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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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334 戦いのゴングはいつも突然に



「リナ? 何を飲んだのですか?」

 真珠姫は莉奈の飲んだモノが気になり、鼻先をスンスンと莉奈に近付けた。

 ポーションかなと軽く考えながらも、確認のため匂いを嗅ごうしたのだ。



「さて、なんでしょう?」

 莉奈は不気味に笑った。

「……」

 野生の勘。竜の勘と言うべきなのだろうか。

 真珠姫は、背筋にゾワリとした何かが走り、堪らず半歩下がっていた。

 ポーションではない。真珠姫はそんな気がした。

 莉奈からは、妙な不気味さと怖さを感じたのだ。

「あっ、陛下」

 莉奈はわざと、驚いた様にそう言って右を向いた。

「え゛?」

 真珠姫がビクッと、誘われる様に右を向いた瞬間ーー。





 ーードコーーッン!!




 と爆破でもした様な重低音が一つした。




「ゴエッ!?」

 真珠姫は、下顎に強い衝撃と激痛が走ったと同時に、頭が勢いよく真上を向いた。

 激痛と衝撃に何事だと、真珠姫は呆然としながらも、フラフラと莉奈に顔を向けた。

「真珠姫は少し強引なんだ、ヨッ!!」 




 ーードコン!!




 今度は小気味良い掛け声と共に、真珠姫の顔が真横に向いた。

 真珠姫はふらついたがギリギリのところで、踏ん張り体勢を立て直した。

「い、痛い!! なっ……ガッ!!」

 この痛みの原因が莉奈だと分かった真珠姫。

 文句を言おうと莉奈を見た瞬間、さらに顎先に何かの衝撃を食らった。




 ーードスーーッン!!




「言葉があるんだから、まず話をしましょうか?」

「……」

 どの口が言うんだ、と真珠姫は遠くなる意識の中で思った。

 真珠姫、意気消沈どころか、激痛により撃沈。

 余りの痛さに悶絶し耐えきれず、自然と地面に平伏した形になっていた。

 なんなのだ、この女。

 真珠姫、戦わずして戦線離脱した。




「「「……っ!?」」」

 一部始終を見ていた近衛師団兵達は、絶句である。




 一体何が起きたのか。




 それはーー。




 莉奈が真珠姫を、竜を蹴り倒していたのだ。

  "何か" を魔法鞄マジックバッグから取り出し一気に飲み干すと、ニヤリと不敵に笑って真珠姫を見た。

 そして、真珠姫の隙を突くと、無防備になった真珠姫の下顎に向かって、莉奈が思いっきり前蹴上げをかましたのだ。

 突然の下顎の強い衝撃に、真珠姫の頭が一瞬空を仰ぐ形になった……が、そこはさすが竜である。顔を顰めつつも、何事だと顔を正面に向けた。

 その真珠姫の顔に、素早く莉奈は軽くジャンプして回し蹴りを食らわせたのだ。上に揺さぶられたと思ったら、次は右である。

 それには、真珠姫も何が何だか分からないまま、2度も脳を揺さぶられ身体がフラついた。

 そこへ、莉奈渾身の踵落としである。

 真珠姫は、莉奈だからと安心しきっていた。それが、そもそも間違いで油断を作ったのだ。

 世界最強と謳われる竜も、何も理解出来ないままコテンパンにヤラレて、あまりの痛さに悶絶し地に倒れたのであった。





 莉奈VS真珠姫。





 一方的、圧倒的な結果ではあるが、莉奈の勝利に終わった。





 近衛師団兵達、愕然である。





「いくら相手が無抵抗とはいえ、竜を蹴り倒す女がいるとはな」

「「「へ、陛下!!」」」

 くつくつと笑う声に振り返って見れば、フェリクス王がそこにいた。

 近衛師団兵達は、一斉に慌てて膝を折る。

 音も無く現れたフェリクス王に気付かなかった。それ程に、竜と人間との戦いに思わず魅入っていたのだ。



「見事な蹴りでしたな」

 ゲオルグ師団長が、ものスゴく満足そうに高笑いしていた。

 無抵抗にしろ、竜を地に平伏させる事は並大抵では出来ない。それをただの少女がやり遂げた。目の前で。

 始めからタダ者ではないと勝手に想像してはいたが、その通りだったので、ゲオルグ師団長はドコか誇らしかったのだ。

「ったく、良く分からねぇ女だ」

 笑っているのか小さく肩を震わせながら、フェリクス王は柵をヒラリと飛び越え、莉奈のいる場所へと向かって行った。

 イベールが以前、莉奈が踵落としをした様な話をしていたが、正直眉唾物だった。

 だが、自身の目で見れば、話を聞くより見事過ぎて感嘆する。

 あの小さな身体から、どうしたらあんな力が出るのやら。



「身体がダルイ」

 莉奈はヘロヘロである。地面にヘタリ込みそうになった。

 あの "薬" は副作用があるらしい。身体がものスゴくダルイ。

「随分と仲が良いな?」

 フェリクス王はフラついた莉奈の腕を掴み、支えつつ真珠姫を見た。

 もちろん、仲が良いなんて揶揄して口にしただけだ。実際に仲が良いかなんて知らない。

「どこ……が」

 真珠姫は気絶はしてはいない様だが、意識が朦朧としていた。

「ケンカする程って言うじゃねぇか。なぁ?」

「…………」

 フェリクス王は口端を上げていたが、真珠姫は目を逸らして押し黙った。

 その言葉の裏には、程々にしろ。または、面倒を掛けるなよ? と含みが入っているに違いない。



「で、お前は何してやがるんだ?」

 今度はヘロヘロしている莉奈を見て、苦笑いしていた。

 つい先程まで、機敏に竜を蹴り飛ばしていたのに、今はグッタリしている。この落差は一体なんなのだ。

「だって……」

「あ゛?」

「だって、ガッて掴まれて空飛んで、コロコロ転がされたからカチンとしたんだもん」

 莉奈はそう言って、口を尖らせていた。

 フェリクス王は、莉奈の漠然とした説明に一瞬眉根を寄せた。

 これだけの説明では全く分からない。だが、先程莉奈付きのラナ女官長と侍女モニカが報せに来た話と摺り合わせ、なんとなくだが理解した。



「白いの」

 状況は分かった。後は事情だと、真珠姫をひと睨みした。

 厨房から莉奈を強引に連れ去り、地面を転がす理由はなんなのだと。

「……」

「また行きたいのか?」

 フェリクス王は真珠姫がいる地面に、バチンと闇の空間を作る素振りをみせた。

「イヤイヤイヤ、わ、わ、私は悪くありませんよ!! リナ、リナがいけないのです!!」

 真珠姫は立ち上がると、慌てて身振り手振りで説明し始めた。

 とんだ言い掛かりだと。

「昨日、私の部屋を改装してくれると言ったのに、反故にしたから!!」

「……」

 とりあえず事情を聞いたが、その理由が実に下らな過ぎて、フェリクス王は言葉が出なかった。



「あっ、忘れてた」

 フェリクス王に支えられていた莉奈は、ハッと思い出した。

 そんな約束をしていたな……と。

 フェリクス王に呼び出され、師匠とアーシェスと話をしていたらスッカリ忘れた。




 いや、だからといって、掴んで飛ぶのはヒドイよね?




 一瞬、蹴り飛ばしたのは悪かったかな? と思ったが、鷲掴みする方もどうかしていると思う莉奈だった。









小説4巻、家に迎えてくれた方々、ありがとうございます。

これからも、頑張りますので宜しくお願いします。

 (╹◡╹)

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