40 ふろとろチーズオムレツ
「フェリクス陛下に御出しする物はございますか?」
シュゼル皇子、エギエディルス皇子用のフレンチトーストとプリンを、魔法鞄にしまったイベールが訊いてきた。
配膳用の魔法鞄は、宅配ピザ用の鞄みたいな上に大きく開くタイプなのかと、妙な所で感心しつつ悩む。
「う~ん。少しお待ち下さい」
この2つは甘いしダメだ。肉好きだと聞いたけど、さっきリック料理長が肉を焼いて用意はしていた。
となると、メインより脇役的な何かがよいだろう。
「ねぇ、エド。フェリクス陛下ってチーズとか卵は平気?」
卵は山程ある。なら、使った方がいいし、すぐ出来ると思った。のだが……莉奈が、エギエディルス皇子の名を口にした途端、氷のイベールがスッと冷えた眼で見たのを感じた。
……ですよねぇ~。
皇子を愛称っぽく呼んでるし、何よりもタメ口。イカンやつですよねぇ?
でも、スイマセン……今さら、名前覚えられないんです。
んで、敬語も使いません。
牢にブチ込みたかったら、ハイ!どうぞ!!
「フェル兄、甘い物以外ならたぶん平気。なんならチーズなんかツマミに食ってんし」
イベールの視線もなんのその。エギエディルス皇子が答えてくれた。
「……酒の肴か……」
莉奈は呟いた。チーズをそのままなのか、調理してツマミにしてるのかわからないけど、あの王の事だ。もの凄く飲むに違いない。
「……また、プリン作るのかよ?」
莉奈がまた、ボールに卵を割り、牛乳を少し入れたのを見たのでそう思ったのだろう。
「フェリクス王、甘いの嫌いなのにプリンなんか作らないから」
卵に少しの牛乳、軽く胡椒を入れた。王に出す物になら胡椒をいれてもいいだろう。塩はチーズを入れるから少なめにする。冷蔵庫から、あまりクセのないナチュラルなチーズを用意しておく。
フライパンを少し湯気が立つくらい熱く温め、バターを入れ溶けたくらいで、一気に卵液を入れる。ここからは、時間との勝負だ。早すぎても生過ぎるし、火を通し過ぎれば固くなる、素早く手早く一気にやる。
卵液に小さいヘラで空気を入れながら、強火でさっさと火を通し包む前にチーズを乗せ、握りてをコンコン軽く叩きフライパンを振りながらチーズをふんわり包みこむ。
「「「「「………………っ」」」」」
初めて見た料理人達は、息をするのを忘れるくらい真剣にその工程を見ていた。スクランブルエッグかと初めは思ったのかもしれない、だが全く違った。卵が見る見る内にふんわりと固まり、フワリとチーズを包みこんだのだ。
「よし、出来た」
莉奈は、平たい皿にそれをフワリとのせた。
チーズオムレツの完成だ。
贅沢をいうなら、トマトソース的な物が欲しい……がない。
ないものは仕方ない。
「エドはどうする?」
チーズオムレツをイベールに渡しつつ、エギエディルス皇子に訊いた。目の前で作るのを見ていたのなら食べたいかなと。
「……えっ?」
「食べたいなら、作るけど?」
自分にどうすると、聞かれると思わなかったのか、一瞬呆けていた。
「マジで?」
「あはは……マジで。チーズ入れる?」
「入れるー!!」
エギエディルス皇子は、その外見通りの子供らしい笑顔で嬉しそうに言った。莉奈は、可愛いなと口元が緩む。
作ってる横で、嬉しそうに待つエギエディルス皇子は、なんだか懐かしい風景を一瞬見せてくれる。
あの子も、よく隣で作るのを見てたな……と。
「ハイ!出来上がり~!」
エギエディルス皇子のチーズオムレツが完成した。




