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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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434 甘いパン



 リリアンを放っておいて、莉奈とリック料理長達は会話を続けた。

「リンゴとか苺とかの風味を残したいなら、液体酵母から作った方が香りがいいよ?」

「確かに、老麺タイプの元種は香りが落ちるな」

「だけど液体酵母って、扱いが難しいんだよなぁ。発酵が安定しないし」

 莉奈が出した色んな液体酵母を見ながら、リック料理長と副料理長マテウスが熱心に話していた。

 前日のパン生地に小麦粉を足して継承していくタイプの老麺は、パンに成形した後の発酵時間が比較的安定しやすいが、継ぎ足すので香りがあまりしない。

 逆に、液体酵母から直接作るパン生地は香りは豊かだが、気温や湿度に敏感で発酵がマチマチになりやすい。

 たった1時間で発酵する事もあれば、半日掛かる事もある。

 その日の発酵菌の気分によるから、老麺タイプの元種の方が断然扱いやすい。

 リンゴの様な果物系の香りを活かしたいのなら、発酵が気分屋だが液体酵母の方が良いだろう。

 リック料理長とマテウス副料理長は、特に熱心にパン生地の製法を色々試し、追求している様だった。




 自分の知らない所で、皆がものスゴく勉強しているのを改めて知った莉奈は、何か作ってあげたくなってきた。



「「「……」」」

 鍋や砂糖やら、用意し始めた莉奈に皆は釘付けである。

 各々作業をしながらも、チラチラと盗み見ていた。

「リナ、それはお菓子を作ろうとしているのか?」

 皆の視線に苦笑いしながら、リック料理長が何か手伝う事はあるかと訊いてきた。

「お菓子でありパンである」

 最近、皆が作るパンの種類に触発され、また1つか2つ添えてみようかと莉奈は考えたのである。

「お菓子であり……」

「パン」

 皆の視線は、さらに莉奈に釘付けになっていた。

 チーズやレーズンなどは入れてみたりしたが、お菓子と言う程甘くはない。

 莉奈の言う、お菓子でありパンが何か興味しかなかった。



「まずはボウルに卵黄と砂糖を入れて、白っぽくなるまで良く混ぜる。そこに振るった薄力粉を入れて、さらに泡立て器でかき混ぜる。ある程度混ざったら、沸騰寸前まで温めた牛乳を、糸のようにゆっくり入れながら、よくかき混ぜる。牛乳はいっぺんに入れると、卵が固まって失敗しちゃうから気をつけてね」

「あ、牛乳が熱いからだな?」

「うん、そう」

 リック料理長達は、今はメモらず見て覚えようと真剣だ。

 一通り見てから紙に書いて復習するらしく、ラナ女官長が「真面目過ぎるのよね」と笑っていたのを思い出す。

「それ、なんかプリンの材料に似てるな」

「うん。実はいつも作ってる普通のプリンは、プリンプリンって言ってるけど、厳密に言うと"カスタードプリン"って言うんだよ。それで私が今、作ろうとしているコレは"カスタードクリーム"」

