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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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427 未来がそこにある



「結局、どこへ行ってたんだ?」

 皆の言い分に笑いながら、リック料理長が訊いた。

 やっとけと言われた鶏肉は、切れ目を入れて伸ばしておいたと言うものだから、バットに視線を移せば驚くぐらいに山積みになっていた。

 他にも食べる物があるのに、食べきれるのかな?

 まぁ、食べきれなくても魔法鞄マジックバッグに保存出来る強みってスゴいよね。

黒狼宮こくろうきゅうだよ」

 コレを貰いに行ったと説明しながら、莉奈は作業台に香辛料を並べた。

 貰って来たのは、クローブ、シナモン、フェンネル、八角ことスターアニスの4種類だ。

「あぁ、こっちより豊富にあるもんな」

「鶏肉にまぶすのか?」

 リック料理長とマテウス副料理長が、莉奈の作業を覗き見に来た。

 この間カレーを作ってから、ハーブだけでなく香辛料の使い方に興味を持ってくれた様である。




「う〜んと、まぶすというか揉み込む? 漬け込む?」

 作り方を思い浮かべ、簡単に説明する。

「黒狼宮から貰って来た香辛料、グローブ、シナモン、フェンネル、スターアニスの粉末と醤油、砂糖、ニンニク、ホースラディッシュ……で、皆が飲めないホーニン酒を混ぜた調味液に、鶏肉を1時間くらい漬け込むの」

「ホーニン酒ぅ」

 莉奈が貴重なお酒を惜しげもなく使うので、嘆きの声がどこからか聞こえていた。

「あれ? 砂糖の在庫って増えたの?」

 そんな嘆きを無視し、莉奈は棚から砂糖を出していた。

 莉奈は平然と使っているが、この世界では安いドレスが買えるくらい高価な砂糖である。

 デザートどころか、毎日食べるパンの材料にも使う。

 だけど、いつ来ても空になる事はない。高価だけど入荷量とか増やしたのかな? と今更ながら疑問に思ったのだ。



「パンの材料に欠かせないから、陛下が早々に予算を別に組んでくれたんだよ」

「だから、デザートとは別用に備蓄してある」

「意外と料理にも使うしな」

 リック料理長とマテウス副料理長が莉奈の手伝いをしてくれながら、説明してくれた。

 高価ではあるが、必要経費として落としてくれている様だ。

「ん、そうだね。私の国の料理は醤油と砂糖とホーニン酒は良く使うね。それに、パンと同じで鶏肉にも砂糖を使うと柔らかくなるしね」

 日本食でも煮物は大抵、砂糖を入れるし、豊富に使える王宮は本当にありがたい。

 莉奈はしみじみと思っていた。



「え? 鶏肉が柔らかくなるのか?」

「そう言えば、からあげを作った時に言ってたな」

「ですね」

 甘くさせるだけかと思っていたら、パンと同じで柔らかくさせるのかと料理人達が目を丸くさせている中、リック料理長とマテウス副料理長は莉奈が以前、サラッと言った事を覚えていた様だった。

