351 莉奈は痩せたが……。
ーーあ、そうそう。
莉奈はタコを受け取った後、2人の皇子に練乳かけのフルーツを出したのだけど……。
「気持ち悪ぃ」
シュゼル皇子のデザートを見た、フェリクス王の感想がソレだった。
食後に、練乳がかかったフルーツを一口食べたシュゼル皇子は、莉奈に追加を要求したのだ。
そして、追加分を差し出すと、すでにかかっているフルーツの上に注いだのである。
そうなのだ。かけた……のではない。注いだのだ。
「……」
エギエディルス皇子は、開いた口が塞がらない様子である。
口をポカンと開けたまま、固まっていた。
「フルーツのクリームシチューみたいで、ん〜美味しい」
至極ご満悦のシュゼル皇子が一言。
確かに、一見クリームシチューに見えなくもない。練乳増し増しヒタヒタな果物達は、練乳と言う湖に浮かんでいる様だった。
まさか、追加分を全部使い切るとは思わなかったよ。
莉奈は、どこまでも甘党なシュゼル皇子に、言葉を失ったのであった。
◇◇◇
「あ、リナおかえり」
「ただいま〜」
このなんともないやり取りが、心をほっこりさせてくれるよね。
だって、家に帰っても "おかえり" なんて言ってくれる家族はいないんだもん。
厨房に戻った莉奈は、皆の温かさにジーンとしながら、まずは遅めの昼食を摂る事にした。
ニンジンのポタージュスープに、エビの入ったサラダとパン。
リック料理長達は莉奈が教えた料理を、どんどんアレンジしたり自分達で新しい物を作ったりしている。
たまに、変わったモノを作って、あまりのマズさに唸っているけど、実に楽しそうである。
「今日はニンジンのポタージュにしてみたけど、どうだい?」
食堂の片隅で昼食を摂っていたら、リック料理長がやって来た。
ジャガイモのポタージュをアレンジをしてみたのだが、莉奈の意見を聞きたかったのだ。
「スゴく美味しいよ? 私なんか、もうお払い箱なくらい」
「大袈裟だよ」
と言いつつ、リック料理長は照れ臭そうに笑った。
いくら今までの料理がアレだったとはいえ、リックさんは王宮の料理長だから、基本的に実力もセンスもあるんだよね。
だけど、この世界の比重が、料理より魔物退治に傾き過ぎていたんだと思う。
だから、食べ物は口に入れば何でもイイって感覚に慣れちゃって、麻痺していたんじゃないかな。
だって、食にお金を掛けるより、武器や防具にかけないと魔物に侵略されちゃうからね。
キッチンのオーブンやコンロも、元は火で魔物を退治しようと考えた武器から生まれた調理機材だって、リック料理長か誰かに聞いた事がある。
材料や食材、調味料は探せばある訳だし、後はちょっとしたきっかけだけが必要だったのだと思う。
「しかし、パンが柔らかくなったおかげで、具材を上に載せたり挟んだり出来るから、バリエーションが色々と増えたよ」
「パンって言えば、マヨネーズはスゴイ人気だよね。いつも別盛りで用意されているみたいだし」
食堂の配膳台には "ご自由にお使いください" と、いつも新鮮なマヨネーズが瓶詰めで常備されている。
何にでも付けるマヨラーがいるくらいだ。
警備兵は動くからあまり太らなくて残念だけど、料理人達は一部プクプクとしてきた。
ーー見事に育ちましたな。
「リナ? 何を笑ってるんだよ」
悪そうな笑みを浮かべている莉奈に、リック料理長は警戒する。
こういう時の莉奈は、良からぬ事を企んでいるに違いないのだ。
「育ったね?」
莉奈は、リック料理長のお腹を見て、満面の笑みを浮かべた。
とうとう、ぷっくりと育ったのだ。
貫禄があると言えばイイ言い方だが、数歩進めばただのデブ。そろそろ、奥さんのラナ女官長に注意されるに違いない。
「な、なななっ何が!?」
「エールにからあげって最強だもんねぇ?」
「……っ!」
その瞬間、リック料理長は莉奈の意味する事が分かり、ザザッとお腹を両手で隠し2、3歩下がった。
太るのは百も承知だが、晩酌にからあげはやめられないのだ。
彼の1日の終わりの密かな楽しみが、エールとからあげだった。
「ぷっくり〜ぽってり〜、でっぷり〜ぽっちゃり〜」
「や〜め〜て〜くれ〜!!」
莉奈が鼻歌交じりにそう言えば、リック料理長は涙目になり耳を塞いでいた。
そんな彼を苦笑いではなく、頬を痙攣らせて見ている人達もいるから、明日は我が身とでも思っているのだろう。
莉奈は皆を横目に、今更ながらに思う。自分の作る料理は基本的にハイカロリーの料理ばかりである。
自身が好きな事もあり、コッテリ料理が多かった。
と、なれば必然的に太るよね?
「ごちそうさまでした」
莉奈はほくそ笑みながら、昼食を食べ終えたのであった。