「へぇ〜。カスタードプリンにカスタードクリームか」

「詳しくは知らないけど、卵や牛乳・砂糖、そんで香料を混ぜて作ったモノに"カスタード"って名前が付いてる気がする」

「「なるほどな」」

 莉奈が簡単に説明すれば、リック料理長達は感心した様な声を漏らしていた。



「全部混ぜたら火にかける」

 莉奈は説明をしながら、材料の入った鍋を火にかけた。

 カスタードクリームの作り方も色々とあるが、1番簡単なのは、材料を全部混ぜてレンジでチンである。

「火は中火くらいでコレを、もったり? クリーム状になるまでひたすら混ぜるんだけど……焦げやすいので注意しながら、リックさん、はい混ぜて」

「わ、私が混ぜるのか!?」

 莉奈がヘラごとリック料理長に任せれば、リック料理長は慌てて莉奈からヘラを受け取った。

 急にやれと言われるとは思わなかったのだろう。



「ちなみにだけど、量が少なめなら最初から全部混ぜて、火にかけても同じように出来るよ?」

「なるほど」

「全卵で作るとサッパリしたクリームになるし、もっと濃厚クリームにしたいなら、牛乳に少し生クリームを足すとコクが出て美味しい」

「コクか。それもプリンと一緒だな」

 リック料理長が真剣に混ぜている横で、莉奈とマテウス副料理長が話していた。

 他の方法やアレンジのやり方など、応用も一応説明していたのだ。

 簡単に説明し終わると、莉奈は他の物を作る用意をし始めていた。

「リックさん。それ、フツフツしてきたら弱火にして、まったりしたら火を止めといて」

「は? まったり?? もったりじゃないのか? まったりってなんだ? え、止めといてってリナは何をするんだよ!?」

「少し早い朝食を」

「「「自由過ぎるだろう!」」」

 相変わらずマイペースな莉奈は、餃子作りでスッカリ忘れていたパンの糠漬けモドキを、冷蔵庫から取り出した。

 糠床ならぬパン床の匂いは糠漬けとは全く違うし、見た目は白っぽい。だけど、漬けた野菜は糠漬けみたいに少し柔らかくなっている。

 さて味はと、莉奈は漬かったきゅうりや模様が変な大根、色鮮やかな人参を取り出し食べ易い大きさに切って口に入れた。

「んっ! さすがにパン床だから糠漬けとは言えないけど、味は糠漬けに近い。糠漬け風」

 パンとエールで代用したものの、どうなる事かと楽しみ半分不安半分だったが、妥協点である。

 パリカリッとした漬け物特有の食感。味は糠漬け好きには物足りないが、糠床がない代用としてはアリである。

 舌の肥えた者でなければ、糠漬けだと勘違いするくらいに酷似している。

 だが、莉奈はやはり糠漬けは糠で作ろうと心に誓った。

 代用はやはり代用である。パンとエールで作っていると莉奈は知っているからこそ、余計にコレじゃない感がスゴい。



「よっこらせっと」

 自分専用に置いてある椅子に腰をかけて、塩むすびと糠漬けモドキ、それと玄米茶で朝食を摂る事にした。

「はぁ」

 塩むすびを齧り、漬け物を食べる。

 そして、少し満足した腹に玄米茶。莉奈はそこに懐かしさと、ホッとする様な小さな幸せを感じるのだった。




「リナー。なんかもったり? してきたけど?」

 莉奈がほっこりとし皆がスープやサラダ作りをしている間、リック料理長は真面目にカスタードクリームを混ぜてくれていた。

 小鍋を覗いたら、サラサラだったカスタードがしっかりクリーム状になっていた。

 試しにひと混ぜしたら、木ベラにもったりくっ付いてくる。

「いい感じ。後は粗熱が取れたら鍋ごと氷で冷やし固めて、とりあえず出来上がり」

「とりあえず出来上がりか」

「冷えないと何も出来ないからね」

 その間に皆の手伝いでもするかなと、莉奈は朝食を終え作業に戻った。



 自分が使った食器を洗いながら、莉奈はフと思った。

 ご飯と糠漬けモドキがここにある。なら、朝食もまだそうなリック料理長に、簡単な物を作ってあげようと。

「あ、そうだ。リックさんに簡単なお茶漬け作ってあげるよ」

「「「お茶漬け??」」」

 リック料理長以外からも声が上がった。

 皆、聞いてない様で聞いているよね?

 莉奈はさっき出した糠漬けモドキの野菜類を細かく刻んだ。後は熱々の玄米茶と炊いたご飯を用意する。

「白いご飯に細かく切った糠漬けモドキをのせて、熱々の玄米茶を注いで出来上がり」

 贅沢を言うなら、出汁をしっかり取ってかけたいところだが、鰹節も昆布も煮干しもない。

 日本に良くある乾物がないのだから、仕方がないよね。

 朝から、魚を焼いて出汁を取るのも面倒だし、とりあえずコレでイイでしょう。



「お酒を飲んだ後や次の日の朝は、サッパリした朝食になるよ?」

 1番は酸味たっぷりの梅茶漬けだけど。

 莉奈は作れるだけのお茶漬けを用意した。隣りの部屋でパンを作っている人達の分はないけど、致し方ない。



「お茶と一緒に、サラサラッと口にかき込んで食べると美味しい」

 スプーンで掬って食べようとしていた皆に、莉奈はジェスチャーでかっ込む様子を見せてみた。

 シチューみたいに食べるより、お茶漬けはかっ込んだ方が美味しいと思う。

「こうか?」

 熱々のお茶漬けを、莉奈の言う通りにして食べてみるリック料理長。

 啜る習慣のない皆は、若干咽せたりしながら上手くお茶漬けを食べていた。

 お茶に浸す事でサラサラッといけるご飯。お酒で食欲のない胃に、漬け物の酸味がイイ刺激となってご飯が進んだ。

 温かいお茶漬けが、何故か胃を落ち着かせていた。

「白いご飯をお茶に浸すと、また違う食感で楽しいな」

「漬け物? がいいアクセントになってるわね」

「だな。パンとエールで作れるなんて、考えた事もなかったけど」

「でも、ピクルスと違って面白い」

「あ、そうだよ!! むしろピクルスでもいいんじゃない!?」

「ピクルスか。確かに酒で弱った胃に、酸味が染みて優しい」

「ヨシ、ピクルスはいっぱいあるし、飲み過ぎで食欲のない皆の分も作っとこう」

 皆は、もうなくなった糠漬けモドキの代用に、ピクルスを使う事を考えた様だ。

 朝食もまだだった皆も、温かく優しい味に少し活気が戻ったのであった。










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