429 酒に合えばデビルフィッシュでも喰らうのが、真の酒吞みだ
「イカの塩辛はダメですか? なら、イカのフリッター。イカの刺し身、タコのからあげはどうでしょう?」
まさに、デビルフィッシュ尽くしである。
タコがまだあればアヒージョが作れたけど、酒呑み達が全部からあげにして食べてしまったから、莉奈が取っておいたタコはからあげしか今はない。
「え? デビルフィッシュしかないの?」
アーシェスがテーブルに載ったデビルフィッシュ尽くしを見て、瞠目していた。
そして徐々に、以前食べた料理みたいな美味しい料理が並ぶと思っていたのにと、ガッカリした表情に変わった。
「他の料理もありますよ。徐々にお出ししますので、タコイカがダメでしたら、とりあえずバナナのフリッターにアイスクリームをつけてどうぞ?」
「バナナのフリッター? アイスクリーム?」
とりあえずとさっき作った物を出せば、アーシェスはデビルフィッシュより、後から出したバナナのフリッターとミルクアイスに釘付けであった。
「バーツさん。からあげをーー」
揚げてくるからと莉奈が言おうとしたら、バーツはあれ程怪訝な表情で見ていたイカの塩辛を、フォークで少しだけ摘んで口にしていた。
「かぁーーっ! デビルフィッシュなんて言うからどうかと思ったが、このイカのコッテリとした内臓が、ホーニン酒と混ざるとイイ具合に口でまろやかになりやがって!! 堪んねぇなコンチキショウが」
莉奈がホーニン酒と合うと言ったものだから、持参していたホーニン酒で1人宴会を開催していた。
イカの塩辛は内臓を使うから、新鮮でも独特の生臭さがある。
ワインやウイスキーなど、他の酒では生臭さを引き立ててしまうところだが、米から造ったお酒はそれを包んでまろやかにするのである。
米の酒と塩辛。この2つが合わさって初めて、旨味として風味が口いっぱいに広がるのだ。バーツは初めて味わう独特な風味に、感動していたのである。
これはカツオとか他の魚の内臓で作る"酒盗"も大丈夫そうだなと、莉奈は笑っていた。
「「「ホーニン酒!!」」」
カウンター越しに見ていた料理人達からは、どよめきが起きている。
手に入らないと泣いていたホーニン酒が、今目の前にあるのだ。騒がない訳がなかった。
「蒸したジャガイモにのせて、少しバターをつけても美味しいですよ?」
堪らんと、イカの塩辛を楽しんでいるバーツに、莉奈は蒸したジャガイモとバターを小皿で出してあげた。
イカの塩辛の塩気が、ジャガイモと良く合うんだよね。
「蒸したジャガイモか!」
水を得た魚の様に、バーツがキラキラとしている。
イイぞイイぞと、バーツは上機嫌で莉奈の知らない唄まで歌い始めていた。
飲み過ぎなきゃいいけど、この調子では絶対に無理だろう。
「師匠、あんまり飲み過ぎると転移する時にまた吐くわよ?」
「そん時ゃあ、そん時だ!」
アーシェスが困った様に言えば、バーツは知らん忘れたと再びホーニン酒を口にしていた。
どうやら酔った状態で転移・転送されると悪酔いするみたいである。
それもそうだ。絶叫マシンも酒を飲んで乗るモノじゃないしね。
「あれ? アーシェスさん達もゲオルグ師団長の所から来てるんですか?」
確かフェリクス王に連れられて王都へ向かう時、転移の先はゲオルグ師団長の所だった。
アーシェス達もそうなのかなと、莉奈はフと疑問に思ったのだ。
「ゲオルグ? あぁ、ガーネット侯爵の? まさか、違うわよ。私達はギルド組合の本部からよ」
アーシェスは笑って否定した。
ゲオルグ師団長の実家にある転移の間は、王族以外はほとんど使わない……というか、使えないそうだ。
アーシェス達は、冒険者ギルド組合の本部にある転移の間を、許可を得て利用させてもらっているとの事だった。
詳しくは教えてもらえなかったが、他にも色々設置された場所があるらしい。
「言っとくけど、いくら許可を得たからって、王城内部になんて直接 転移されないわよ?」
莉奈の態度で勘違いしていると感じたアーシェスは、自分達は外だと笑って教えてくれた。
「え?」
「一般人は基本的に表門の入り口付近に転移されるのよ。そこで身元がハッキリしてから、王城に入門出来るのよ。私達は、貴女みたいにホイホイ王城内に転移出来ないの」
「あぁ、そうなんだ」
全然知らなかったと、莉奈は今更ながらに納得していた。
それもそうである。莉奈みたいにアチコチから転移出来たら、セキュリティの意味なんて全く意味がない。
通常は転移の間や門で、嫌って程に身元調査される様である。
「ん? なら正面の門から、徒歩ですか?」
「そこはさすがに、空気を読んでくれてるわよ」
表門、正門から王宮はやたらと広い庭を通ってやっと着く。徒歩なら2、30分は掛かるだろう。
馬車か馬が欲しい所である。
身元さえハッキリ分かれば、今度はそこから王宮へ転送されるらしい。
「んんっ! アイスクリームって甘い氷菓子なのね。舌触りがとてもクリーミー」
話しながらアイスクリームを口にしたアーシェスが、歓喜の声を上げていた。
「バナナの優しい甘さがまたイイわね」
今のところ、デビルフィッシュことイカには見向きもせず、アイスクリームに夢中になっている。
莉奈は対照的な2人だなと笑い、厨房に調理しに向かうのであった。
「リナ、リナ、あの爺さんがホーニン酒だよな?」
「ホーニン酒の爺さん」
バーツさんがホーニン酒って何かな?
興奮し過ぎて言葉がオカシイよ皆さん。
「そうだよ」
莉奈は可笑しくて笑ってしまった。
言いたい事は分かるけど、少し落ち着いて欲しい。
「ちょっと俺、ホーニン酒を売ってくれるか交渉して来ていいかな?」
気分次第ではすぐ帰るかもしれないバーツを見ながら、料理人の1人が誰に言う訳でもなく許可を貰おうとしていた。
タダな訳はないから、売ってくれないかと個人的に頼んでみようと試みたのである。
「行って来い!」
「いや、行って来てくれ」
「私達の分も頼んだわよ!」
初めに挙手をした料理人が、いつの間にか皆の代表者の様な形になり、意気込んでバーツの下へ向かって行こうとしていた。




