290 思わぬ収穫
「あ〜疲れた」
まるで大仕事でもやり遂げた感じで、莉奈はホッと一息。
だって気に入らなければ暴れるんだもん。ヒドイわがままな竜達だよ。
「リナ、俺達はガッツリした物が食いたい」
さて、帰ろうとした莉奈の背に近衛師団兵の嬉々とした声が聞こえた。
「は?」
「手伝うと何か作って貰えるんだろ?」
「からあげでもイイ」
「新作なら尚イイ」
さも当然の様に言ってきた。
手伝うと何か作って貰える? なんでそんな話になっているのかな?
そう訊いてみれば「お前の番の部屋を改装したヤツらは作って貰った」と返された。
事前の交渉があってこそじゃないかな?
そして、この改装のリーダーはゲオルグ師団長であって私ではないのだけど……。
そんな事を言ってもムダな様な気がした莉奈は、次回からは事前の交渉を、と断りを入れといた。
毎回、手伝う=飯では割に合わない気がしたからである。
◇◇◇
近衛師団兵達は、ゲオルグ師団長に終えた事を伝えに行って来るから、莉奈はご褒美よろしくと足早に去って行った。
ゲンキンな人達である。
さて、作る約束はしたもののどうしようか悩む。
ガッツリした物と言うのだから、肉がイイだろう。しかし今の所、鶏肉しかない。
醤油はないけど油淋鶏は? とも思ったけど、からあげの親戚なようで新しくない。
何かこう見た目からして、ガツンとくる料理はないかな?
莉奈が悩みに悩んでウロウロしていると、廊下で面倒くさい人に会った。
「あ〜リナ発見!! 何を作りに来たの!?」
莉奈のいる碧月宮の警備にあたっているアンナだ。
警備兵は基本的に、軍部に所属しているからね。白竜宮にいても不思議ではないのだけど。
「……」
話を聞いたらクレクレと言われそうなので無視してみた。
「えー!? 無視はヤメてよー私とリナの仲じゃない」
「どんな仲なのかな?」
「しんゆうー」
アンナがそう言った途端に、莉奈の目が半目になった。
口調が胡散臭いし、親友になった覚えはない。
「今日はリナにね〜イイ物とって来たんだよ?」
アンナは満面の笑みを莉奈に向けた。
「……」
"とって" 来た。そのとって来たって言葉、異様に怖いんだけど?
だって、獲ってなのか採ってなのか、言ってる言葉は同じでも意味合いが全然違う。
胡散臭い目を向けていたのだが、アンナはお構いなしに話を続ける。
「そのままだと食べづらいと思って、解体しておいた」
「……」
え? 何、解体しておいたって。
莉奈はますます胡散臭い目を向けた。
だって、解体とか言うって事は木の実とか野菜とか、可愛い物じゃないよね?
碌な目に遭わないと察した莉奈は、逃げる事にした。
「何か、急用を思い出したかも」
「アハハ!! レッツゴー厨房!!」
「イヤだ〜!!」
アンナが人の話や意見など聞く訳もなく、莉奈の手首をしっかりと掴み、半ば強制的に引きずり連れ去るのであった。
◇◇◇
「よう、リナ」
と声を掛けようとしていた白竜宮の厨房の皆は、引きずられて来た莉奈を見て口を噤んだ。
アンナに捕まったのかと察し、憐んでいた。
「じゃあ、すぐ用意するね?」
アンナはそんな皆の視線など、お構いなしに厨房の一角で莉奈を解放した。
空いている作業台を見つけ、そこに何かを出すみたいだ。
皆の注目を浴びながら、アンナは冷蔵庫から綿の布地に包まれた物を取り出した。
どうやら、厨房の冷蔵庫を借りていたらしい。
料理人の皆も固唾を飲みつつ、アンナのやる事を見ている。置いといてと言われたものの、何かは聞いていなかったのだ。怖いモノ見たさも混じって、気になっていたのである。
「リナ、どうぞ?」
「いやいやいや、どうぞってコレ何かな?」
莉奈の頬は引きつりまくっていた。
包まれた布地は、微かにだが赤いモノが滲み出ている。何かなんて訊かなくても分かる。コレ、血でしょ? じゃなきゃ体液だよね。
皆が頬を引きつりまくっているのに、アンナは次々と布に包まれたモノを出して作業台にドカドカと載せている。
「コレね。黒牛さんの肉なんだよ?」
アンナは満面の笑みを浮かべ、ユラユラと身体を左右に動かしている。
「黒牛さんの……肉」
莉奈は眉を顰めた。
以前、エギエディルス皇子に聞いた事があるけど、牛や豚は魔物に喰われてほとんどいないって言ってたぞ?
なのに、黒牛の肉? 希少な牛の肉をアンナが入手出来るとは思えない。
いや、さっき獲って来たって言ってたよね?
え? 魔物って事?
ロックバードみたいに食べられる事もあるし、得体がしれなくて怖いけど、アンナに包みの1つを開けて貰う事にした。
赤くて肉ニクしい肉の塊りがドンと、そこにはあった。バスケットボールより一回りは大きい肉の塊りだ。
だが、見た目は普通の牛肉に見える。
【ブラッドバッファローのサーロイン】
リブロースからモモに続く部位。
食用。大変柔らかく甘みがあり、ジューシーで霜降りが多いのが特徴。
あまりの美味しさに "サー" 〈准男爵〉〈勲爵士〉の称号を与えられている。
ムフッ。
莉奈は口端が綻ぶのを押さえながら今度は【ブラッドバッファロー】の部分を検索して視た。
【ブラッドバッファロー】
主に民家の近くに生息する。
大きなツノを頭部に2本持つ、褐色毛の体長3m程の牛の魔物。
〈用途〉
ツノや皮は武器や防具等の装備品。または装飾品等に使用。
〈その他〉
食用である。
内臓は臭みがあり一部を除き、食用には不向き。
肉質は部位によって様々だが、非常に美味しい。
「ムフッ」
莉奈は思わず歓喜の声が漏れた。
だって "美味しい" って表記も嬉しいけれど、念願の牛肉だ。しかもサーロイン。
莉奈は他の布も、奪う様に剥ぎ取った。
【ブラッドバッファローの内モモ肉】
後ろ脚付け根の内側の部位。
食用。脂肪が少なく赤身の肉。柔らかくて美味しい。
【ブラッドバッファローのカルビ】
アバラ骨の周りの部位。
食用。脂の旨味を楽しめる。
【ブラッドバッファローのハラミ】
横隔膜の筋肉。部類は内臓だが、赤身に近い。
食用。柔らかく適度に脂がのっている。
「ムホッ〜ッ」
次々と【鑑定】していき、すべてが食べられる【ブラッドバッファロー】の牛の魔物だと知ると、莉奈は興奮を隠しきれなかった。
この世界に来て肉といったらずっと鶏肉ばかりだったし、たまに豚肉があっても量は少なかった。なのに今、目の前にはたくさんの牛肉がある。しかも、アンナに交渉すればすべては私のモノ。
「フッフフッ」
笑いが止まらないとはこの事だ。皆がどんなにドン引きしようと、高笑いしたくなる莉奈だった。




