371 仲睦ましい? 兄弟
「アイスクリームはともかく」
莉奈は気持ちを切り替えて、次の物を出す事にする。
こういう時は、少々強引でも話を変えてしまえばイイ。
「スイート・マティーニをどうぞ」
先程作って来たカクテルを、フェリクス王の前に差し出した。
「マティーニ」
フェリクス王はそれで気分が一気に変わり、新作のカクテルに釘付けであった。
お気に入りのマティーニの新作である。口端が少し上がっている。
「何故、2つ?」
莉奈が出したのは、2つである。
同じモノを出すとは思わないが、何故か理由を知りたかったのだ。
「スイート・マティーニは、主流と呼ばれる組み合わせと、そうではない組み合わせがあるんですよ」
「ほぉ?」
莉奈が軽く説明すると、フェリクス王の口端がさらに、上がっていた。
2つを試す楽しみがあるからだろう。
「さて、どちらが主流でしょう?」
「この俺を試すんだな?」
「どうでしょう?」
フェリクス王はそう挑発しながらも、実に楽しそうである。
「エドと、シュゼル殿下にはノンアルの新作カクテルを2つ程、ご用意致しております」
莉奈がそう言って2人の前に出すと、エギエディルス皇子の顔にパッと花が咲いた。
今回は、カクテルグラスに入れたのを出したから、見た目は完全にカクテル。ただのジュースもオシャレでカッコいい。
「右の濃いオレンジ色のは "シンデレラ" そして左にあるのはーー」
だけど、レシピは莉奈のオリジナルだから、名前がないんだよね。
「アドイドウドエドでございます」
「アドイド……ってお前、適当に言ってんじゃねぇよ」
エギエディルス皇子が反芻した途端、適当だと気付きツッコミを入れて笑っていた。
最後に自分の名前だ。絶対に後者は適当である。
「ノンアルのカクテルは、お酒のカクテル程レシピがないんだよ」
だって、お酒ありきのカクテルだからね。
ジュースを混ぜたモノは、大抵ミックスジュースである。
「さて、何の果物が入っているでしょう?」
「待ってろ。すぐに当ててやる」
莉奈が挑発っぽくして言うと、エギエディルス皇子は気合いを入れていた。
エドくん。可愛いよね。
莉奈は、その可愛さに目尻が垂れていた。
「あぁ、スイート・ベルモットが入っているから、スイートか」
先に口を付けていたフェリクス王が、大きく頷いていた。
疑問系じゃなくて、完璧に分かっている口調だ。一口二口で分かるのだから、驚愕を通り越して感服する。
「良く分かりますね」
「まぁ、色が付いているからな」
そう言って、フェリクス王はカクテルグラスを傾け、光に当てていた。
マティーニとは違い、スイート・マティーニはブランデーやウイスキーの様な琥珀色。
それは、原料にカラメルが入っているため、スイート・ベルモット自体が茶色っぽいのだ。
「だが、ブランデーやウイスキーの味や香りは、まったくしねぇ。オマケに俺が普段飲まねぇカラメルの香り。となれば、限られてくる。で、極め付き"マティーニ" だろ? お前が作ってくれるマティーニは、どれもドライ・ジンをベースにしたモノが主流だ。だから、ドライをスイートに変えたのがコレだろ?」
「では、もう一つは?」
「ドライ・ジンをスイート・ベルモットに変えた、ベルモットのコラボ。で、主流は当然、このドライ・ベルモットをスイートに変えたコッチだろう」
フェリクス王にしては、実に饒舌である。
大が付く程の好きなお酒で、口が滑らかになっていた。それが、なんだか子供みたいで妙に可愛いと思うのは、莉奈だけだろうか?
