401 騒めきの中心には、いつも…。
「ついでだから、チーズ好きには堪らない"シーザーサラダ"も作っちゃおうか」
「「「シーザーサラダ?」」」
「そう、シーザーサラダ」
莉奈はもう一度言うと、ボウルや材料をサクサクと用意した。
難しい作業も、手に入れ難い材料もない。簡単で美味しいドレッシングである。
「まず、シーザーサラダに必要なドレッシングを作るよ。ボウルにマヨネーズ、牛乳、擦り下ろしたニンニクを入れる。で、レモン汁と塩胡椒少々……」
「で?」
「混ぜて出来上がり」
「え? それだけ?」
「うん、それだけ」
皆は驚いている様だけど、シーザーサラダのドレッシングはこれで出来上がりである。
材料を入れて混ぜるだけ。ニンニクは好みだし、レモン汁は別に入れなくてもイイ。ほぼ、適当で出来る。
シーザーサラダなんて、仰々しい名前だから難しそうだけど簡単なのだ。
「リナ、シーザーサラダの"シーザー"って何?」
サラダを作っていたハズのリリアンが、莉奈の腕を突っついた。
「しらん」
莉奈は無表情でぶった斬る。
レストランのオーナーの名前だって聞いた事があるけど、知る訳がない。
シーザーサラダはシーザーサラダだ。
「出たよ」
誰かがそう呟けば、皆はつい笑ってしまった。
莉奈の作る料理はどれも美味しいが、どうしてそう作るとそうなるのか、どうしてその名前なのか謎だらけであった。
いつも"しらん"と答える莉奈に思わず笑っていると、チーズを手にした莉奈がこう言った。
「ならコレは何故"チーズ"って言うの?」
「「「しらん」」」
言われてみれば、チーズどころかレタスも何故レタスというのか知らない事に気付いた皆は、笑って返し作業に戻るのであった。
皆が戻った所で、莉奈は最終作業に移る。
「シーザーサラダは、さっきリリアン達が作っていたサラダの上にこのドレッシングをかけて、細かく削ったパルメザンチーズを載せると完成」
莉奈はチーズグレーターでパルメザンチーズを削って、たっぷり載せた。
この上に小さく切ってカリカリに焼いたパンを、クルトン代わりに散りばめてもイイ。
だけど、今日はこれで終わりである。
「ドレッシングにニンニク、サラダにチーズか」
なるほどと、リック料理長が顎をひと撫で。
ドレッシングやトッピングも固定観念や型にはめず、色々と試す余地はあるなと、リック料理長は思ったのだ。
「ちなみに、この上に半熟トロトロの温玉を載せても美味しい」
好みは分かれそうだけど、莉奈はチーズたっぷりならなんでもイイ。
「半熟」
「トロトロ」
それを聞いた料理人達が、卵の用意をし始めた。
載せてみる気だろう。
「皆が作ってたオリーブオイルのドレッシングに、擦り下ろした玉ネギを入れても美味しいよ?」
「「「擦り下ろした玉ネギ」」」
サラダに玉ネギが入っているから考えた事もなかったと、バタバタと楽しそうに玉ネギを下ろし始めた。
日本みたいな下ろし器なんてないから、チーズグレーターでだけど。
途端に、グスグスとすすり泣く料理人達。
玉ネギって涙を誘うよね。
「玉ネギのドレッシングか。玉ネギの入っているサラダに玉ネギをぶつけるなんて想像しなかったな」
サラダにはもれなく玉ネギが入っている。
だから、ドレッシングには玉ネギなんて入れようと考えなかったと、リック料理長は唸っていた。
自分はまだ、未熟者だったとため息を吐く。
だが、その衝撃を活力に変えるのが、リック料理長のスゴい所である。
「あ、なら茶色に炒めた玉ネギを入れるのもアリか?」
「アリだね」
ホラ、すぐにアレンジを考え思い付いた。
こういう所が、リック料理長の凄さだと莉奈は思う。
ヨシ、さっそく試そうと、リック料理長もドレッシング作りに参戦していた。
だから莉奈は、ついでにともう一つ教える。
「お酢の代わりにワインビネガーを入れるのもいいよ?」
「そうか。ワインビネガー!! なら、バルサミコ酢もアリだな?」
「だね」
莉奈は、瞳をキラキラさせるリック料理長に笑ってしまった。
奥さんにはトコトン弱いけど、料理の事になると表情がガラリと変わる。ラナ女官長も、リック料理長のこういう所に惹かれたのかもしれない。
「あ、そろそろ、竜の広場に行かなくちゃ」
出来たシーザーサラダをいそいそと魔法鞄にしまい、莉奈は白竜宮に向かう事にした。
◇◇◇
ーーその頃、白竜宮の竜の広場では。
竜の女王こと真珠姫を筆頭に、色取りどりな竜が集まっていた。
紫、蒼、緑、黄、色の明るさや違いがある竜が、これだけ集まれば多種多様でまさに圧巻である。
今ここには人間の番がいる竜だけでなく、滅多に寄りつかない野竜も含め、軽く300はいるだろう。
いつも広く感じるテーマパークばりの広大な竜の広場だが、これだけ集まれば狭く感じる。
かつて、こんなにも竜が集まった事があるだろうか?
