258 圧力とヤゲン軟骨
「新しいカクテルをどうぞ」
カクテルの入っていたグラスが空になったので、新しいカクテルを王と執事長のイベールに出した。
厳密にいうと、これも本来は食前酒になる訳だけど、途中で出してはいけない作法でもないしイイかなと。
「まだあるのか」
フェリクス王の瞳が、再びキラリと光った。
お酒、本当に好きですね?
「先程は "ブラックデビル" という名のカクテルでしたが、これは "リトルデビル" というカクテルです」
キンキンに冷えているからグラスが曇って見える。オリーブも何も入ってないし、普通のグラスに入っていたら、レモン水と間違えそうだ。
「今度は……小さい悪魔か」
面白いな……とフェリクス王は、実に満足気に口を綻ばせた。
対して弟皇子は、俺のは? って表情をしている。その表情は仔犬みたいで可愛い。
「エドスペシャル "ベリー2" を御堪能下さい」
可愛いエギエディルス皇子には、"ベリー2" というカクテルを出した。
普通の縦長のタンブラーに、細かく砕いた氷を多めに入れて注いである。
もちろん、ノンアルコールのカクテルだ。実際にあるカクテルを大分アレンジしたから、本来の "ベリー2" とは違うけど。エドスペシャルって事で。
「……スペシャル」
自分の名前が付いていて、感動したのかなんだか嬉しそうにしていた。
多めの氷の入ったグラスに、タップリと赤いジュースが入っていて、そのグラスの底には、薄切りのライムが沈んでいた。
「底のライムは、その細いスプーンで好みで潰したりして飲んでね?」
細長いスプーンで底を突く様にすれば、薄切りのライムが潰れ果汁が出る。味の変化を楽しんで貰いたい。
「リナ、超最高」
エギエディルス皇子が、感激して惚けていた。
差別せず大人気分にさせてくれる莉奈に、このカクテルに感動していたのだ。
「さて、何が混ざっているでしょうか?」
頭を撫でたい衝動を抑え、莉奈は思わせ振りに笑った。
ベリー2には何が混ざっているのでしょう?
「その挑戦、受けて立つ」
エギエディルス皇子は嬉しそうに、莉奈に向かって人指し指を差し闘志を向けた。
その横で、兄のフェリクス王が優しく微笑んでいた。可愛くて仕方がないのは、兄も一緒の様だった。
―――――むっほ~っ!!
ヤバイ。だれか、写真!! 写真を撮ってくれーっ!!
莉奈はそのフェリクス王の表情に、ドキドキしていた。
◇◇◇
「んんん? 苺か? 苺と何だ?」
口に含んで、真っ先に分かったのは苺の風味。
だけど、氷で冷やすと香りが弱まるから、匂いだけではまず分からない。苺以外の酸味を感じるが、それが何なのか。
エギエディルス皇子はチビチビ飲み、眉をひそめて真剣に悩んでいる。
「イベール。何だと思う?」
そんな弟を横目に見ながら、向かいに座るイベールに問う王。
もちろん、ベリー2の事ではない。お前は自分のカクテルを当ててみろ、って事らしい。この表情からして、自分は分かっているに違いない。
「ホワイト・ラム……後は……」
イベールは無表情を崩さないが、小さく小さく眉を寄せた。
テイスティングしながら、彼なりに悩んでいる。
「この舌にくるキレ……」
試され真剣にティスティングしている様だった。
「ブラックベリーと……何だ? あっ、ククベリーだ。ククベリー!! それとレモンだな!?」
そんな中、重圧下ではない皇子は本当に楽しそうだ。
先にエギエディルス皇子が分かったのか、光り輝く笑顔で莉奈に向かって言った。
「ブーッ。残念~っ。レモンは入っておりませ~ん」
「うぇぇ~っ!? あっライムか!」
「だね~」
そうである。ライムが入っているから、微かに強い酸味を感じるけど、レモンは入っていない。
ブラックベリーとククベリー。それとハチミツとライムである。
ベリーが2種類入っているから "ベリー2" な訳だ。気付いてはなさそうだけど。
「クッソ~! ひっかかった~!!」
エギエディルス皇子は、実に悔しそうにガックリと肩を落とした。
別にひっかけた覚えは全然ないのだけど、色止めや香り付けでレモンを入れる事が多かったから、これも入っていると勘違いした様である。
「まぁ。ほぼ正解だから。ヤゲン軟骨をあげましょう」
皇子の前に焼き上がった、鶏ムネ軟骨を出した。
見た目は凹んだ2等辺三角形、ヤゲンという名の通り、薬草をゴリゴリ潰すヤゲンの形に似ている。
「ヤゲン軟骨?」
何だコレ? と首を傾げる。見た目は白い骨。だが、普通の骨より半透明で軟らかそうに見える。
「オイ?」
コンコンと空になった平皿を、指で叩くフェリクス王。
弟に先に渡すのはイイが、自分には何故ないのだと。
「イベールさんの答えが、まだですのでお待ち下さい」
莉奈はチラリと、悩んでいるイベールを見た。
そしてフェリクス王も見れば、イベールは途端に責任を感じ始めたのか、内心頬がピクリとひきつっていた。
知らない間に、一蓮托生にされていたからだ。
「うっま~っ!! 何だコレ。コリコリしてて旨っ……痛ぇっ!」
先に食べたエギエディルス皇子が、食べた感想を言うが早いか、フェリクス王の手が弟の頭をわし掴みにしていた。
たぶんだけど……先に食ってるんじゃねぇって事かな?
「イベール」
早く言えと、王の強烈な圧力が掛かった。
「……」
一瞬時を止めたイベール。
異様な緊張感と圧力が、空気を支配する。
アハハ。ただ、焼き鳥を食べるだけなのに大変だ。
莉奈はそんな様子を横目に強靭なメンタルで、焼きたてのヤゲン軟骨をコリコリと食べるのであった。
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