418 風車、バラ、金魚
「では、みじん切りにしたキャベツは、軽く水洗いして塩を混ぜておいて、挽肉は塩を加えて粘りが出るまで捏ねて?」
「捏ねればいいんだな?」
頼まれたリック料理長は、莉奈に頼まれ笑っていた。
顔より大きなボウルに、ボア・ランナーの挽肉がたっぷり入っている。捏ね甲斐がありそうだ。
「粘りが出たら、摺り下ろしたニンニク、ホースラディッシュを入れてさらに捏ねる」
リック料理長の捏ねている横で、莉奈はニンニク、生姜代わりのホースラディッシュを用意し、リック料理長の捏ねているボウルに入れた。
「キャベツはなんとなくしんなりしたら、固く絞る」
「コッチは俺がやればいいんだな?」
そう説明した莉奈に、キャベツの入ったボウルを手渡されたマテウス副料理長。手渡すと言うより、押し付けられた気がするなと笑っていた。
「で、その2つと醤油とか他の調味料も入れて、さらに混ぜて"タネ"の出来上がり」
「「「ホーニン酒!!」」」
調味料として魔法鞄から、米のお酒ホーニン酒を取り出せば、莉奈は皆の垂涎の的になっていた。
「もったいない〜飲ませろ〜」
莉奈がボウルに入れれば、飲んだ事のある人もない人も、恨めしそうな声を上げていた。
調味料として使うのがもったいないと。
莉奈はそんな皆を横目に苦笑いしていた。
本当はここに、オイスターソースとかごま油も入れたいところだけど、ホーニン酒と醤油、砂糖で我慢する。
「"タネ"って言ってたけど、コレをどうするんだ?」
ハンバーグではなさそうだと察したリック料理長が、莉奈をチラッと見た。
「捏ねた強力粉の生地で包む……んだけど」
「だけど?」
「なんか、棒ない?」
莉奈の記憶が確かなら、麺棒がここにはなかった。
家で作る時は、ホームセンターで買った配管用の塩ビ管で代用していた。配管だけに水に強いから、洗っても木みたいにカビないし清潔だ。
それに出会う前は、アルミ箔やラップの芯で代用していたけど。
莉奈は何か代用出来ないかなと、辺りを探して見た。
「棒?」
「え? まさかタコみたいに叩くの!?」
「モップならあるよ〜?」
タコを叩いた莉奈が、また何かするのか勘違いした皆は、訝しげに棒を探していた。
「ワインの瓶でいいや」
真面目に探す気のない皆を横目に、莉奈は棚にあったワインの空瓶を取り出した。
それをキレイに洗い、まだ近くにいたラナ女官長に浄化魔法を掛けてもらう。
「空の瓶? まさかそこに肉を詰めるの?」
「詰めないよ」
空瓶に魔法をなんて言うものだから、ラナ女官長がビックリした様子で訊いてきたものだから、莉奈は思わず笑ってしまった。
料理に発想は大事だけど、斜め上過ぎる。瓶に肉を詰めたとして、食べるために瓶を割るとか危ないと思う。
「寝かしておいた生地をまず棒状にして、何等分かに切る。切り分けた生地を手の平で丸めてから押し潰して、打ち粉をたっぷりまぶしながら、このワイン瓶でコロコロと伸ばしていく」
「あはは、なんか泥粘土で遊んでるみたいで、面白……ったい!」
「リリアン、まず説明を聞け」
莉奈の真似をして勝手にやり始めるリリアンに、リック料理長のゲンコツが落ちていた。
莉奈は苦笑いしながら、説明を続ける。
「真っ平らじゃなくて、真ん中は少し山にして周りだけ薄く伸ばすと、タネを包んだり焼いたりする時に破けづらい」
「あはは、なんだ。簡単簡単〜!!」
「「「……」」」
リック料理長に怒られたのにも関わらず、再び生地を伸ばしていたリリアンに唖然としつつ、その手元を見れば……莉奈の言う通り完璧に仕上がっていたので、絶句に変わった。
いつも何かやらかして怒られているリリアンが、手際良く笑いながら次々と生地を丸く伸ばし成形しているのだ。
意外過ぎる才能に、皆は開いた口が塞がらなかったのであった。
パンでの知識が役に立っているのか、リリアンは説明してもいないのに、生地は伸ばす前も後も乾燥しないように布巾を被せていた。
いつも怒られているリリアンが完璧に仕上げていたので、莉奈も皆もぐうの音も出なかった。
「出来たよ〜」
あ〜面白いと言いながら、リリアンはそこにあった生地をすべて仕上げたのである。
その出来た生地を、莉奈は1枚手に取った。
素人が時間を掛けてやるレベルより、リリアンが伸ばした生地は玄人に近い。莉奈の出る幕などなかった。
「リリアン師匠が作ったこの生地を"皮"って言うんだけど、それでさっき混ぜたタネをこんな風に包む」
刃のないバターナイフでタネを掬い中央にのせると、強力粉で作った皮で包んだ。
その時に、波のようなヒダを付ければ、とりあえず完成だ。
「え? ちょっと待て」
「今、どうやってやった?」
「サッ、シュッで、なんでこんな風になるんだ?」
莉奈の包んだ不思議な食べ物に、皆は釘付けである。
手元を見ていたつもりだったが、どうやってヒダを付けたのか分からなかった。
「ヒダは色んな付け方があるよ? 一方方向の波形、両サイド、表と裏の両方」
「え? え?」
「手際良すぎて分かんないよ」
「他の包み方もある」
「「「とりあえず、基本をお願いします!!」」」
莉奈が色々な種類の包み方をすれば、皆はキャパオーバーになっていた。
久々の餃子作りに、莉奈はつい調子に乗ってしまったなと、苦笑いしていた。そうなのだ。莉奈が酒のツマミに選んだのは、餃子だったのである。
「まぁ、皮のヒダの付け方は人差し指と親指で……」
「人差し指と親指?」
「こうか?」
「あれ? なんか違うな」
今度はゆっくり説明しながら、皆に教える事にする。
餃子はたくさん作るのは面倒だから、1人では絶対無理だしね。
歪な物も多少あるけど、料理って皆で作ると楽しい。
家族皆で作ったなと思い出すと、莉奈はなんだか嬉しくなったので、さらに詳しく説明を続けた。
「この皮で包んだ状態が"餃子"って言うんだけど、餃子には焼く"焼き餃子"。蒸す"蒸し餃子"。茹でる"水餃子"。油で揚げる"揚げ餃子"とザックリ4種類ある」
「え? そんなに種類があるの!?」
「あるよ? ちなみに今日は焼き餃子。なので、包み方は一般的な波形がいいと思う」
「あぁ、今作ったコレな?」
「蒸し餃子の場合は、華やかな方が映えるから、風車とか……こうやって薄い餃子を並べて包む、バラとかがいいと思う」
「なるほど……?」
「水餃子は金魚とか、こんな帽子型の餃子が面白いし可愛い」
「うん? 可愛いけどーー」
「「「今日は通常でお願いします!!」」」
さらに難しそうな包み方を教えてくれる莉奈に、皆はストップをかけた。
基本も出来ていないのに、応用は無理だと皆は莉奈に改めてお願いするのであった。




