302 諦めた
「「「…………」」」
莉奈の一言で、厨房の和やかな空気が一瞬にして凍りついた。
莉奈と違い、毎朝ジョギングなどしていない彼等のお腹は、明らかにポッコリとしてきていた。
一様に自分のお腹を触りながら、相手のお腹周りをチラチラと見ている。何か思うところがあるらしい。
曇天の様にどんよりとしてしまった。
「さっ、味見味見」
そんな空気もナンのその。莉奈はにこやかに、味見用の小皿を手に持った。
エギエディルス皇子の分は、可愛いガラスの器にトマトとかで華やかにキレイに盛り直し、魔法鞄に入れておく。
「美味しい〜!! リナ、海老とアボカドが口の中で踊ってるよ?」
そんな空気の中、体型をまったく気にしない料理人リリアンは、海老アボカドを頬張り嬉しそうな声を上げていた。
1番の食いしん坊のリリアンが、1番痩せているのが納得いかないけど……。体質もあるんだろうね。羨ましい。
「これパンにも合うよ?」
「本当!? 後でやろう!!」
莉奈とリリアンは仲良く海老アボカドサラダを頬張っていた。
「ん〜っ。海老プリップリ!」
「俺あんまりマヨネーズ好きじゃないけど、ポテトサラダとコレは別だな」
「アボカド美味しいな。コレ潰してパンに塗っても旨そうじゃね?」
「「「マヨネーズ最強ーーっ!!」」」
味見の小皿を手渡されれば、我慢なんか出来る訳もなく次々と口にしていた。
「リナ」
皆が現実逃避を決めて楽しそうに食べている横で、リック料理長がションボリしている。
「何?」
「リナはどうやって痩せたのかな?」
「…………」
莉奈は途端に半目になった。
だって、改めてそう訊くって事は、今まで私が太っていたと言っている様なモノですけど?
「リナ」
なんか切実な表情で見てきたので、前言は聞かなかった事にしてあげよう。
料理長ともなれば、味見の量は圧倒的に多いからね。
「朝、ジョギングしているよ」
「そうか、だけど朝は……早くて私にはムリだ」
「夜やれば?」
「疲れているのにムズカシイ」
「晩酌のツマミに、からあげとか脂っこい物を食べなきゃイイ」
「エールにからあげは最高なんだけど」
「太るのは一瞬だけど、痩せるのは大変だよ」
「…………はぁァァ」
リック料理長は莉奈の話を聞いて、深い深いため息を一つ吐き、海老アボカドをチマチマ食べ始めていた。
こりゃあ、諦めましたなリックさん。




