27 鶏の骨とラナ
「……で? なに作るんだよ」
散々な事を言ってた割には、興味津々だ。
エギエディルス皇子も"異世界"のご飯とやらに興味があるとみえる。
「何にしようかね~?」
いざ、作るぞ! となっても、材料がありすぎるのも意外と困る。
あれもこれも作りたくなるからだ。
「……ん?……あの鶏ガラ……何かに使います?」
何を作ろうか悩んでいた莉奈の目の端に、肉をそぎおとしたばかりの鶏の骨がボールにたくさん入っていた。
たまに、出てくる鶏肉のソテーの残り物だろう。
「……えっ?……アレ、骨ですよ?」
莉奈が、何を言ってるのか分かっていないのか、料理人はキョトンとしている。
「うん、骨。何かに使います?」
「……いえ……? 捨てるだけですけど……?」
何を言ってるんだ? と、ますます怪訝そうな料理人達。
自分達が廃棄しようと置いといた物に、興味を持たれるとは思わなかったのだ。
「えっ? 捨てちゃうの……!? もったいない」
「はい? ゴミよアレ?」
驚いたラナ女官長が、皆の言葉を代弁する様に言った。
何にも使えない鶏の骨を、もったいないと言う莉奈が理解できないらしい。
まぁ、ゴミっていえばゴミだけど。
顆粒だしがない世界に、骨は大事な出汁の素だ。
捨てるなんてもったいない。
「……でも、美味しい出汁でるよ?」
「……なに "だし" って?」
「…………」
あー……なるほど、そこからな感じですか。
もう、それこそ魔法でなんとか出来ないのかよ~!
利便性と不便性がまぜこぜだよこの世界……。
「まぁ、とにかく作ってみるから……」
と莉奈は動き出した。
出汁文化のない国に、出汁のなんたるかなんて説明できない。
作って食わせる……これが近道だろう。
しかし、本当になんでもあるな、この世界。
コンロはガスじゃなく "火の魔法石" を搭載した、もはやIHコンロだし。
オーブンもどこぞのレストランにある業務用のそれにしか見えない。
調理器具も普通に、プロが使う様な物がズラリと揃ってる。
……もう、異世界に突っ込みいれるのはやめよう……うん。
便利でイイ! でいいや。
莉奈は、まず、寸胴鍋にお湯をはり沸かす作業からやり始めた。
そして、鶏の骨をシンクに持っていき、面倒くさいと思いつつ血合いなどの汚れを落とす。
「手伝いましょう」
料理長は、莉奈が何をしようとしているのかは分からないが、今している作業はなんとなく分かったのか手伝いを申し出た。
「ありがとうございます」
皆の視線を独り占めしながら、莉奈は黙々と作業する。
あらかた取れた処で、沸騰したお湯にその鶏の骨を入れた。
「……茹でるのですか?」
不思議なのか料理長が訊いてきた。
「下茹で、という処理です」
そう言って、数分間周りに火を通すと、骨だけをザルにあげ、アクの出たお湯は捨てる。この作業、別にやらなくてもイイのだが、やるとやらないでは最終的に味に差が出る。
「……えっ? 捨てちゃうの?」
横で見ていたラナ女官長が、ビックリした様に言った。
知らなければ、せっかく茹でたお湯を廃棄した様に見えなくもない。
「捨てるよ?」
「せっかく茹でたのに?」
「だって、アク取りだもん」
「アクって?」
「…………」
莉奈は、黙った。
アレ? ひょっとして、このやり取り続く感じ?
子供が、アレなに? コレなに? って、訊いてくるあれと似ている。
要は、きりがない……。
「料理長さんは、名前なんて言うんですか?」
面倒くさい、と判断した莉奈はラナ女官長を無視する事にした。
「……えぇ~?」
微かに衝撃を受ける声がしたが、無視。
「あ、自己紹介がまだでしたね。リック=ハーネット、そこにいるラナの夫です」
うわっ、マジか! 旦那さんでしたか。
「……ラナ、結婚してたの?」
ゴメン、勝手に独身だと思っていた。
「してたわよ……どういう意味で、言ってるの?」
「…………」
どういう意味も、こういう意味もないが勝手にそうだと思っていた。ラナ女官長の視線が突き刺さる。
「……リックさん、がんばりましたね?」
なんだかしらないけど、莉奈は料理長にそう言って微笑んだ。
だって、なんか色々大変だったんじゃ……と思ってしまった。
「え……はい? そうですね?」
たぶん、急な事で料理長もよくわからず、返事をしていた。
そして、その返答は不正解だった……と、後に彼は語る。
だから、その背後でもの凄い形相をしていた奥さんに気づくのが遅かったのだ。
「……リック?……リナ?」
「「……は……はい!?」」
アレ? 鬼はどの世界にもいるのかな……?
莉奈、料理長は固まった。
「……後で、話があるから……」
「「…………はい……。」」
否と言えない自分を呪いたい。
"後で" が、こなければイイのに……と、思う二人であった。
あれ?鶏のスープ……できる予定だったのに……。
あれ?アレ?
次回……は、たぶんできてるハズ。




