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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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278 おかえりなさい



「あら、おかえりなさい」

 アーシェスはニッコリと出迎えた。

 そう、フェリクス王のお帰りである。




 ―――時を戻す事、約20分。




 店内で真剣に、武器を物色している莉奈を見ていた2人。その2人の間では、この様な会話が繰り広げられていた。




「剣士でも何でもないのに、武器に夢中なんて可愛いわね?」

 アーシェスは隣に立つフェリクス王に言った。

 まるでアクセサリーでも選ぶ様に、瞳をキラキラしている。あんな女は見たことがない。

「女としてはどうかしているんじゃねぇの?」

「でも、相当気に入っているでしょ?」

 アーシェスはフフと小さく笑った。

 そうでなければ、彼が女性を連れて歩かないと知っている。だからこそ、王のお気に入りなのだとアーシェスは悟った。

「さてな」

 フェリクス王はそう言って、扉に向かって歩き出していた。

 だから、彼がどんな表情でそう言ったのかは分からない。


「どうせ、まだ掛かるんだろ? コイツの面倒見といてくれ」

 自分の剣のメンテナンスには時間が掛かりそうだと、フェリクス王は別件を済ませる事にした。

 じっくり見ている莉奈をチラリと見つつ、フェリクス王はアーシェスに手をヒラヒラとさせ、店から出て行ったのである。




 ―――そう。アーシェスはフェリクス王が出掛けた理由を莉奈に伝えず、楽しんでいたのだった。



「……」

 何も知らない莉奈、唖然である。

 置いていかれたと思って慌てていたのに、フェリクス王が戻って来た。まったく思考が追い付かなかったのだ。

「冒険者がどうとか……何の話だ?」

「この子、あなたが黙っていなくなったから、捨てられたと思ったみたいよ?」

 莉奈が唖然としていたので、アーシェスが代わりに答えた。

「あ゛?」

 フェリクス王は目を眇めた。

 十数分いない間に、何故そんな話になったのか莉奈を見た。莉奈はビクリと肩を震わせた。そうなのだ。勝手に勘違いし、勝手にオロオロしただけ。

 フェリクス王の纏う空気が、なんだかヤバそうだと感知した莉奈は誤魔化す事にした。

「お、お元気そうでなによりです」




 ―――バシン。




「説明」

 雑な誤魔化し方に笑いつつ、フェリクス王は莉奈の頭を叩いた。




 ◇◇◇




「そんな薄情なヤツだと?」

 事情を聞いたフェリクス王は、少しだけ怒っている様に見えた。

 アーシェスが何を言ったかは知らないが、突然街に捨てる様な無責任な男に自分が見えたのかと。

「い、いえ。私の目に余る所業が、とうとう逆鱗に触れたのかと……」

 莉奈は目を逸らしてモジモジしていた。

 国王様にしてはいけない事をしている自覚はタップリある。だから、さすがの王も我慢出来ず……と思ったのだ。

「触れたのなら、とっくにバッサリやってるだろうが」

 散々な事をやらかしておいて、今さらそんな事を言う莉奈に、王は笑いながらも呆れていた。一応気にしてはいるのかと。


「ヤル時は、是非一撃で!!」

 莉奈はどこかホッとしながら、頭を勢いよく下げた。

「アホ」

 莉奈の頭には平手の代わりに、大きくて優しい手のひらがポンと乗っていた。

 謝罪をするのかと思いきや、まさかの "一撃" の願い。想像もつかない返答には思わず笑っていた。




 ◇◇◇




 フェリクス王の剣がメンテナンスを終え戻ってきた。

 剣のメンテナンスが終了したと、奥の作業場にいた従業員から報告があったのだ。言われて行けば大きな作業台の上に、終わったフェリクス王の大きな剣が布の上に無造作に置いてあった。


