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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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373 夜の散歩



 王竜の首の脱皮の皮を手に入れた莉奈は、早速自室に向かった。そして、どこに置こうか部屋中をウロウロし、寝室へ。

 ベッドの横にある小さなテーブルを見て、ハタと閃いた莉奈は、上にある物を退かしてドンと置いてみた。

 退かしたのはランプシェード、ランプの傘だ。

 元から付いていたランプシェードは、外して魔法鞄マジックバッグにとりあえずしまいランプに被せる様に置いたのだ。



 トゲは加工していないから、下がカタカタして少しバランスは悪いが、コレはこれで良い感じだ。後はランプの光りがどうなるか。

 脱皮の皮は薄いから、ランプシェードみたいに中から明かりが漏れるのでは? と思ったのだ。

 試しに光の魔石を使用した特殊なランプのスイッチを入れると、内側から柔らかい光が漏れた。竜の脱皮の皮は、想像以上に薄いらしい。

 暖色系の柔らかい光が、部屋の一部を照らし温もりさえ感じる。




 莉奈はベッドに横になり、その淡い光をぼんやりと見ていたら、眠くなってきた。

 やんわりとした光はなんだか心地よく、妙な安心感があるから不思議だ。

 莉奈がベッドで、うつらうつらと良い気分で寝ていると、碧月宮に誰かが来ていたらしい。

 ここに住んでいるのが何処ぞの王族ならば、部屋の前には護衛兵の姿があったかもしれない。

 だが、莉奈はそんな身分ではないのでいらないと、必要最低限の警備兵しか置いていない。侍女達も同じ理由で常時必要はないと下げている。なので侵入は容易い。




「こんな夜更に、女性の部屋に伺うのはいかがかと……」

 莉奈の宮がいくら侵入が容易いからといって、来たぞとはいかない。

 なので、来訪者は一応ラナ女官長に断りを入れていたのだ。

「何分、思い付いたのが先程でしたので」

「突然だから面白いんじゃね?」

 その来訪者は悪びれた様子もなく、笑っていた。

 そう、こんな夜分遅くに来たのは王達だったのだ。

 突然で面白いのはエギエディルス皇子達だけであって、急に来られたコチラの心情も理解して欲しいと、ラナ女官長とモニカは苦笑いしていた。



「明日でも……」

 ラナ女官長はそう言いかけたが、莉奈を驚かせたかったのだと言われたら何も言えなかった。

 事情が事情ならば仕方ないかと、ラナ女官長はため息を溢しながら莉奈の部屋へと向かうのであった。



 いつもなら起きている時間だが、既に寝ていた莉奈は、突然起こされ寝ぼけ眼だった。

 なんだか分からないまま、ラナ女官長とモニカに乱れた服を整えられ髪を結わき直され、ポヤポヤしながら碧月宮の庭先に連れて来られていたのだ。

 そこには、何故か王3兄弟と王竜、真珠姫、莉奈の碧空の君もいた。

 碧空の君は着けてないが、王竜と真珠姫は珍しく鞍を着けていた。ズレないように、鞍をランドセルみたいに背負っている。カッコ可愛い。

 キョロキョロして辺りを見たが、エギエディルス皇子の竜はいない様だ。




「もう寝てたのかよ」

 瞼がうつらとしている莉奈に、エギエディルス皇子が驚き笑っていた。

 やる事がないにしても、早過ぎじゃないかと。

「夜分遅くに申し訳ありませんね。リナ」

「アイスクリームですか?」

「違います」

 シュゼル皇子が突然の訪問を謝罪すれば、莉奈がそんな事を言ったので、笑顔が固まりつつ否定する。

 アイスクリームが食べたくなったからといって、さすがに夜遅く莉奈を叩き起こしに来たりしない。

 莉奈は完全に寝ぼけているのか目を擦りながら、シュゼル皇子に訳の分からない返答をしていた。

 フェリクス王とエギエディルス皇子は、それを見ていて吹き出した。寝ぼけた莉奈が面白くて、可愛いと。




「散歩に行くんだよ」

 エギエディルス皇子が、寝ぼけ眼の莉奈を覗き込む様な形で面白そうに言った。

「散歩?」

「そ、散歩」

「えぇっ!? 夜中だよ!?」

「夜中じゃねぇよ」

 22時さえも回っていない。

 莉奈がビックリした様に訊けば、エギエディルス皇子は笑っていた。

 


「基本的に、夜の散歩はあぶねぇから絶対ダメなんだけどな。今日はフェル兄がイイって言うからさ」

「うん?」

「竜に乗って散歩するぞ」

「……」

 莉奈の頭は、まだ寝ぼけていて働かず。

 一瞬、エギエディルス皇子が何を言っているのか、理解出来なかった。

「おい? 聞いてたかよ。竜にーー」

「竜ーーっ!!」

 ゆっくりと状況を理解した莉奈は、両手を挙げ歓喜の声を上げた。

 言われて見れば、王竜と真珠姫の背には鞍が着いていた。

 ……と、言う事はどちらかに乗せて貰えるのだろう。

 以前、真珠姫に鷲掴みにされた飛び方ではなく、念願の竜の背に乗れるのだ。しかも、夜空なんて最高である。莉奈は興奮で一気に目が覚めた。




「やったぁーーっ!! 鷲掴みじゃなくて、背中に乗れるんだよね!?」

「……鷲掴み」

 エギエディルス皇子は苦笑いし、シュゼル皇子はチラッと真珠姫を見た。

 真珠姫はバツが悪いのか、顔を逸らしていた。



「ん? このベルトは?」

 喜んでいた莉奈の顔の前に、ベルトらしき物がブラ下がった。

 フェリクス王に着けろと手渡されたのだ。

 莉奈はその革製のベルトを見て、小首を傾げた。

 竜に乗るのに、ベルトは必要なのかなと。

「命綱を付けるベルトだ」

「命綱」

「これを付けときゃ、さすがのお前も暴れて落ちねぇだろ?」

「……」

 そう言って口端を上げたフェリクス王。

 それは絶対に暴れると言っている様なモノだ。

 揶揄っていると、莉奈は無言で睨み返した。



 だが、莉奈の睨みなど何も意味などなく、フェリクス王は面白そうに笑いつつ、説明を続けた。

「ベルトの金具に、命綱に付いているカラビナを片方装着して、もう片方は鞍の前の手すりに付けるんだ」

「"カラビナ"?」

「そのフックみたいなヤツが"カラビナ"だ」

 登山の時に使用したり、キーホルダーをぶら下げる時に使用するフックを"カラビナ"というらしい。

 頑丈な縄の両端に、そのカラビナが付いてある。

 これで万が一に落下しても、鞍と莉奈をカラビナで繋いだ命綱で助かる様だ。

「陛下は付けないんですか?」

 良くみたら、フェリクス王は命綱らしき物を何も着けていない。

「あ、化け物は落ちてもーー」





 ーーバシン。





 莉奈がつい思った事を口にすれば、頭の上に平手が落ちてきた。




「さっさと着けろ」

「は〜い」

 フェリクス王にそう言われ、莉奈は命綱用のベルトを装着するのであった。












 









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