277 陛下~っ!!
「ねぇ。リナとか言ったわよね?」
「ん?」
まだまだ楽しそうに武器を見ている莉奈に、アーシェスが訊いてくる。
「この店にある武器の中で一番高い物はなんだと思う?」
「え? 高い物ですか?」
何だろうと、改めて見渡す。
美術品としての武器ではなく、ちゃんとした実用の武器だから宝飾品はほとんど付いていない。訊いてくるくらいだから【大きい=高い】ではないのだろう。
「う~ん」
日本でレプリカを売っていた武器屋は、大きくて珍しい物が高かった気がする。弟の買った偽物のロングソードは、確か6、7000円だったと思う。
馬車の賃金から予測するに、物価は似ているのだろう。しかし、武器に関してはどうだ? レプリカと本物では値段が違うハズ。
日本刀は……量産品ではないからあてにはならない。
莉奈は真剣に悩んでいた。
「当たったら、欲しい武器を1つプレゼントしてあ・げ・る」
真剣に悩む莉奈にアーシェスは、パチンとウインクした。
だけど【鑑定】魔法はダメよ? と念は押された。
「マジか!!」
途端に莉奈の瞳が輝いた。
武器がタダで貰えるなんて、ものスゴく嬉しい。
どうしたらイイ? 何を選んだらイイ? 莉奈はあまりの嬉しさにプチパニック状態であった。
◇◇◇
――――それから、十数分。
「あれ? 陛下は?」
30畳程の店内をグルグル見ていた莉奈は、いつの間にかフェリクス王がいない事に気付いた。慌てて捜してみたものの、何処を見ても姿が見えない。
「あら? いないわね?」
アーシェスは莉奈と同様に、辺りをキョロキョロと見て驚いていた。
「えぇ!?」
アーシェスの言葉に莉奈は、ますます驚いて固まった。
えぇっ!? 置いていかれた?
え? まさかのポイ捨て!?
一気に不安になってきた莉奈は、店内をウロウロ。
不敬な事をし続けていたから、とうとう捨てられた!?
「オカシイわねぇ? あなたの事、忘れたのかしら?」
不安そうにしている莉奈に、アーシェスが追い撃ちをかける。
「えぇェっ!?」
そんなまさかとは思いつつ、実際いないのでますます不安になる莉奈。外に出て捜した方がイイのか、内心はオロオロしていた。
「そんな不安そうな表情しちゃって、アイツがいないだけでそんなに不安?」
国王相手にあんな憎まれ口を叩いていた莉奈が、彼がいなくなったと気付いた途端に不安な表情を見せたからだ。
アーシェスの瞳には莉奈のそのギャップが、なんだか妙に可愛く見えていた。親猫を探す仔猫のようで。
「だって……どうしてイイのか、分からない!!」
ココで捨てられたとしたら、王城に帰って来るなって事でしょ? どうしてイイか分からない。
「分からないって、あなた子供じゃないんだから、好きにすればイイじゃない」
慌てる莉奈がなんだか可愛くて、アーシェスは面白そうにしていた。
「好きにすればって……限度があるし」
「限度って、一体何をするつもりなのよ?」
「先立つモノも……っ!!」
手持ちも何もない……とその時、莉奈はハッとした。
そして、慌てる様にガサゴソと魔法鞄を漁った。そうだ。コレがあれば、とりあえずはどうにかなるかもと。
「これで、何日暮らせますか!?」
「え!?」
捨てられた仔猫みたいで可愛いなと思っていたアーシェスは、目を見張った。
莉奈は魔法鞄から、ゲオルグ師団長から貰った竜の鱗を取り出したからだ。
王城には戻れないとしたら、暮らす資金が必要だ。そして、運が良いか悪いかここは武器屋だ。もしかしたら、コレを買い取ってくれるかもしれない。
「あなた……コレどうしたのよ?」
その小さな鞄は魔法鞄だったのか……とか、竜の鱗なんて持っているのかとか、色々と驚きである。
そして、何でもない少女が持っていて良い代物ではない。冒険者だとしても、竜の鱗を持っているのは稀である。
「とある人から頂きました」
莉奈は素直に答えながら、ふと思い出した。
タダ同然で……っていうかこんな一大事に、ゲオルグ師団長の竜の宿舎の改装をしなきゃいけない事が頭によぎった。
「……それってアイツ?」
竜の鱗をあげられる人間なんて、限られている。
盗むという事もありえるが、この子がやるとは思えない。黒くないから王竜の鱗ではないが、この鱗をあげたのはフェリクス王ではと思ったのだ。
「え? あぁ、陛下ではないですよ?」
「……」
アーシェスは顎に手をあて、小さく眉を寄せた。
王からではないとしたら、誰なのか? そして、チラリと莉奈の後ろに目をやった。
「あっ! そうだ! 冒険者になれば……イヤイヤ、化け物〈魔物〉と戦うすべがない……なら、店? そこまでの資金――――」
ブツブツと一人言を言っていると
「何の話をしてやがるんだ?」
莉奈の背後から呆れた様な声が聞こえた。




