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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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393 主役はカレーなんだけど……? アレ、おかしいなぁ



「この匂いか。昼過ぎからずっと匂ってたの」

 王族の食堂に夕食の説明をしに来れば、エギエディルス皇子がテーブルに置かれたバターチキンカレーの匂いを手で扇いで嗅いでいた。

 お皿に鼻を近付けて直接嗅がない所は、子供なのに上品だなと感心する。

 普通なら、ついつい鼻を近付けちゃうよね。

「そっちは、バターチキンカレー。イベールさんが取り分けてくれたのが、カボチャと野菜たっぷりのカレーだよ。辛いのが平気なら、好みでカイエンペッパーを加えて食べてみて」

 丸ごとカボチャのチーズカレーは、さすがに1人1個は多いから、執事長イベールが切ってお皿に取り分けていた。

 カボチャが入った分甘いから、シュゼル皇子とエギエディルス皇子好みだろう。フェリクス王には絶対に甘いから、言われる前にカイエンペッパーを別添えしておく。



「リナ、フェル兄が食ってた肉は?」

 エギエディルス皇子がテーブルの上をキョロキョロして訊いてきた。

 オヤツの時、フェリクス王に出したガーリックライスと鳥肉のパリパリ焼きの事を言っているんだと思うんだけど……。

 そんなにお腹に入るのかな?

 味比べして欲しいから、1つ1つの量は少なめにはしてあるけど。

「コレの事?」

 莉奈は苦笑いしながら、食べやすく切ってある鳥肉のパリパリ焼きを出した。

 ガーリックライスはご飯物が多くなりそうなので、あえて出さなかったけど、鳥肉さえあれば構わないらしい。

「やった!! すげぇ旨そう」

 鳥肉のパリパリ焼きを見た瞬間、エギエディルス皇子の表情は一気に花が咲いた。

 だが、それを見た莉奈的には大変複雑である。

 何故なら、一生懸命時間を掛けて作った料理カレーより、ほとんど手間の掛かっていない鳥肉料理に瞳を輝かせたからだ。



「皮が香ばしくてパリパリして旨〜い!!」

 カレーより先に鳥肉を一口食べたエギエディルス皇子。

 パリパリと小気味良い音を立てながら、実に美味しそうに鳥肉を食べている。

 エドくんや、その鳥肉はメインではないのだよ。

 莉奈は苦笑いしか出ない。

「カイエンペッパーをかけると、味がしまって旨いな。香辛料スパイスの独特の香りや味はするが、それが意外とクセになる」

「黒胡椒を多めに振りかけても美味しいですよ?」

 末弟とは違って、早速バターチキンカレーを食べていたフェリクス王に、莉奈は黒胡椒を勧めた。

 バターと生クリームで甘めだからね。フェリクス王にはピリッとするカイエンペッパーか黒胡椒は必須だろう。

「ん。あぁ、バターチキンカレーには黒胡椒。カボチャのカレーはカイエンペッパーが合うな」

 食べ比べしながら、自分好みの味にしている。

 良かった。スプーンを置かないのだから、初めてのカレーは概ね好評の様だ。



香辛料スパイスを使ってどんな料理になるかと思っていたら、この独特な風味がまた堪らないですね。ご飯にもナンにも良く合う。ん〜しかし、ここにもカボチャとは。プリンにもカレーにもなって、カボチャは万能な野菜なんですね。何に入れても甘くて美味しーー」

 丸ごとカボチャのチーズカレーを食べていたシュゼル皇子は、カレーを堪能しながら何かに気付いた様にハッとし、莉奈をキラキラした瞳で見つめた。

「リナ!」

「はい?」

「カボチャはこんなにも万能なのですから、アイスクリームにーー」




 ーーカン!!




 シュゼル皇子が言い終わる前に、彼の額に何かが激しく当たった。

「黙って食え」

 どうやら、フェリクス王がカトラリーケースから、小さなフォークを出して指で弾いたらしい。

 なんでもかんでも甘味に結び付けようとする長弟に、フェリクス王は心底呆れている様だった。

「むぅ」

 不服そうなシュゼル皇子を見て、つい空笑いが漏れそうだった莉奈は、アイスクリームの代わりに飲み物をコトリと置いた。

 カボチャのアイスクリームは作った事もあるし食べた事もあるけれど、個人的には結局普通が一番だと思う。

 だから、定番商品にならないのでは?

「なんですか、コレは?」

「右が"ラッシー"で、左が"バナナラッシー"です」

 スパイシーなカレーを食べた後、口を爽やかにする飲み物。それがラッシーだろう。

 エギエディルス皇子の前にも、もちろん出した。

 フェリクス王はお酒ではないとチラッと見た瞬間分かったのか、眉を顰め一切興味を示さなかった。



「「ラッシー?」」

 兄王とは対照的に2人の弟皇子が仲良く小首を傾げていた。

「ヨーグルトと牛乳を混ぜて作った飲み物。カレーがスパイシーなので合うと思いますよ?」

「甘いのか?」

「甘いよ」

 甘いのかと訊くエギエディルス皇子が可愛くて、莉奈は危うく吹き出す所だった。

 初めての飲み物だから、不安だったみたいだ。

 甘いと聞いたら、エギエディルス皇子よりシュゼル皇子の方がパッと華やかな笑みを溢していたけど。



「んん〜。香辛料スパイスの効いたカレーの後に、このラッシーは大変合いますね」

 シュゼル皇子はラッシーが出てきた事で食欲が沸いたのか、カレーを食べるペースが上がった。

 カレーのお供にラッシーではなく、ラッシーのお供にカレーらしい。甘い物ありきで、食が進む様である。

「俺、ヨーグルトなんか酸っぱいだけで嫌いだったけど、コレは好き」

 ヨーグルトが苦手だったのか、チョビチョビ飲んでいたエギエディルス皇子は、味が好みにあったらしく口を綻ばせていた。

 エギエディルス皇子は、今まであまり口に出さなかっただけで好き嫌いが多いよね。

 まぁ、兄のシュゼル皇子は好き嫌い以前の問題だけど。



「カレーにはビーズ・キッスが合いそうですね」

 ラッシーを口にしながら、シュゼル皇子はポソリと言った。

 確かに乳製品から作るカクテルだから、一概に合わないとは言えない。だけどーー

「ん〜。カレーにはエールじゃないかな?」

 父や母も、カレーを食べる時はカクテルより発泡酒かビールだった気がする。莉奈と弟はもちろんラッシーか牛乳だったけど。

「イベール」

 莉奈の呟きが聞こえていたのか、フェリクス王は飲んでいた白ワインを端に寄せ、執事長イベールにエールを出す様指示を出していた。

 フェリクス王は、最近特に料理に合うお酒を探して飲むのが楽しみらしい。夕食には必ずお酒を嗜んでいる。

 量さえ気を付ければそれはイイけど、休肝日を作った方がいいのでは?



「リナ、コッチにも鳥」

 2種類のカレーを綺麗に平らげたフェリクス王は、もう晩酌気分なのか鳥肉のパリパリ焼きを御所望の様である。

「……」

 莉奈は鳥肉を出しながら複雑な気分であった。

 これでは、どちらがメインなのかさっぱりである。

 一生懸命作ったカレーより、簡単なパリパリ焼きの方が好評の様な気がする。

 まぁ、初めてのカレーだし仕方がないのかもしれない……とは思いつつーー。





 ーー主役はカレーなんだよーーっ!!





 やっぱり納得がいかない莉奈なのであった。
















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