454 愚痴くらい聞いてよ〜
「碧ちゃん。ヒドイと思わない?」
「……」
「碧ちゃん?」
報連相をしろと言われたからしたのに、結果的に却下されてしまった莉奈。
何故、却下されたのかイマイチ納得がいかなかった。
だが、聖樹の事もありラナ女官長達に愚痴を言う事も出来ず、竜の宿舎に来て口を尖らせて文句を言っていた。
碧空の君に愚痴を聞いてもらいたかったのだが、まったく相手にされない。
それどころか何やら、美容液を塗ってあげた右手の爪をジッと見ている。人でいうところの人差し指に塗ったのだが、なんだか不服の様だった。
「やっぱり特別感がない」
何かと思えば、そうブツブツ言っていた。
結局、美容液を皆に塗ったので個性がなくなってしまったのだ。限られた竜だけなら特別感があるが、皆と同じなら意味がないと先程からずっと文句を言っている。
せっかく頑張って競争までしたのに、皆が1等賞でつまらないのだろう。
昨今の幼稚園では、駆けっこしても皆で仲良くゴールするという、やる意味の分からない競争があるらしいけど、勝ち負けがあるから面白いし意義があると思う。
皆が一緒なら、頑張る意味がなくなるよね。
「何か、飾り付けしてあげようか?」
ため息まで吐いて、ションボリしている碧空の君を見ていたら、なんか可哀想になってしまった。
せっかく、自分を番に選んでくれたのだし、ここは一肌脱ぎますか。
「部屋の飾りは、これ以上はーー」
「部屋じゃないよ」
模様替えもアリだけど、汚れたり壊れたりで頻繁に直している。
その度に近衛師団兵に手伝ってもらっているから、模様替えゴトキで呼びたくない。
莉奈はそうではないと、笑った。
「まぁ、右手を出して目を閉じて……ってなんで、そんな目で見るのかな?」
出来た後のお楽しみ、と目を瞑っていてもらおうと思ったのだが、ものスゴく胡散臭い目で見られていた。
何故、番にまで信用されていないのかな?
「ブン殴るよ?」
「竜を殴ろうとするのは、あなたくらいなものですよ?」
拳を挙げれば、さらに胡乱げな表情で見られた莉奈。
硬い鱗に覆われた竜を、素手で殴ろうなんて莉奈しか考えない。竜には効かないし、むしろ人間がケガをするからだ。
そもそも、莉奈のゲンコツなど、フェリクス王に比べれば蚊に刺されたようなものだろう。
「いいから、目を瞑る!!」
人がせっかく、喜びそうな事をしてあげようとしているのに、なんて目で見るのか。失礼にも程がある。
イマイチ信用出来ないながらも、さすがに番は食べたりはしないだろうと碧空の君は目を瞑った。
莉奈は碧空の君が目を瞑ったのを確認し、魔法鞄から色々と取り出した。
樹脂から作った接着剤やワックス、料理人リリアンが落として割ったガラス瓶の残骸。後は竜〈主に真珠姫と碧空の君〉が破壊した窓ガラスや壁、とにかく側から見ればガラクタ達である。
まずは、まだ美容液の効果が残る爪の根本に、接着剤をたっぷりと塗った。そこに、色取り取りの割れたガラスを、縦や斜めに立体的に見えるように綺麗に固定する。
碧空の君の身体は空色なので、赤色系は避けて青や緑、挿し色に薄い黄色を混ぜてみた。即効性の接着剤だと聞いたので、すぐに固定されるだろう。
それだけだと何かつまらないので、細かく砕いたガラス瓶をワックスに混ぜ、爪先以外の部分にたっぷりと塗りに塗ってみた。
今は碧空の君自体が影になり暗いけど、爪が陽に当たれば光を反射してラメみたいにキラキラとして見えるに違いない。
まぁ、暴れればすぐに剥げるだろうけど……。
「うん、出来たよ。碧ちゃん」
あまり、やり過ぎても品がないから、このくらいで良いだろうと莉奈は片付けながら言った。
光る物好きだから気にいると良いなと、碧空の君をチラッと見れば、自分の爪を見た瞬間に固まっている。
「……」
「あれ? ダメだった?」
爪を見たまま、何も言わないしアクションを起こさない碧空の君を見て、失敗だったかな? と莉奈は心配になっていた。
「……な……コ」
「なこ?」
「なんですか!! コレは!?」
「え? あぁ"ネイルアート"?」
マニキュアを塗るだけを含めれば、女子なら1度はやるネイルアートである。
特に夏休みなんか、先生に怒られないからやるよね。
シール貼ったりラメ付けたり、そこまでやらなくてもマニキュアだけ塗ったりと。夏はサンダルを履くし、プールや海に行く時に足が見えるから、マニキュアを塗ってオシャレにする。
竜が……なんてオカシイ気もするけど、女の子だし楽しいかなとしてみた。
「……キラキラで……綺麗」
碧空の君は、莉奈がしてくれたネイルアートに釘付けである。
ただ割れただけのガラスは人には危険だけど、竜は硬い鱗があるからガラスごときでケガなどしない。爪に付けたら邪魔そうだが、全ての爪ではないからイイだろう。
角度を変えれば、光が反射してキラキラと輝いて見えてイイ感じだ。
ワックスに混ぜたガラスの破片も、ラメみたいに光って見えた。
素人ではあるが、中々の出来ではないかと自負する。
「頑張ってくれた日にだけ、特別ね?」
莉奈はウットリとして見惚れている碧空の君に、一応言っておく。
なんだか聞いているのか分からないけど、こんな飾りは毎回は無理だ。
材料がどうこうではなく、竜が大人しい訳がない。武器である爪や牙は常に使う。だから、いくら綺麗に着飾ったところで装飾した物など、取れてしまうだろう。
宿舎で寝ているだけなら取れないけど……まぁそんな事をしていたら、フェリクス王に追い出されるのは間違いない。
「私は、あなたを番にするために生まれて来たのかもしれません」
「大袈裟な」
そう言って碧空の君は猫のマーキングみたいな仕草を見せ、莉奈の身体に鼻先を擦り付けていた。
本当に調子がイイよね?
だけど、ものスゴくご機嫌なのはイイとして、服が傷むからやめてほしい。
「接着剤はすぐ乾くけど、一応10分くらいジッとしてなよ?」
「わかりました」
「それと、すぐに取れると思うけど……たまにしかやらないからね?」
「……」
だが、返事はなかった。
「碧ちゃん」
「……」
「たまにだからね?」
「……」
「おい、コラ。無視するな」
綺麗に飾られた爪が気に入って見惚れている……かと思ったのだが、どうやら莉奈の言った"たまに"の言葉が不服らしく無視する碧空の君。
聞きたくない言葉は、聞かなかった事にするつもりなのだろう。
「剥がすよ?」
と脅してみれば、慌てて飾った爪を隠した。
しっかり聞こえているではないか。
莉奈がジト目で見ていると、碧空の君は口を尖らせた様に口先でモゴモゴとこう言った。
「わかりましたよ」
仕方がない、と。
何が仕方ないのか莉奈は納得がいかないが、とりあえずヨシとしよう。
「取れたら取れた時だと諦めなよ?」
取れる度にネイルをしてあげたりはしないから、と莉奈は一応もう一度言って宿舎から去る事にした。
「……」
だが、碧空の君から返事はなかった。
どこかとぼけた様子で目も合わせる気もない。
これには苦笑いする莉奈なのであった。
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