432 王兄弟の穏やかな宴会
莉奈は何故、一言二言余計な事を言うのだろうか?
王族の食堂の隅で控えている侍女達からは、思わず失笑が漏れていた。だが、莉奈のおかげで一瞬張り詰めた空気が、和らいだのも確かである。
王族達の揶揄い合いも莉奈の想像がつかない言動も、同じ様に心臓に悪いと、侍女達は鎮まらない胸を内心押さえたのであった。
侍女達がそんな思いをしている事など露知らず、莉奈は激痛と戦っていた。
指で弾いただけのスプーンが、彼の手にかかれば凶器である。
フェリクス王には何を持たせても武器になりそうだと、莉奈はズキズキする額を押さえながら魔法鞄から次の料理を取り出した。
額が割れたらどうするんだと、文句の1つでも言い返したいところだが、それでは今度はイベールから終わらない説教を喰らうハメになる。
莉奈は、文句をグッと堪えていた。
「右が"餃子"で、左が新作のからあげ"ジーパイ"です」
イカ料理はとりあえず出しただけだ。メインはこちらである。
エギエディルス皇子はイカの塩辛をイベールに下げさせ、こちらの2つの料理に瞳を輝かせた。
「餃子は小麦粉で作った生地でボア……なんとかの肉を包んで焼いた物で、ジーパイはシナモンやスターアニスなどの香辛料を効かせて、カラリと揚げた鳥のからあげです。胡椒をたっぷりかけてお召し上がり下さい」
「ボア・ランナーだろ。からあげは辛いのか?」
「胡椒をかけなければ、そんなに辛くないよ。餃子に添えて出した赤い油は、ラー油と言って唐辛子から作った調味料だから辛い」
「分かった!!」
いつも通りに簡単な料理の説明と食べ方を言えば、エギエディルス皇子は早速ジーパイに手を伸ばしていた。
その間に、フェリクス王にはハイボールを、2人の皇子にはレモンソーダをイベールが出している。
「んんっ!? 衣がザクザクッ!!」
エギエディルス皇子が嬉しそうに顔を綻ばせた。
そうなのだ。普通のからあげがカリッとなら、このジーパイはザクッである。
鼻に抜ける独特な香辛料の香りと、ザクザクッとした衣を堪能するからあげがジーパイであろう。ここに花椒が入っていれば、さらに辛さと風味が増すのだが……ないモノは仕方がない。
辛いモノが得意ではないエギエディルス皇子には、なくてちょうど良かったかも。嬉しそうに食べているからね。
叩きに叩きまくって平たくしたから若干ジューシーさには欠けるが、からあげ好きの彼には堪らない様である。
「ジーパイにはレモンソーダが合うな」
エギエディルス皇子はジーパイを口にした後、レモンソーダをゴクリと飲んでいた。
油物や味が濃い物は、つい飲み物が欲しくなる。特に炭酸飲料が飲みたくなるのは何故だろう?
シュワシュワとした良い刺激が、口をサッパリさせる気がする。だから、次々と料理に手が伸びてしまうのかも。炭酸水もちょっとした魔法薬の様だよね。
「……っ!!」
次は餃子だとばかりに、豪快に一口でいったエギエディルス皇子は、中にある熱々の肉汁が口の中で溢れ涙目になっていた。
ん〜ん〜言いながら、慌てた様子でレモンソーダをゴクゴクと飲んでいる。
言うのを忘れていたが、小籠包程ではなくとも餃子も熱々の肉汁が入っているからね。少し冷めないと一口では、口が火の池地獄である。
「旨いな」
そんな末弟の様子を見て笑っていたフェリクス王も、餃子を一口頬張ると口を綻ばせ小さな声で呟いた。
香ばしくパリッとした羽根と手作りならではのモチモチの皮。旨味のたっぷり入った餃子餡。
口いっぱいに美味しいエキスが広がる。
少し熱くなった口にハイボールを流し込めば、途端に口の中が冷え、つい次の餃子に手が伸びてしまう。
「胡椒をたっぷり入れたお酢で召し上がると、サッパリして美味しいですよ?」
家でやっていたやり方をフェリクス王に勧めれば、莉奈の出した酢胡椒に一瞬顔を顰めた。
酢が隠れるくらいの胡椒が入ったつけダレだからである。初めて見る人は、大概がこんな表情になるのだ。
だが、胡椒はたっぷり入れた方が、莉奈的には断然美味しいと思う。
「真っ黒じゃねぇか」
「それがイイんですよ」
莉奈が良い笑顔でさらに勧めれば、莉奈が冗談でも揶揄っている訳でもないと分かった様だ。
そこまで言うなら試してみるかと、フェリクス王は胡椒しか見えない酢の中に、餃子を浸してみた。
「……っ! 胡椒がいいアクセントになってやがる」
「これだけ入れると辛くなるかと思いましたが、お酢でマイルドになるんですね」
「俺は醤油だけでいい」
兄2人は酢胡椒を気に入ったみたいだが、酸っぱい物が苦手なエギエディルス皇子にはやはり合わないらしい。
フェリクス王はその酢胡椒に、少しだけ醤油を足してみたりと自分なりに工夫して楽しんでいる。
「ジーパイでしたっけ。香辛料の香りと、このザクッとした食感が堪りませんね。餃子は周りの皮がモチモチとして面白い」
炭酸水で作ったレモンソーダが気に入ったのか、ジーパイや餃子を摘みながらイベールにおかわりを貰っていた。
酢胡椒とレモンソーダのおかげでシュゼル皇子には珍しく、次々と手が料理に伸びている。
それだけ好みに合ったなら、作った甲斐があったというものだ。
「リナ、餃子おかわり!!」
小皿に盛った餃子をペロリと食べたエギエディルス皇子は、莉奈に追加を要求してきた。
今度は小籠包でも作ってあげるかなと、エギエディルス皇子の笑顔にニヨる莉奈なのであった。