「理由は良く分からないけど、なるよ? だから、パサつく事の多いムネ肉なんかは、からあげを揚げる前に隠し味程度に使うと、柔らかくてジューシーに仕上がるよ?」

「そうか。高価だから余り使えないけど、ロックバードとか部位によって硬いから、使うといいかもしれないな」

 リック料理長は頷き、何か他にも使えないかと考えている様だった。

「さて、鶏肉はこのまま1時間くらい漬け込んでおけばヨシ。その後、揚げたりするんだけど、まだ時間あるし……碧ちゃんのご飯でも作ろう」

 厨房で皆の手伝いをしてもいいのだけど、碧空の君のご飯の予備がない。

 エギエディルス皇子の小竜の分も作っておきたい。

 莉奈は気合いを入れ直し、食料庫に向かうのであった。




 ◇◇◇




 漬け込んでいる間、皆は餃子作りに莉奈は碧空の君やエギエディルス皇子の小竜のために、色々な果物を切っていた。

 竜は人間と違い果物も皮ごと食べるから、皮に可愛い模様を付けたりしてあげる。

 面白いかなと思って、オレンジにハロウィーンのカボチャみたいな顔を掘っていたら、近くにいたマテウス副料理長が気持ち悪いと眉間に皺を寄せていた。

「え? 可愛くない?」

「どこが?」

「どこがって、このオバケの顔? 表情?」

「普通に気持ち悪いけど?」

「え〜っ?」

 可愛いと思っていたオバケのオレンジは、料理人達には不評だった。

 怪しい笑顔が不気味だと、複雑な表情で見ていた。

「大体、なんで顔なんだよ」

「なんでって言われても……あれ? この国には収穫祭とかないの?」

 この世界に喚ばれて1年近く経つけど、祭り事なんて聞いた事がないなと気付いた。

 日本みたいな祭りはなくても、ハロウィーンとか何か似たような祭りはないのかな?



「収穫祭? いや、この辺はないな」

 マテウス副料理長は祭りに詳しくないのか首を傾げていたが「王都の祭りといえば"建国祭"一択だしな」

 とマテウス副料理長が懐かしそうに呟けば、それを聞いていた皆が作業をしながら、建国祭やこのヴァルタール皇国の事を話し始めた。



「あ〜、だけど、その建国祭もここ数年は開催されてないな」

「皇国を王国に……なんて話が出ていたって噂だし、そうなったら建国記念日とかも変わるのかね」

「さぁな。ちなみにここだけの話、俺は"王国"賛成派」

「あ、マジで? 実は俺も賛成。親父は古いから、王国に変わるのには消極派。だけど俺的に、フェリクス陛下に代替わりして国がガラリと方針を変えたんだから、ここは皇国も王国に変えて一新するべきだと思う」

「分かる。だけど、思い切って王国にしちゃえって、訳にはいかないんでしょうね」

「だろうな」

「でも、あの陛下なら……反対派なんて蹴散らせるんじゃないの?」

「バーカ。蹴散らして王国にしたら、それこそ前皇帝と同じじゃん。陛下は歴代の皇帝の築き上げた国? 制度をぶっ壊そうとしてんだから、そこはやり方を変えないと」

「私は、フェリクス陛下なら力尽くでやっても付いて行くけど……」

「「「だよねーーっ!!」」」



 珍しくこの国の事の話をしていた皆に、莉奈は思わず聞き耳を立ててしまった。

 人の口に戸は立てられないと言う割に、王城では御法度なのか噂話でもあまり聞かないからだ。

 ラナ女官長も、あまり前皇帝の事は話さないし、莉奈も無理に聞かない様にしていた。

 興味がない訳ではないけど、好奇心だけでは聞きづらい内容である。

「あ、リナ。今の話、陛下達には内緒な?」

 莉奈がいる事に気付いた皆は、慌てて莉奈に口止めしていた。

 側から見たら王族と仲睦まじく見える莉奈に、余計な話を聞かれてしまったと思ったらしい。

「言わないよ」

 莉奈は苦笑いしていた。

 言った所で、フェリクス王達は処分も厳重注意もしてこない気がするけど。



「ちなみに皆、陛下の事好き?」

 莉奈の口を介して、フェリクス王に知られる可能性を考慮して、本心など言わないと思うが、つい訊いてしまった。

「は?」

「いやいやいや」

「好きって……そんなおこがましい」

「敬服してるよ」

 莉奈がそう訊いた瞬間、皆は少し戸惑った様な困った様な雰囲気で笑っていた。

 もちろん嫌いではないが、彼に対して好きとか嫌いとか、そういう事を簡単に考えたり言葉に出来ない。

 次元が違うのだと、複雑そうな表情をしていた。

 ただ、皆は好きか嫌いかそういう表現では言えないが、これだけはハッキリ言えると莉奈に言った。

「皇帝時代は"暗闇"しかなかったけど、陛下が王になってからーー」





「「「国に未来ひかりが見えたんだ」」」





 そう言って笑った皆の表情は、実に誇らしげだった。

 皆にとって、フェリクス王達はこのヴァルタール皇国の希望であり、光り輝く未来の様である。













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