460 なんか複雑だよね?
「なんだって?」
「保温剤とか保冷剤」
スライムの身体は、温冷に関わらず熱を溜めておけるのだろう。
寒い日にはカイロ代わりに、暑い日には冷却シート代わりになるのでは? と莉奈は予想する。
「……よく分からねぇけど、温石みたいなモノか?」
「おんじゃくって何?」
可愛く小首を傾げたエギエディルス皇子がそう言えば、今度は莉奈が首を傾げる番だった。おんじゃくが何か分からない。
「あ〜、えっと懐炉って言えば分かるか?」
「カイロ。うん、それ」
エギエディルス皇子が他の言い方を教えてくれれば、莉奈も温石の意味が分かった。
日本でも、東や西で同じ物でも言い方が違うし、こちらの世界も同じみたいだ。
「あ、ちなみにソレを冷すと保冷剤になるみたいだから、熱とか出た時に冷やしてオデコにのせるといいんじゃない?」
熱を冷ますシートがない世界だけど、その代わりになるのは便利だ。
氷だと冷た過ぎるし、寝返りを打つと落ちたりズレたりするからね。
莉奈がそう説明すると、皆の眉間にシワが寄っていた。
「マジかよ」
「冷やしたスライムをオデコにのせんのかよ」
「「「気持ち悪っ!!」」」
想像でもしてみたのか、皆はブルっと身体を震わせていた。
ブヨブヨした物体が、額にのるのがどうもイヤみたいだ。
「そうかな?」
莉奈は小首を傾げる。
魔物を食べている現在、魔物を額にのせるくらいの事は、なんでもない気がしたのだ。
だが、冷静に考えると、この世界にジェルシートやゼリー状の物をほとんど見かけない。だから、イカみたいな感触を額に貼ったりするのは、抵抗があるのかも。
でもコレ、美容パックにも出来ると表記されている。
となると……作れば例えスライムでも美容マジックで、女子達は気持ち悪いとか言わずに、絶対顔に貼るだろう。
考えたくもないけど、竜も欲しがりそうな気がする。
どの世界も、女性の美に対する執念って恐ろしいよね。
「とりあえず、解体してよ」
莉奈は地面にデロンとしている色ナシのスライムを、魔法鞄から取り出した鍋の蓋二つで挟んで、エギエディルス皇子に差し出した。
「お前……触れもしねぇスライムを食うつもりなのかよ」
素手で触れもしないスライムを、解体し調理して食おうとしている莉奈が、エギエディルス皇子には信じられなかった。
「うん?」
「なんで疑問形なんだよ」
「解体して調理してから考える」
「……バカじゃねぇの?」
そこまでしてスライムを食べる意味が分からない。
エギエディルス皇子は呆れ果てていた。
「大体、素手で触れないのに、どうやって調理すんだよ」
「解体したら、たぶん触れる?」
「はぁ? なんでだよ」
死骸はイヤだけど、肉というか部位になれば平気だ。
スーパーで売られている鶏だって、食肉加工されているから平然と触れるのだと思う。
莉奈がそう説明したら、エギエディルス皇子が眉根を寄せて、地面を指差した。
「なら、そこにいるミミズも解体したら触れるんだな?」
「気持ち悪っ!!」
ウネウネと動いているミミズなんか、解体されたって触りたくもないし、絶対に食べたくない。
肉だと言われても、断固拒否する。莉奈は想像し、身震いしていた。
「スライムは平気で、ミミズはダメ……俺はお前の基準が分からねぇ」
エギエディルス皇子からしたら、スライムもミミズも同じ感覚の様である。
「んじゃ、ヤメとく?」
莉奈は渋々スライムを地面に置いた。
他にも色々食べられる物はあるのだから、別に無理して食べる必要はない。
莉奈がミミズが苦手なように、エギエディルス皇子もスライムが嫌なら廃棄でも構わない。
そこまでナタデココが好きではないし、代用食になるスライムを無理して食べたい訳でもない。
「……食べるかどうかは別として、カイロになるんなら試作してみる価値はある」
少し考えたエギエディルス皇子は、莉奈の置いたスライムを素手で拾い上げ、魔法鞄にしまっていた。
見た目は可愛いのに……エギエディルス皇子、そういう所はワイルドだよね?
それを見ていた莉奈は、フと思った。
「ん? ひょっとして、培養スライムでも作れるんじゃないかな?」
ゴミ箱や庶民のトイレに使用するくらいだから、安心安全なハズ。
なら、わざわざ捕獲しなくても、作れるのでは? と莉奈は考えた。
「う〜ん? 試さないとなんとも言えねぇけど……」
「けど?」
「培養スライムは野生に比べて柔らかめだから……」
「だから?」
「……気持ちが悪い」
「……」
培養スライムを触った事がない莉奈は、その柔らかさの違いが分からない。だが、言われてみれば確かにゴミ箱のスライムは、さっき倒したスライムより柔らかい感じがする。
湿布的な感触ならまだしも、ネットリしたモノを額にのせるのは、さすがの莉奈でも抵抗感はあるかもしれない。
これは勝手な想像だが、野生のスライムは運動するから筋肉質で、培養スライムは動き回らないから、プヨプヨなのでは?
スライムの身体は筋肉とは違うけど、外敵のない環境で培養されたスライムは、贅肉みたいに柔らかくなるのかもしれない。
そう考えていたら何故か複雑な表情になり、つい自分のお腹をさすってしまった莉奈なのであった。