白竜宮で仕事をしていた官僚やら、近衛師団兵、一般所員が宮の窓から口をアングリと開けて見ていた。
「何が起きてんだよ!?」
「知りませんよ」
「なんで集まってんだ??」
「アタシの番もいるし、え? 何コレ」
「俺、番がいないけど……今行ったら見つかるかな?」
「え? ヤメとけよ。普通に踏み潰されるんじゃね?」
「師団長は知ってんのかな??」
「それを言うなら陛下はよ。どういう状況な訳??」
「「「あ、リナだ!!」」」
騒めく白竜宮に、小さな人影が見えれば、皆は一斉に誰だか分かり指を差す。
こんな非常事態な広場に、のほほんと莉奈が現れたのだ。
皆、驚愕したのちに、唖然呆然である。
「「「はぁぁァァーーッ!?」」」
「アイツ、何を平然と竜の群れに入って行ってる訳!?」
「怖くないのかな。え? 怖いと思う私がオカシイの?」
「いや、普通に怖ぇよ」
「あれ? リナって、真珠姫を倒したって噂なかった?」
「あったあった!! え? だから竜も平伏してるのか?」
「はぁ? んじゃ、リナって実は師団長より強いとか?」
「えぇっ!? それって超ヤバくね!?」
フェリクス王が統率した上で集まっているならまだしも、何も前触れもなく集まっている竜の中にテクテクと入って行ったのだ。
野竜まで混じっているのに、恐怖はないのかと皆が逆に身体がブルっと震えた。
自分だったら、竜の周りにいるだけで、いっぱいいっぱいだと唖然とする。白竜宮が竜と莉奈の行動に騒めいていた。
白竜宮の人達が戦々恐々としている中、莉奈はとりあえず中心近くまで歩み寄った。
凄い集まったなと辺りを見渡して見れば、すぐ側に薄紫の小竜がいた。
エギエディルス皇子の番である。
「わ、見ない内に大きくなったね〜」
もはや莉奈は母親な気分になっていた。
翼を広げてやっと軽トラックくらいだった小竜は、ダンプカー並に成長していた。強い竜程成長が早いという噂もある。
エギエディルス皇子の番は、この感じからも相当な力を秘めているのかもしれない。
「ぎゅわ」
目を垂らしニヤケながら近付いて来る莉奈を、小竜はビクリとしてからジリジリと後退りする。
相変わらず、莉奈は懐かれていなかった。
「小さいのになど構ってないで、集めたのだから早く塗って下さい」
小竜の横にひょこっと出て来たのは、碧空の君だった。
集めれば美容液を塗るなんて言った覚えはないのだが、都合の良い解釈をしたらしい。
そんな碧空の君など無視して小竜を見れば、躓きながらまだ後退りしていた。
その姿さえも可愛い。何してもスゴく可愛い。
「竜って、ひょっとしなくても後退りって苦手な感じ?」
小竜の後退りを良く見るが、どうもたどたどしい。
竜に似ているトカゲや爬虫類は、後ろに戻るのが苦手だったハズ。亀なんか特に前進あるのみで、後退りなんて滅多にしない。
それは足の構造上、後退りが得意な生き物ではないからだ。竜もひょっとして? と莉奈は感じたのである。
「だから、なんですか?」
碧空の君は弱点を見つけられたとばかりに、不機嫌になっていた。
苦手では悪いのかと、不服そうである。
莉奈は竜もトカゲもそうなんだね、とは言いづらかったので、何か違う生き物の名を……と考え過ぎて、1番最悪な生き物をチョイスしてしまった。
「"ゴキブリ"もバック出来ないんだよね」と。
「「「あんな生き物と、一緒にしないで下さい!!」」」
これには、竜一同からブーイングが上がるのは言うまでもなかった。




