36 懐かしのプリン
コンビニのスイーツって、もう出来が良すぎてケーキ屋行く機会が減りました。
「砂糖焦がして、どうすんだよ!?」
小鍋で砂糖を焦がし始めた莉奈に、エギエディルス皇子は驚いて言う。ただでさえ貴重な砂糖だ、焦がしてダメにされては困るのだ。
「あ~。カラメルソース作ってるの」
莉奈は、のんびり鼻歌でも歌いそうな口調で言った。
「カラメルソース?」
「甘いプリンの引き立て役」
「…………?」
何がどう引き立てるのか、わからないのか眉を寄せている。
「あった方が美味しいよ?」
というか、大抵のプリンはカラメルソースが付いてる。
カラメルソースのないプリンなんかつまらない。
莉奈は、なんだかよくわかっていない、エギエディルス皇子を横目にカラメルソースを耐熱グラスに入れて、とりあえず冷蔵庫に入れた。そして、またプリン液を作り始める。
「なぁ、さっきと同じもの作るのかよ?」
「似てるけど、違うよ」
「でも材料、一緒じゃね?」
「だって、基本は同じだもん」
フレンチトーストもプリンも基本は一緒。卵、牛乳、砂糖で作ったプリン液にパンを浸けて焼けばフレンチトースト。パンを入れないで蒸したりすればプリンだ。
そんなやり取りをしてる内に、冷えて固まったカラメルソースを取り出した。そして、その上にプリン液をゆっくり注ぐ。後は、蒸して冷やし固めるだけだ。オーブンで蒸し焼きという手もあるが、舌触り的になめらかな蒸しプリンの方が、個人的に好きなので今回はそうする。本当は砂糖をもっとガッツリ使ってもいいのなら、出来上がったこの上にキャラメリゼしたい、食感も楽しいし……。
「……鍋に、お湯を張ってどうするのですか?」
リックは一々興味津々だ。一応、莉奈の邪魔にならない程度の質問にしている様である。
「リックさん、敬語は使わなくていいですよ?……張ったお湯に浸けて蒸します」
莉奈は、年下の新参者に敬語を使うリックに、苦笑いしつつ説明する。ただでさえ、敬語で話されるのが苦手なのに、一回り以上も離れた人生の先輩になんて余計に無理だ。
「敬語は当然です。私からしたらあなたは、師匠ですからね」
と、当然の様に言われてしまった。
「師匠……!?」
「……はい!」
「いやいやいや!?やめて下さい!!師匠も敬語もやめて下さい!!」
敬語もイヤなのに、師匠なんて最悪だ。
「……しかし……」
と、なおも躊躇うリックに
「お互い、敬語なし!!そうしよう!!」
莉奈は、そういう事にした。
そういう風にしないと、師匠なんかにされてしまう。歩み寄るどころか、百歩くらい離れていく。そんなんじゃ全然楽しくない。
「……わ、わかり……わかった」
「うん!!」
なんだか、リックのその言い方が、奥さんのラナに似ていて 似た者夫婦なんだな……とほっこりした。
「そうだ。エド……氷の魔法使える?」
もうそろそろ、プリンが蒸し上がりそうな時にふと思った。
「お前、ホント唐突な……まぁ、使えるけど」
相変わらずの話の脈絡のなさに笑う。
「んじゃ、ここに細かい氷出して」
と、平たいバットを置いた。そこに出して貰おうと。
「イイけど……どうすんだよ?」
眉をひそめながらも、バットの上にかき氷の様な細かい氷をこんもりと出した。
「ありがとう……コレを早く冷やすのに、欲しかったんだよね」
莉奈は、蒸し上がったプリンを器ごと、氷の上にザクザク乗せた。これで、冷蔵庫なんかより早く冷える。
「……お前……魔法をなんだと思ってんだよ?」
その使い道に、エギエディルス皇子は呆れた。
「便利な道具」
「……食い物冷やすのに使うなんて、信じらんねぇ」
「なに言ってるの? 冷蔵庫だって魔法じゃないの」
「魔石」
「同じでしょ?」
「違う」
エギエディルス皇子は、違うと言うが、莉奈にしたら同じだ。
魔石も魔法も変わりはない。元は一緒にしか思えない。
「そういえば、"冷蔵庫" あるのに "冷凍庫" はないよね?」
さっきから色々みて回ったけど、それらしい物がなかった。
冷やすのに冷凍庫があればもっと早く冷えるのに。
氷とか使わないのかな?
「なんだよ "冷凍庫" って……?」
やっぱり知らないのか、エギエディルス皇子が訊いてきた。
「冷蔵庫が冷やす箱なら、冷凍庫は凍らす箱」
たぶん、この説明でいいハズ。
「……何を、凍らすんだよ」
「暑い日なら、水を凍らしてお茶……紅茶に入れたり? ん~後は、アイスクリームとかシャーベットとか氷菓子が出来るよ?」
「マジか!!」
「本当!?」
驚くエギエディルス皇子に混じって、何故かモニカまで歓喜に似た驚く声を出していた。
もしもし?作ったとして、モニカの口に入るとは限らないんですけど?




