450 大人しくしてくれ
「朝露は出来なかったね?」
「さっきまで、枯れていたしな」
気象条件が合わなかったのか、聖木が成長したてで作る暇がなかったのか知らない。
だが、それっぽいモノは葉には見つからずである。
とりあえず、手の平サイズのピンク色の花と、聖樹の実を数個手に入れた。
普通は花が咲いた後に実が生るのだけど、急成長した弊害か聖樹がそうなのか、花と実が同居している不思議な状態である。
そういう木もあるのかもしれないなと、莉奈は1人納得していた。
しかし、聖樹でさえとんでもないのだから、その花や実が普通という事はないだろう。
花は萎れてしまうと困るので魔法鞄にしまったが、実は1つだけ手元にある。莉奈はそれをじっくりと見ていた。
聖樹の実の表皮は、ヤスリで研いで磨いたのかってくらいにツルピカだ。色は不思議で神秘的。光に当てる角度により青や紫、赤や黄色と様々に見えた。
大きさや形はラグビーボールと似ていて、重さはスイカと同じくらい。持つと、ズッシリとしていてかなり重い。
一見は巨樹なのに、受粉しないで実が生るとはキュウリみたいだ。
【聖樹の実】
神の実と呼ばれ、数百年に1度程度生る実。
実を芽吹かせるのは難儀だが、芽吹けば聖木・聖樹となる。
〈用途〉
表皮は粉末状にし特殊な配合で、レアチレンやミスリルなどと混ぜ合わせ武器にすると、聖浄化魔法を付与させる事が出来る。
種子は1度乾燥させた後、高級ポーション、高級エーテルを特殊な配合で混ぜ精製するとエリクサーとなる。
〈その他〉
苦味が強くて食用に向かない。
摺り下ろした実汁と高級エーテル、竜の涙を特殊配合し精製すると、魔堕ちしたモノを聖浄化させる作用がある。
「……」
美味しいのかな? と軽い気持ちで【鑑定】を掛けて視たら、さすが神の実だけあって、効力がとんでもなかった。
これは絶対に"秘匿案件"であると莉奈でも分かる。
視なきゃ良かったと莉奈は、そっと魔法鞄にしまった。
「……お前、鑑定したな?」
エギエディルス皇子には、莉奈の行動などすべてお見通しだった。
「……」
「美味しいのかよ?」
「いや、激ニガだって」
絶品表記されても、食べていいのか躊躇うけど。
だってコレ、超絶貴重な実だもの。
「言わなくても分かってると思うけど、それ国家機密案件だぞ?」
「……だよね〜」
エリクサーが莉奈の想像する魔法薬で合っているなら、絶対に奪い合いが起きる。
莉奈はチラッと周りを見れば、空気を読んだ警備兵達は既に声の聞こえない範囲に下がっていた。耳にしない事が1番だと判断した様だ。
莉奈はもう一度周りを見た後、魔法鞄から紙とペンを取り出しペンを走らせた。
後でシュゼル皇子が細かく調べて書くだろうからザックリだけど、鑑定を持っていないエギエディルス皇子にそれを見せる。
「……」
それを見たエギエディルス皇子が、途端に驚愕し固まってしまった。
誰も存在を確認した事のない聖樹である。とんでもない効力があるのだろうと、ある程度は想像していた。だが、莉奈から見せて貰った紙を見て、とんでもないとか言うレベルではなかった。
世界さえ揺るがすレベルだった。
「エド」
「……」
「エーード」
「あ゛?」
紙を見たまま固まっていたエギエディルス皇子に、莉奈はヒッソリ話し掛けた。
「"エリクサー"って何?」
莉奈の知識では、なんかとんでもないモノのイメージしかない。
一瞬、蘇生出来る魔法薬かと頭を過ったが、そんな神の奇跡の様なアイテムがある訳ないとすぐに冷静になった。
「瀕死を治す回復薬」
高級ポーションなど比ではないと、エギエディルス皇子は引き攣った笑いを見せていた。
古文書の一部では、不治の病をも治す魔法薬と記載されているらしい。
そのモノ自体が現存していないため、あくまでもお伽話の様な魔法薬だと言われている。
「「……」」
訊いた莉奈もエギエディルス皇子も絶句である。
その存在は、人々の願望を描いた作り話だと言われていた。しかし、その"エリクサー"が実は存在したのだ。
エリクサーや聖樹を巡って何が起きるか分からない。
安易に製造すれば、争奪戦が起き血が流れる事もあるだろう。
「……お前さ」
「……うん?」
「頼むから、大人しくしてくれ」
そう一言だけ言うと、エギエディルス皇子はテーブルに突っ伏した。
お前が何かする度に、胃を通り越し心臓が痛くなると。
タール長官とゲオルグ師団長もその気持ちが分かるのか、エギエディルス皇子の後ろでウンウンと小さく頷いている。
ーーえ?
ーー大人しくしているつもりですけど?




