44 ポーション飲めば?
王宮内の一室、普段、そんな場所で食事などありえないのだが、今日だけは違った。
莉奈の作った "異世界" の料理を堪能すべく、エギエディルス皇子が兄達を集め食事をしていた。そう……いつも食べる王族の食堂ではなく、フェリクス王の書斎でだ。
広い所ではなく、皆の顔が窺える距離、そういう所で食べるのもいい……という、莉奈の進言があっての事だった。
「……な……なん……ですか? ソレは」
弟が食べている黄色の何かに、シュゼル皇子は目を瞬かせた。
「チーズオムレツ」
エギエディルス皇子は、いつもの固いパンとスープを素早く食べ終えて、ふわふわのチーズオムレツを美味しそうに食べていた。
シュゼル皇子は相変わらず食事に興味がないので、まだ色々と残っている。
「……私には、ありませんが?」
兄フェリクス王の前にも、ふわふわのチーズオムレツがある。勿論、他の料理を平らげたからである。そんな事を知らないシュゼル皇子は少し不機嫌そうな声を出した。
「……旨いな……」
そんなシュゼル皇子を無視して、一口食べたフェリクス王が小さく感嘆する。初めて目にした卵料理が、こんなにも美味しいとは思わなかったのだ。
「なっ!? 旨いなコレ!!」
エギエディルス皇子も、ふわふわのチーズオムレツを頬張り歓喜の声を上げた。トロトロの卵にチーズがトロリ、初めての味、食感に頬が弛みっぱなしである。
「……エディ……私には?」
自分だけない状態に、シュゼル皇子はニッコリと笑って言った。
「…………」
アハハ……少し、怒ってるなコレ。
エギエディルス皇子は、苦笑いした。
食事に関して、こんな表情をするのは初めてといってもいい。
「……エディ?」
さらに、深い笑みを向ける。
「先に出した料理が食べ終わらないと、次、出ないよ?」
微笑みが怖いな……と、思いつつエギエディルス皇子は莉奈の言う通りにする。
「……………………………………え?」
すぐには、理解出来なかったのか、したくなかったのかひどく間があった。
「それ、全部食べたら出すよ」
正確には、控えているイベールが出すのだが、食べるまでは出せと指示は出さない。
「え~~~~~~~~~っ!?」
不満なのだろう、やけに長いブーイングだ。
「うるせぇ」
向かいにいる、フェリクス王が顔をしかめた。
「兄上……ヒドイと思いませんか?」
「なら、いつも通りポーションでも飲んでろ」
と、フェリクス王は魔法鞄からポーションを取りだし、シュゼル皇子の前にコトンと置いた。
「………………」
いつもと逆の事をやられ、シュゼル皇子は押し黙った。普段の王ならポーションより、食事を摂れと耳が痛い程言う所を、今日に限って真逆だ。
「……シュゼ兄……」
「な……んですか?」
覇気も感じなくなった次兄に、呆れつつ声をかける。
「コレはないけど、リナが、シュゼ兄のためにプリンと、フレンチトーストっていう甘味を作ってくれたんだぜ? だから、ソレ早く食べちゃいなよ」
「……え? リナが? プリン……フレンチ?」
それはないのか……と一瞬ガッカリしたが、新しく耳にする言葉に立ち直る。そしてそれらを莉奈が作った事に、シュゼル皇子は再び目を瞬かせた。
「……へぇ……あの女が、作ったのかよ?」
普段、こんな料理が出た事がなかったので、新しく料理人でも入れたのか……と思っていたフェリクス王はうっすらだが、驚いて見せた。
「スゴくねぇ!? コレ異世界の料理なんだけど、リナがちゃちゃっと作ったんだぜ? もう、魔法だよ魔法!!」
さっきの出来事を思い出したのか、エギエディルス皇子は興奮していた。見た事のないやり方でサクサク作る莉奈は、エギエディルス皇子にとってそれは "魔法" に見えた様だった。
「…………」
楽しそうに笑う、末弟にフェリクス王はうっすら笑みを浮かべた。莉奈を召喚させて以来、兄二人に叱責され覇気を失っていた弟が、元気になり嬉しく思う反面、複雑な心境でもある。
自業自得とはいえ、末弟の笑顔を見れるか見れないか、それを握るのもあの莉奈なのだな……と思うと複雑以外のなにものでもなかったのだ。