 長さは王の身長よりも数十㎝は長い。対魔物用なので、いつもは魔法鞄(マジックバッグ)に入れてある長剣。

 刃が少しカーブしてあるので、剣というより三日月刀に近い。王の武器は刃の幅がある大剣派かと、勝手に想像していただけに驚いた。  

 日本刀にも使用されている様な鋼も、刃先に使われている様で "綺麗" だった。

 ちなみに、これとは違う大剣が魔法鞄マジックバッグに入っているらしい。



「はぁぁぁァっ」

 莉奈はその剣、いや刀に見惚れていた。

 作業場の天窓から射し込む光が、刃先に当たりキラキラとしている。宝石よりコッチの方がキレイだと莉奈は思ったのだ。

「あなた、本当に変わってるわね?」

 確かに武器にこだわる冒険者も多いが、見惚れる者はいない。ましてや女性だ。剣より宝石だろう。

「カッコいいし、綺麗……これ、アーシェスさんが造ったんですか?」

「残念だけど、私じゃないわよ。師匠」

「はぁぁァ」

 刀に見惚れ、莉奈の心はここに在らずだった。



「あ~」

 フェリクス王が刀を魔法鞄(マジックバッグ)にしまえば、莉奈は残念そうなため息が漏れた。まだまだ眺めていたかったのに。

「刀が欲しいのかよ」

 落胆さえして見せる莉奈に、フェリクス王は苦笑が漏れる。

「くれ!!」

「やるかよ」

 手を差し出す莉奈には笑うしかない。

 先程見せた弱々しさはどこへやら。やっぱり莉奈は莉奈だった。



「そういえば、店一番の高価な武器は分かったのかしら?」

 そんな仲の良いやり取りを羨ましそうに見ながら、アーシェスが訊いた。

 中途半端に話が終わったからだ。

「コレ!!」

 キラキラとした瞳で莉奈は、真っ直ぐに指を差した。



「……ぷっ」

 少しだけ間が開いた後、アーシェスはお腹を抱えて笑っていた。

 確かに "ソレ" は一番高価な武器だろう。しかし、そんな意地悪な問題を出した覚えはない。ある意味正解。

 だが、ズルい正解でもある。斜め上の正解に辿り着いた莉奈に、アーシェスは笑ったのだ。

  

 そう、莉奈が指を差したのはフェリクス王の魔法鞄(マジックバッグ)だった。

 今、しまったばかりの刀が "店の中" で一番高価だと示したのだ。


「コレ以外で当ててみろよ」

 フェリクス王は半ば呆れつつ、本気で当ててみろと言ってきた。

 莉奈の見る目はどうか、試したくなったのかもしれない。

「……」

 莉奈はチラリと王の腰を見た。

 魔法鞄(マジックバッグ)に入れたのとは別に、剣を下げているからだ。それは、対人間用だと聞いた事がある。牽制するために、わざと下げているらしい。

 それも、高そうだと思ったのだ。

「参考までに、その価値は?」

 これも対象外だぞ? という視線を浴びつつ訊いてみた。

 どれもこれも値札が付いてないので、基準が分からないからだ。

「高い」

「うっわ、雑」

 フェリクス王がニヤリと笑えば、莉奈は呆れていた。

 そんなヒントがありますかね?

 高いの基準だって人各々だろう。王族のいう高いとはどの程度かさっぱりだ。訊く相手を間違えた。



 莉奈は仕方がないとばかりに、また店内に戻りぐるりと回った。

 どうでもイイけど、当たる訳がない。だって、100種類以上はある。何の知識もないのに、その中から1つを選ぶなんて無理。

 からかわれた……と思った瞬間、ある一点に釘付けになった。

 カウンターの後ろ、先程行った作業場への入り口の上。

 そこに、40㎝くらいの短剣が横向きに飾ってあったのだ。



「あれ!!」

 莉奈は指を差した。

 店内にある数多くの武器に目を奪われていたけど、カウンターの上まで見なかった。そこは、売る棚ではない。勝手に売り物ではないだろうと目がスルーしていた。だが、実用品しかなさそうなこの店には珍しく、細工が施されている剣だった。

 "非売品" と表示されてもないのだから、答えとしては "あり" なのかもしれない。どうせ当たらなくても殺される訳でもないし、一か八かで言ってみようと思ったのだ。



「意外と目敏いわね?」

 さっきから売り場しか見ていないから、気付かないと思っていたのだ。

 だが、少し時間は掛かったものの正解を導き出した事に、アーシェスはものスゴく満足だった。

「正解ですか!?」

「正解よ」

「やった~っ!!」

 その答えを聞くと莉奈は、飛び跳ねて喜ぶのだった。

 





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