕方がないと、莉奈は今作っている物に集中する。
ジャガイモを捏ねた物にこんがり焼き色が付いたので、そこに醤油とバターを入れて一気に絡めた。
ジュワッとした音と共にバター醤油の甘く香ばしい匂いが、厨房全体に広がっていた。
リリアンに青筋を立てていたポム・スフレ組も途端に、莉奈の作る物に釘付けである。
作る物が見えなくても、匂いにフラッとやられていた。
「ジャガイモで作った"いももち"の出来上がり!!」
そう、莉奈が作っていたのはジャガイモのいももちである。
小腹が空いた時に食べられる様に、冷凍庫によく作り置きしてあったなと思うと懐かしい。
「んじゃ、さっそく皆で食べよう」
「「「いただきま〜す!!」」」
新作料理は、皆も飛び付いて来る。
この貪欲さが、料理人達のイイ所であり怖い所である。莉奈はそんな皆を見て犬みたいだなと、笑っていたのであった。
【お知らせ】
皆々様の応援のおかげで、本日7月8日(金)
小説"聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました"の7巻の発売となりました。(╹◡╹)
気付けば、7巻ですよ。
本当にありがとうございます。
そして、これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
感謝です╰(*´︶`*)╯♡




