325 リナはいつもスベる
「で、何を作るんだ」
なんだかんだと、興味津々な師匠バーツは莉奈の近くに付いていた。
「師匠は何か好きな食べ物あります?」
「わしはお前ぇの師匠じゃねぇ、バーツだ」
「バーツさんの好物は?」
どうせなら、好きな食材で作ってあげたいので、リクエストがあるなら聞いておく。
「酒」
「酒かよ」
この国の人、二言目には "酒" だよね。どんだけ酒が好きなのよ。
「アーシェスさんは?」
「この間貰った。生キャラメルかしら?」
「あ〜ありがとうございます?」
酒と生キャラメル。うん、どうしよう。
「とりあえず、2人共邪魔なので食堂で待ってて貰えます?」
話しながら厨房まで付いて来る2人を、食堂へ追い出した。
見られているとやり辛いし、妙なプレッシャーだ。
「確かに邪魔だわな。ワシも作業中に傍にいられるのはイラッとする」
そう言って、2人は素直に食堂に戻って行った。
意外とすんなり理解してくれたのには、莉奈は驚くのであった。
「さて、どうしよう」
莉奈は腕を組んでいた。
師匠バーツはお酒好き。アーシェスは甘い物。
「酒好きなら、カクテルを作ってあげたらどうだろう」
話を聞いていたリック料理長が、声を掛けた。
まだまだ、カクテルは一般市民には浸透していない。なら、新鮮で喜ぶだろうと提案してきたのだ。
「だね。なら、後はツマミかな。アーシェスさんはお酒は?」
リック料理長に頷きつつ、莉奈は小窓から覗いて訊いてみた。
「それなりに」
と手を振るアーシェス。
あの笑顔からして、絶対にそれなりにではない。
ーーガチャガチャガチャ。
安定の料理人達だよね。
莉奈がカクテルを作ると想定した料理人達が、嬉しそうにあるだけの種類のお酒を作業台に載せた。
準備してくれるのはありがたいけど、あなた達のために作る訳ではないのだよ。
しかし、ワインから始まり、ブランデー、ウィスキー、ジン等実に豊富だ。
と言うか、種類が断然に増えた。初めて酒倉を見た時からしたら、何倍にも増えた気がする。テキーラなんかあったっけ?
「そう言えば、隣の部屋。なんか工事してるけど何してるの?」
今朝方くらいから、食堂の隣の部屋が工事作業中になっていた。気にならない訳がない。
食堂でも増築するのだろうか?
「パンを中心に作る厨房設備を、拡張してくれてるんだよ。リナのおかげでパンの需要も増えたからね」
リック料理長が質問に答えてくれた。
パンが柔らかくなったおかげで、食べる人が増えた。
だから、作る量も増えてコチラだけでは手狭になったそうだ。それを相談したら、フェリクス王が拡張・増築してくれるとの事だった。
「ふぅん。なら、ピザ窯……っ」
莉奈は口を慌てて噤んだ。
ついでにピザ窯も造ればなんて余計な事を、ついついポロッと漏らすところだった。
なんでこの口は、余計な言葉が出るのだろう。
「 "ピザ" ってなんだ?」
皆に聞こえてなかったと安心したのも束の間、傍からひょっこりとエギエディルス皇子が現れた。
「ピザなんて言ってないよ。膝って言っ……」
ビックリした。エドくん、いつ現れたんだよ。
笑って誤魔化そうとしたら、エギエディルス皇子の後ろにいたシュゼル皇子と目が合った。
ゲッ、何故そこにいるのかな?
うっわぁ、もうダメだ。誤魔化せる自信がない。
「あちらでお待ちしておりますね?」
と作る前提でほのほのと言うものだから、莉奈は食堂に向かうシュゼル皇子の袖を慌てて掴んだ。
「イヤいやイヤ。お待ちしないで下さい。ピザは今からは無理ですってば!!」
ピザ窯はなくてもオーブンがあるから、焼くには問題はない。
だが、生地がない。今から作るとなれば、発酵させたりと時間が掛かる。大体トマトソースすらないのだ。
その作業を全て1から準備しなければならないなんて、時間が全く足りなさ過ぎる。
「お前、やっぱりピザって言ったんじゃねぇかよ」
エギエディルス皇子が笑っていた。
聞き間違いではなかったと。
「エド、サボり?」
バレてしまったものは仕方がない。
が、何故この兄弟は厨房に現れたのだろうか?
「サボりじゃねぇよ。バーツが来てるって聞いたから、来たんだよ」
兄王の所に行ったら、食堂にいると言われたそうだ。
「知り合いなの?」
「あのジイさん、アレで腕がイイんだよ。だから、俺も造って貰いたくてな」
だから、交渉しに来たそうだ。
「ふぅん」
「で、ピザってなんだ?」
「……」
話を逸らしてはみたものの、失敗に終わった。
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__ _:(´ཀ`」 ∠): 穴、穴…




