453 シュゼル皇子もリナものほほ〜ん
「……」
莉奈の顔面から手を離したフェリクス王は、シュゼル皇子達から説明と言う名の事実を知らされていた。
結果、聖樹の力を確かめるすべは、フェリクス王を聖樹から遠ざける事である。
聖なる力で魔物を寄せ付けない聖樹。恐れで魔物が近寄らないフェリクス王。
一見意味は違うのだが、魔物が寄って来ないという点では、まったく同義。聖なる力か、恐怖かの違いである。
だが、魔物だけでなく人をも従わせるという点では、聖樹なんかより格段に上だ。
正義も悪も、フェリクス王の前では平伏するのかもしれない。
「兄上の存在そのものが、この国の光なんだな」
もはや、兄王に対して尊敬を通り越して崇拝に近いエギエディルス皇子。
皆が畏縮している中、1人キラキラした無垢な瞳でフェリクス王を見ていた。尊敬する兄王が、想像以上に凄くて嬉しくて堪らない様だった。
ーーガシ。
「……ぅぇ?」
末皇子の瞳は、純粋過ぎてあまりにも眩しい。
フェリクス王はつい、エギエディルス皇子の顔面を右手で鷲掴みしてしまった。そんな尊敬な眼差しで見られると、無性にむず痒くなる。
そんな高尚な人間ではないと。
「あはは、悪に光は眩しーー」
「黙れ」
余計な事を笑いながら言った莉奈の顔面を、失笑したフェリクス王の左手が再び、鷲掴みするのは光よりも早かった。
◇◇◇
「と言う事で、カカオ豆をよろしくお願いします」
「「「……」」」
何をされてもめげないシュゼル皇子には、莉奈も唖然である。
是が非でもカカオ豆が欲しいんだなと、莉奈はため息が漏れた。
真珠姫は、まだこの世界のカカオ豆"カカ王"の存在を彼に伝えていないみたいだけど、もう時間の問題な気がする。
こうなったら、フェリクス王の部屋にでもヒッソリ置いておこうか。
ダメか。何かあるとすぐ莉奈のせいにするから。
「陛下。とにかく、視察も兼ねて数日ほど城外へ行かれては」
タール長官は非常に恐縮そうに、やんわりと言った。
シュゼル皇子の私利私欲が、話をややこしくする。しかし、フェリクス王が信じなくとも、とりあえず王城から遠ざける必要があるのだ。
「……チッ」
不服しかないフェリクス王は、返事は返さず舌打ちをしていた。
自分の姿を見て、魔物が逃げ出すという事実など認めたくないのだろう。
「あ、リナも同行させて下さいね?」
「「はぁ?」」
シュゼル皇子の言葉にフェリクス王だけでなく、莉奈も思わず声を上げてしまった。
何故、フェリクス王の視察に付いて行かなくてはならないのか。
「だって、リナがいなければ"カカオ"探しは雲を掴むくらいに難しいでしょう?」
「「「……」」」
何が"だって"なのだろう。
ほのほのと言うシュゼル皇子に、皆は言葉をなくした。
確かに、現時点でカカオが何か知るのは莉奈だけだ。しかも、この世界のカカオがアッチの世界のカカオと、姿形が違うとしても莉奈には知識と【鑑定】がある。だから、連れて行けと言うのだろう。
実際、莉奈はこの世界のカカオ"カカ王"を所持している。それを手に入れた真珠姫に問えば、生息地は明らかになる……可能性大である。だが、莉奈は色々と怖くて絶対に漏らせない。イヤな汗が流れ過ぎて、もう汗だくである。
もうカカオから、一旦頭を離してくれないかな?
「まぁ、いい」
カカオ豆は無視するとして、皆がそこまで言うなら視察に行って来ようと、フェリクス王は面倒くさそうに話を終わらせた。
シュゼル皇子がほのほのとしかもさりげなく、莉奈を連れて行けとフェリクス王の前に差し出していたが、フェリクス王はガン無視である。
長弟の私利私欲だけのために、莉奈を連れて行く訳がない。
人身御供の様な気分になった莉奈は、顔が引き攣るのであった。
とりあえず、聖樹はこのまま経過観察という事となった。
もちろん、フェリクス王は王城からしばらく出る予定になったが。
シュゼル皇子がしつこいくらいに、カカオ豆の話をフェリクス王にしていたが……どうなる事やら。
フェリクス王が折れるとは思えないから、鉄拳が待っているに違いない。
しかし、莉奈はともかく、エギエディルス皇子も同行させようか算段中みたいだった。
カカオ豆探しは置くとして、視察は良い事だからね。
箱入り息子ならぬ、箱入り皇子のエギエディルス皇子には良い経験になるだろう。
◇◇◇
「"エリクサー"作ってもイイですか?」
「いい訳ねぇだろうが」
朝食後。
執務室にいるフェリクス王に、お伺いを立ててみたら、即刻で却下された。
あれから、フェリクス王に「何か作る時は、先に報告、連絡、相談しろ」と叱責されたので、莉奈は早速"報連相"をしたのだが……ダメらしい。
「え? なんで??」
「は? お前、むしろ何故、許可が出ると思うんだよ?」
キョトンとしている莉奈に、エギエディルス皇子が呆れていた。
エギエディルス皇子は聖樹についての報告書を作成していて、ますます重大な案件だと頭を抱えていた所に、莉奈のあっけらかんとした発言だ。
料理を作る様な感覚で、サラッと言うのだから頭が痛い。世界を揺るがす事態なのだと、やらかした当人が1番理解していなかった。
「だって、瀕死の人を救う魔法薬だもん。エドとかシュゼル殿下に万が一があった時に必要でしょう?」
命に関わる事が多い王族には、絶対に必要な魔法薬である。
毒薬なら作らないが、回復系の魔法薬なら害はない。もしもの時に慌てて作るより、初めから備えてあれば可愛いエギエディルス皇子に何かあっても安心ではないか。
「陛下が抜けておいでです」
王族と言わず、王弟2人に限定した莉奈を、執事長イベールが冷ややかに言った。
瀕死回復薬は必要だと言う莉奈の言葉に、珍しくイベールも賛同した。
だが、1番必要な国王陛下であるフェリクス王が抜けている。
「あはは、陛下は殺しても死にませんよ」
だって、魔王様だもん。
ーーカン!
莉奈の額にペンが飛んで来たのであった。




