384 また、玉ねぎ
「なら、賞品にしちゃえば?」
莉奈は早い昼食を平らげ、玄米茶で一息吐いた。
決めかねているなら、賞品にして何か競わせたらいい。嫌な作業も楽しく出来るし、面白いだろうと提案する。
「「「賞品?」」」
面白い事が好きな料理人達は、莉奈の提案に乗ってきた。
夕食はカレーなのだが、カレーには玉ねぎが大量に必要だ。
オニオンスープを作った時の様に、薄切りにし飴色になるまでトコトン炒める。まさに地獄の作業である。
苦痛ではあるが、ゴールに賞品がチラつけば話は別だ。勝負心が疼くところだろう。
「夕食に作る予定のカレーなんだけど、玉ねぎが大量に必要なんだよ。だから、前みたいに競争してその賞品にしちゃえばいい」
「うっわ、玉ねぎ。マジかよ」
「あ〜、確かに賞品があった方がヤル気は出るな」
「え〜、私お酒飲めないのに」
莉奈が玉ねぎの話と、賞品の提案をすれば、複雑そうな声を上げていた。
早切りが苦手な人もいるし、そもそもお酒が飲めない人にその賞品は何の魅力もないからだ。
それもそうだなと思った莉奈は、下戸の人達のために他のご褒美を考える。
魔法鞄に何かあったかなと、ゴソゴソとすると、余分に作っておいた食べ物が意外とある。
だが、同じではつまらないし、アレンジを加えてみようかなと考えた。
「お酒が飲めない人には、エドに作ったノンアルのカクテルと新作のプリンをーー」
「「「新作プリン!?」」」
「マジか!!」
莉奈がお酒がダメな人用にと、新作プリンを賞品に出せば、厨房の熱量が一気に上昇した。
「でも、もれなく負けた人達は、恐怖の玉ねぎ炒めをやってもらうよ?」
「「「あぁ〜〜っ」」」
前回、負けた人達からは盛大な嘆き声が聞こえていた。
苦痛な時間だったのだろう。
「負けなければいい訳だし、頑張ってね〜」
莉奈は他人事だなと、笑いながら新作プリンの準備に取り掛かる。
「ちなみにいくつスライスすればイイんだ?」
すでに死んだ様な目をしている料理人が訊いてきた。
一応、確認はしておこうと考えたらしい。それで、少なければラッキー的な?
莉奈はとりあえず、新作料理に興味のない人もいるだろうし、スパイスが苦手な人も考慮して数を考える。
「う〜ん……500?」
「「「ごっ!! ですよねぇ?」」」
料理人達は、その数に驚愕しすぐに肩を落として諦めた。
オニオンスープの時はもっと多かったのだ。なら、少ない方? だろうと。
◇◇◇
昼食の忙しい時間が一段落し、食堂は閑散としていた。
莉奈がカレーを作ると聞いたので、白竜宮と黒狼宮から、数名の料理人達が手伝いに来ていた。
莉奈が新しい料理を作る時は、夕食の準備をこちらで一緒にしてしまおうと、こうやってたまに来るのである。
これだけ広い厨房も、人数が増えると狭く感じる。
ーーザクザクザク。
ーーコンコンコン。
結果、チーム制にして玉ねぎスライスの競争になっていた。
ただ、以前と違うのが、"銀海宮""白竜宮""黒狼宮"の各所3チームに分かれた事だろう。
リック料理長は立場上から、今回はチームに加わっていない。一応、総料理長でもある彼が加わると、銀海宮には副料理長もいて不公平だと、他の宮から声が上がったのだ。
莉奈は言わずもがなだが、加わる事はない。
莉奈に言わせれば、料理長だからと言って、玉ねぎスライスが1番早いかと言えば別だと思っている。
上に行けば上に行く程、雑用はしなくなるからだ。
むしろ、毎日のように同じ作業をやらされる下っ端の方が早かったりするのでは?
