465 皇子め
フェリクス王とシュゼル皇子に完全拒否された莉奈は、フラフラと銀海宮の厨房に来た。
「作っても、誰も食べてくれないのかも」
中庭にスライムを放置して来たが、アレは自分しか食べないのかもしれないと、莉奈はボヤいていた。
シュゼル皇子に裏切られるとは思わなかった。
アイスクリーム皇子め。
「ゼリー、ババロア、ジュレ、スライムがあれば料理の幅が広がるのに」
莉奈のボヤきは止まらない。
「炙ったマシュマロを、ビスケットで挟んで食べたら美味しいのに〜!!」
マシュマロの材料にも、もれなくゼラチンが含まれている。ビスケットもないけど、焼きマシュマロの為に作ってもいい。
だけど、黙って作って出せば極刑とか言うし、エギエディルス皇子め。
「まぁ、1人で堪能すればいいか」
結果、開き直った莉奈だった。
◇◇◇
「お前、いつか何かやらかすとは思っていたけど……」
「「「とうとう、盛大にやらかしたなぁ〜」」」
厨房に来たら、マテウス副料理長を筆頭に、染みじみ深々とそう言われた。
莉奈が"聖女"みたいだと、光の速さで広まっている。
執事長イベールがそう言っていたが、聖女はとにかくとして、莉奈が聖樹にした事は広まっている様だ。
しかし、やらかしたとは失礼だ。
「皆々様のご多幸をお祈りしたら、そうなりましたの」
口を手で隠しながら、オホホと莉奈は空々しく笑ってみせた。
実際は勝手に作った魔法薬を、何も考えずに撒いただけだけど。
「何がご多幸だよ」
「お前の事だから、枯れてる聖木を元気にさせようとして、違った方向に盛大にやらかしたんだろ?」
「どうせ枯死しちゃうんだし〜みたいなノリだよね?」
「しかも、絶対に陛下に相談なしだろう?」
「聖樹に進化したからイイものの」
「方向性が違ってたらーー」
「「「極刑レベルのやらかしだからな」」」
莉奈の事が分かってきた皆は、ノープランで勝手に何かしたと確信していた。
一部の人達は、莉奈はまさしく聖女であると言っているらしいが、莉奈を良く知る料理人達は、聖女だとしても"やらかしの聖女"であると揶揄している。
良い方向に変化したからイイものの、莉奈の予期せぬ行動には皆冷や冷やものであった。
冗談抜きで莉奈が極刑にならなくて、心底ホッとしている皆だった。
そんな皆を莉奈は笑い飛ばすと、厨房の片隅で何やら書き込んでいるリック料理長の姿を見つけた。
「リックさん、毎日の様にココにいるけど、ちゃんと休んだ方がいいよ?」
今日もリック料理長は、厨房に立っているのだ。
週2で休みがあるハズなのに、彼はいつでもココにいる。
「リナ、何を言ってもダメなのよ、あの人。趣味も料理になってるから」
食堂の片付けをしていたリック料理長の奥さんで、ラナ女官長が呆れた様なため息を吐いていた。
今まで、食べる事に興味のなかった皆が、莉奈のおかげで毎日楽しみにしてくれる様になったのだ。
それに触発される様に、料理人達も作る楽しさを知っていった。
特にリック料理長は莉奈が来てからというもの、負けてられないと日々料理漬けらしい。
莉奈を追い越す事は無理でも、王宮料理長の名に恥じない様に、寝る間も惜しんで精進しているとの話だった。
根が真面目だから、余計に打ち込んでいるみたいだった。
妻として、ラナ女官長は夫の身体が心配の様である。
さっき貰ったエリクサーの世話にならなければイイなと、莉奈はリック料理長を見て思った。
健康があっての、料理だよ?
なんて、奥さんが言ってもダメなのだから、莉奈が言ったところで慰めにもならない。だから、莉奈はあえて口にはしない事にした。
王宮料理長として責務や重圧があるのだし、適当な言葉は返ってイヤミにもなる。
「頑張り屋のリックさんの為に、何か作りますか」
料理人には料理で応えようではないか。
慰めるのはラナ女官長に任せて、莉奈は料理で楽しませてあげようと一肌脱ぐ事にした。
「なら、ジャガイモを使ってくれるとありがたい」
食料庫に向かう莉奈の背に、マテウス副料理長の声が掛かった。
「ジャガイモ?」
「発注数の桁を間違えて発注した、バカ者がいるんだよ」
マテウス副料理長が盛大なため息を吐くと、厨房の隅でヘラッとしているリリアンがいた。
一斉にアイツなんだよと皆が見れば、反省する気ゼロ、悪気もないリリアンが笑っていた。
ここは魔法鞄あるから腐りはしないが、だからといって大量にあってイイ訳ではないと、マテウス副料理長がボヤいていた。
「ジャガイモねぇ?」
莉奈の頭には、途端にレシピが浮かび広がっていた。
ポピュラーな食材だけに、レシピは膨大だ。だが、作り方が難しいのはなるべく避けたい。教えるにしても作るにしても、自分が面倒だからだ。
そもそも、今はスライムを使って何を作ろうか、そっちに意識がまだあるのであった。




