311 大事な事は大抵 後で思い出す
「フライパンに油をひいて、ハンバーグに両面焼き色を付けたら、フライパンごとオーブンに入れて火を通す」
「フライパンでは火を通さないのか?」
「フライパンでも大丈夫だよ? その時はお湯か水を入れて蒸し焼きにすればふっくら火が通る」
「なるほど」
リック料理長の疑問に答えた莉奈。
家庭ではもちろんフライパンで蒸し焼きだ。
だけど、ココではたくさん作るからオーブンの方が楽だと思う。
「さてと、そろそろスポンジ生地が焼けたかな?」
と莉奈がオーブンを覗こうとした時、ちょうどチンと心地良い音がした。
なんか笑っちゃうよね。異世界なのに同じ音がするなんて。
「スポンジが焼けたので」
「「「焼けたので?」」」
「冷やすんだけど、型から外す前に少し高い所から鍋を落とす」
串で火の通りを確認した後、莉奈は焼けたばかりのスポンジ生地を、鍋ごと15cmくらいの高さから台の上にドスンと落とした。
アレ? 少し力強かったかな?
「え? なんで!?」
料理人が眉を寄せていた。
見た事のない作業に、それは本当に必要なのか疑問が湧く。
「なんでって……えっと、スポンジの水蒸気を一気に逃すためだっけ? 縮ませないため? リックさんなんで?」
「えぇっ? 知らないよ!?」
莉奈は何故この作業をしなきゃいけないのか、理由など全く忘れていた。
だから、近くにいたリック料理長に訊いてみたのだが、リック料理長が知るハズなどない。
急に話を振られて、逆に驚いていた。
「そうだ。やらないとどうなるか、自分達の分で試せばイイ」
もれなく失敗作が出来上がるけど、面白……じゃない知っておく事も必要なのかも?
「え? ヤダよ。失敗するのが分かってるのに!!」
なんでわざわざやるの!? と料理人が盛大に拒否した。
「型から外……れなかったらナイフで、よいしょっ剥がれた」
クッキングペーパーを敷いた訳ではないから、少し……イヤ大分くっついてたけど、仕方がない。
クリーム塗ったら隠せる範囲だ。
「半日くらい冷やしたいところだけど、夕食には出したいので、揚げ物用の網に逆さまに乗せて冷凍庫に入れておく」
莉奈はそう説明して、シュゼル皇子のアイスクリーム専用になっている冷凍庫に、スポンジケーキを入れた。
エギエディルス皇子に食べて貰うのに、ゆっくりやっていたら夕食に間に合わないから、冷凍庫に入れて急速に冷やす事にしたのだ。
「逆さま?」
「理由が知りたければ……」
「試さないよ!?」
説明が面倒な莉奈は、試せばイイと料理人達に丸投げしたのだが、試す気はないらしい。
まっ、逆さまにする理由は、記憶が確かなら逆さまにして冷やさないと、真ん中が凹むからなんだよね。
ちなみに、シフォンケーキは型から外さずに、そのまま逆さまにして冷す。じゃないと、あのふわっふわっがなくなる。
説明をしながら作業をしていると、ハンバーグがそろそろ焼ける頃になった。
その瞬間急に莉奈はハッと、大事な事に気付いた。
「だ〜っ! チーズのせるの忘れてた〜っ!!」
ハンバーグの上にチーズをのせれば良かったと、莉奈はショックを受けていた。
もうすぐ焼けるのに今更のせられない。後からのせてバーナーで炙るのもありだけど、バーナーがない。
魔法でやるにしても、莉奈はまだそこまでの技量がない。火の魔法が使える料理人に頼もうかと思っていたら、今度は違う事に気付いた。
「あぁァァッ!! そうだ、ハンバーグのソース!! 醤油はないし、ケチャップないし、ウスターソースもない。ソース、ソースどうしよう!?」
エド〜! 今度は人間じゃなくて、醤油とか調味料召喚させてよ!!
莉奈はアレもコレもないと、軽くパニックになっていた。
ハンバーグを焼いているオーブンの前で、莉奈はウロウロとしている。
「リナ? 落ち着け?」
マテウス副料理長が、スポンジケーキを鍋から外しながら声を掛けた。
ハンバーグが何かが分からないので、何が足りないか忘れたかも分からない。だが、落ち着けば莉奈の事だから、何か思い付くと思ったのだ。
「あっ! トマトがあるじゃん。トマトのソースにしよう」
莉奈はウロウロした後、ハッと思い出した。あの、1日400キロ食べると毒で死んじゃう、トマヒトマトが大量にあるのを。
「トマトをどうすればイイ?」
慌てたと思えば、急に落ち着いた莉奈に苦笑いしつつ、リック料理長がトマトを用意してくれた。
「ヘタを取って皮を湯むきして」
「湯むき?」
「ヘタを取ったトマトに十字に切れ目を入れて、ヘタの部分をフォークで刺して、熱湯に数秒くぐらせる。で、冷水に浸せば皮がキレイに剥けるよ」
「なるほど、それが湯むきか」
莉奈の説明を聞きながら、リック料理長がトマトの湯むきをしてくれた。
「後は玉ネギをみじん切りにして、水にさらして絞る」
ハンバーグに入れたより、少し細かく切る。
新玉ネギだったら水にさらさなくても辛くないけど、コレは普通の玉ネギだから、水にさらして辛みをとった方がイイと思う。
「トマトの皮を剥いたら、何等分かに切って種を取る。種を取ったら賽の目に切り塩胡椒、オリーブオイルと刻んだバジル、絞った玉ネギを入れて混ぜたらトマトのソースが出来上がり」
さっぱりトマトソースだが、ステーキでこってりソースを食べたから良いかもしれない。
莉奈は出来上がったトマトソースを、円柱の小さい器、ココットがあったのでそれに入れた。
冷たいソースだから、別添えにして各々でかけてもらおうと考えたのだ。
「コレ、野菜サラダのソースにしても美味しいよ?」
そう言って莉奈は、余ったトマトソースをリック料理長達に手渡した。
「ん、皮と種を取ったから食感がイイな」
「コレ、パンに乗せても美味しいんじゃない?」
「あっ! それ名案」
味見をしながら、他にどう使えるか皆は想像して、楽しそうに話をしていたのだった。




