328 チーズナンとベーコンチーズのピザもどき
「さてと、生地を寝かせている間にトマトソースを作りますか」
ナンを作るのなら、2種類くらいは作りたい。
莉奈はそう思い、トマトや玉ネギを用意し始めた。
「トマトソースって、この間の?」
「あ〜ステーキの時の? 違うよ」
リック料理長が訊いてきたけど、トマトソースと一言で言っても、色々とあるからね。
ブラッドバッファローのステーキで作ったトマトソースとは違うのだ。
「今回はトマトに完全に火を通す」
莉奈がそう言ってトマトを手に取れば、隣から苦笑い混じりの声がした。
「フェル兄が嫌いなトマト」
「アハハ。でもこのトマトソースは平気だと思うよ」
これは、あくまでもだけど、フェリクス王は生のトマトも食べられたから平気だと思う。嫌いまでではないが苦手、そんなギリギリな感じではないのかな?
「湯むきはしないの?」
トマトを細かく切っていたら、マテウス副料理長が訊いた。
ステーキの時は皮を湯むきしたから、コレもすると思ったのだろう。
「気になるなら剥いてもイイ。でも面倒くさいのでやらない」
生のトマト程は気にならないから。
莉奈は、玉ネギやニンニクも微塵切りに下準備する。
「フライパンにオリーブオイルを引いて、まずニンニクの微塵切りを炒める。香りが出てきたら玉ネギ、少し経ったらトマトを入れて塩胡椒。で、さらに炒める」
「ニンニク炒めると、匂いが堪んねぇよな」
エギエディルス皇子が鼻をスンスンさせていた。
イイ匂いって食欲をそそるよね。
「だよね。ニンニク臭くなるけど、バーニャカウダなんてーー」
「「「っ!!」」」
キラリと皆の視線が莉奈に向かった。
あ〜あ〜だから、どうしてこの口はツルツル滑るんだろう。
ワックスかオイルでも、こんなに滑らないよね。
「炒めたら、コンソメスープをお玉一杯くらい入れて煮詰める」
「バーニャなんとかってなんだ?」
「あっ、エド。ナンの生地、そろそろイイんじゃない?」
「バーニャなんとかは?」
「……」
「バーニャ」
「……」
エギエディルス皇子がジッと莉奈を見ていた。
エドくん。そんなキラキラした瞳を向けないでくれるかな?
「覚えていたら、明日作るよ」
エギエディルス皇子の可愛い瞳に負けた莉奈だった。
◇◇◇
「この生地をどうすんだ?」
ボウルに丸めて寝かせた生地を、指でツンツンしているエギエディルス皇子。
「台に粉を引いて薄く伸ばしてくよ」
「ヨシ。伸ばすんだな」
莉奈の説明を受けながら、エギエディルス皇子は実に楽しそうにやり始めた。
「伸ばしたらそこにチーズを入れて、包んで軽く平らにしたら、油かバターをひいてフライパンで両面を焼く」
「チーズ!」
「エド。あんまり欲張って入れると、包めないよ?」
なんなら、破けるから。
チーズをたっぷり入れて包もうとしているエギエディルス皇子に、莉奈は笑っていた。
「いつも出てるパンには、ハードタイプのチーズをパン生地に入れて焼くと美味しいよ」
莉奈はいつも焼いているパンのアレンジを提案した。
チーズの塩気がちょうど良い感じになって、パンだけでも美味しい。ドライフルーツを入れるのもアリだ。
「そうか、チーズか!!」
「この間、パンに鶏肉入れて焼いたら、中がベチャベチャで不味かった」
「魚も生臭くて不味かった」
気持ち悪っ!!
生の肉や魚をそのまま入れて、焼いてみたと言う料理人達に、莉奈は渋面顔をしていた。
何その、斜め上のチャレンジ精神。
色々と試すのは良いけど、せめて加工した物か調理した物を入れようよ。
まずは無難なチーズからじゃないの?
莉奈はあまりの気持ち悪さに身震いし、癒しの皇子エギエディルスに向いた。
「焼いている間に、玉ねぎをスライス、貴重なベーコンを切って準備しておこう」
「これも中に入れるのか?」
「コッチには入れないよ。伸ばすのは一緒。だけど、そこにさっき作ったトマトソースを塗って、玉ねぎ、ベーコンをのせて、さらにチーズをのせてオーブンで焼く」
「フライパンじゃないのか?」
「チーズに焦げめをつけたいからオーブンだね」
エギエディルス皇子と莉奈は仲良く作っていた。
「ちなみにちょっと生地の作り方が違うけど、同じ様に丸く伸ばした生地に、ソースを塗ってから色んな具材を載せて焼くのがピザ、それを半分に折りたたんで焼けば "カルツォーネ" っていう料理になるよ」
丸いピザを半分、半月状にして焼けば、カルツォーネだ。
カルツォーネは食べ歩きが出来て食べ易いのがイイよね。
「……分かった。明日、頑張って作るよ」
エギエディルス皇子がねだる様な瞳をしていたので、莉奈は苦笑いしながら言った。
「バーニャなんとかもな!!」
「ハイハイ」
そこもしっかり覚えていたのか、エド君や。
莉奈は空笑いが漏れるのであった。
ヨシ!! チーズナンもピザもどきも焼けたし、試食と致しますか。