まぁ、リック料理長は真面目だから、雑用係も進んでやる人だけど。
「懐かしいな」
手伝いながら、リック料理長が優しい口調で呟いていた。
プリンというと、莉奈がココに来て初めて作ったお菓子である。リック料理長はそれを思い出し、懐かしんでいる様だった。
「でも、今日作るのは、以前作った家庭的な素朴なプリンじゃなくて、ちょっと贅沢な濃厚プリンだよ?」
「濃厚」
リック料理長はゴクリと喉を鳴らした。
やはり、莉奈の作る料理はアレンジも豊富にあるし、種類もあるのだなと感服する。
莉奈が初めて作って食べさせてくれたあのプリンは、皆に衝撃を与えた物だった。
ドライフルーツや甘い豆菓子、固くてしょっぱい粉のお菓子しかない世界に、あんなに甘くてなめらかなお菓子が現れたのだ。
今もあの衝撃を思い出すくらいだった。その贅沢版である。興味しかない。
「まず、プリンに必要な材料は覚えてる? リックさん」
「卵、牛乳、砂糖だろう?」
「正解。そこに、生クリームと卵黄をプラスして作るのが、この濃厚プリン」
「生クリームと卵黄か」
リック料理長は、顎をひと撫でしながら真剣かつ楽しそうにしていた。
知らない事を知る感覚が楽しいのである。
「プリンも他の料理同様に、色々な作り方やアレンジがあるんだよ。で、さっき食料庫に行ったら、こんな物を見つけたからコレを入れてみよう」
「「「カボチャ!?」」」
「そう、カボチャです」
この世界のカボチャは、外側が深緑の見慣れたカボチャもあるが、濃いオレンジ色のカボチャもある。訊いたら赤もあるみたいで、実にカラフルだ。
莉奈が作業台にカボチャをドカンと載せれば、レースに参加していない観戦者からも、驚く声が聞こえた。
果物ならともかく、プリンにカボチャを入れるなんて、想像もしなかったのである。
「プリンにカボチャか」
「だね。カボチャの甘さが加わって美味しいよ? と、言う事でカボチャは、上部分を切って種やワタを取った後、丸ごと先に蒸して柔らかくしとく」
「え? 丸ごと?」
「うん。カボチャを丸ごと豪快にプリンの器にしちゃう」
「それはスゴイな」
蒸し器代わりの鍋に入れたカボチャを見て、リック料理長が目を丸くさせていた。
トマトは器として使った事はあるが、カボチャはなかった。
豪快かつインパクトの強いお菓子である。リック料理長は少しワクワクしつつ、莉奈の手元をチラッと見た。
「え? あれ、今気付いたけど……リナ、なんか凄い包丁を持っているな」
魔法鞄から取り出していたマイ包丁に、リック料理長は目を見張った。
自分が持っている包丁より、明らかに高そうでキレが良さそうだ。
「この間ココに来た、綺麗なお兄さんに造って貰った」
莉奈は、使った包丁を洗いながら答えた。
固いカボチャも柔らかい食材も断面が崩れず、切れ味が抜群でものスゴく重宝しているのである。
「え!? あの美人なお姉……じゃない、お兄さん包丁を造る人だったのか!?」
「違うよ。武器職人」
「は? 武器職人!?」
「うん」
皆は唖然としていた。
あの美人なお兄さんから、武器職人という職業は全く思い付かなかった。
線は細くて綺麗だったし、どちらかと言うと、服飾関係の仕事をしている人にしか見えなかったのだ。
「武器職人がなんで包丁なんか造ってくれたんだ?」
「生キャラメルあげたら造ってくれた」
「「「あぁぁ〜〜っ」」」
実際には全然違うんだけど、説明が面倒くさい莉奈が適当に言ったら、なんだか不思議と皆が納得していた。
なんで、それで"あぁ"と納得してしまうのだろう?
アーシェスさんが、自分達同様にモノに釣られると思ったのかもしれない。
皆々様、いつもお読み頂きありがとうございます。
楽しんで頂けると幸いです。(╹◡╹)
【お手紙をくださった方へ】
つい先日、担当者様を通じて読者様からの素敵なお手紙が届きました。
とても嬉しいコメントが並んでいて、ハッピーな気分に (*´꒳`*)
WEBも見て下さっているとの事でしたので、この場をお借りしてお礼申し上げます。
ありがとう♡╰(*´︶`*)╯♡ございました