そして、語るフェリクス王に耳を傾けていて気付いたけど、確かに自分が作ってきたマティーニ系は、ドライ・ジンがベースのモノが多い。気にした事もなかったが、良く覚えているなと感心する。
そろそろ、2種類ではつまらなくなってきた様だし、3種類くらい混ぜたカクテルにするかと、莉奈は考えるのであった。
「では、正解にこちらのカクテルをどうぞ」
莉奈はサケティーニをコトリと置いた。
どうせすぐに分かるだろうから、あえてカクテルの名前は言わない。
「まだ、あるのか」
フェリクス王の目が、ギラリと光った。
「うっま!! シンデレラはオレンジベースだな? だけど、コッチはなんだ? リンゴ……リンゴと桃じゃねぇし」
エギエディルス皇子は両方とも一口ずつ飲んだ後、"アドイドウドエド" をチビチビ飲みながら、首を傾げていた。
どうやら、ベースであるリンゴは簡単に分かったらしい。だが、それ以外に何が入っているのか確信が持てない様だ。
「今朝の朝食に出ましたよ?」
「あ、マンゴーか!! って答えを言うんじゃねぇよ!!」
あまりにも悩む弟に、シュゼル皇子がヒントを出せば、エギエディルス皇子はハッとした途端に怒っていた。
ヒントというより、答えそのものだったからだ。
自分で当てたかったらしく、悔しそうである。"シンデレラ"を口にしながら、コッチは教えるなよとシュゼル皇子に念を押していた。
怒られたシュゼル皇子は、ほのほのとしているけど。
「コッチは、オレンジ……レモン? いや、パイナップル?」
エギエディルス皇子は真剣に悩んでいた。
その前でシュゼル皇子は、莉奈を呼び耳打ちする。
オレンジとパイナップル、それとレモンですね? と。
「正解です」
「あ゛ぁ!? 何を勝手に正解してんだよ!!」
エギエディルス皇子はその耳打ちが目に入り、頬を膨らませていた。
自分を差し置いて勝手に莉奈に耳打ちまでして、勝手に正解をしたからである。
「くそぉ!」
エギエディルス皇子は悔しそうに呟くと、再びシンデレラを口にしていた。
自分の力で当ててやると。
そんなエギエディルス皇子を横目に、莉奈は先に当てたシュゼル皇子に甘いカクテルを出した。
「シュゼル殿下には"ビーズ・キッス" というカクテルを」
その瞬間、フェリクス王の視線がコチラに向いた。
知らないカクテルが出たからだろう。
「ビーズ・キッス?」
「甘いカクテルです。何で作られているかは後のお楽しみで」
甘いと聞いた途端に、フェリクス王の興味が完全に逸れた。そのあからさまな態度に、莉奈は小さく笑ってしまった。
シュゼル皇子は嬉しそうにお礼を言うと、魔法鞄にしまっていた。
エギエディルス皇子は、それをチラッと口を尖らせていたけど。
ーーそして、5分後。
「オレンジ、パイナップルとレモンだな!!」
とエギエディルス皇子が正解を当てたので、莉奈はご褒美を用意する事にする。
「正解したエドには、プレゼントを差し上げます」
カクテルは、とりあえず用意したオマケである。
本当にあげたかったのは、コッチなのだ。
莉奈は魔法鞄から、液体の入った酒瓶を何個か取り出した。
「あ゛?」
満足気に "シンデレラ" を口にしながら、眉根を寄せるエギエディルス皇子。
ガラの悪さは兄王譲り。というか、譲り過ぎだ。どうして、もう1人の兄に似なかったのか。顔はそっくりなのに。
「何が入っているのですか?」
ワインやブランデー、ウイスキーと色々の"瓶" はあるが、シュゼル皇子は莉奈が弟にお酒を用意するとは思ってはいない。ならば、中身はと気になったのだ。
「ワインの瓶には、葡萄ジュース。ブランデーやウイスキーにはストレートの紅茶。ホーニン酒の瓶には、玄米茶が入っています」
お酒の瓶から飲み物を注ぐと、それだけで、大人になった気分になるだろう。
子供用のシャンパンをヒントに、倉庫に転がっていた空瓶を洗って、中身を紅茶とかにしてみたのである。
視覚がそれっぽいと、テンションが上がるよね。
ちなみに紅茶は紅茶でも、ブランデーの瓶にはダージルン。ウイスキーの瓶にはアッシムが入っている。
莉奈の世界でいう、ダージリンとアッサムである。
「すげぇ。これ全部、お茶とかジュースかよ」
エギエディルス皇子が、キラッキラとした瞳をさせて、前のめりになった。
紅茶とかが入った酒瓶を手にして、興奮気味である。
こんなに喜ぶのなら、早く思い付けば良かったよ。
「エド、このグラスに注いでみれば、さらにソレっぽくなるよ?」
莉奈は、氷が入ったオールド・ファッションド・グラスをテーブルに置いた。
別名ロック・グラスと呼ばれ、タンブラーより少し横にぽってり太め。ウイスキーとかを、ストレートで飲む時に良く使われるグラスだ。
「カッコいい!!」
グラスに氷が入っているだけなのに、雰囲気がすでに大人な気分になっていた。
莉奈に言われた通りに、紅茶の入ったブランデーの瓶からグラスに注ぐと、コプコプと独特の音がする。
ティーポットでは出せない、瓶から注ぐ独特な音だ。
その音からして、エギエディルス皇子が嬉しそうにしていた。
最後にカランと、氷が動く音がすれば、エギエディルス皇子はさらに大満足な表情をした。
「よし、リナ。これに合うツマミを出せ」
オマケに兄王みたいな真似までするから、莉奈はエギエディルス皇子が可愛過ぎて、つい笑ってしまったのであった。




